カルナバイオサイエンスについて
吉野公一郎氏(以下、吉野):カルナバイオサイエンス株式会社代表取締役社長の吉野です。最初に当社の概要について、15分程度ご説明します。その中で、パイプラインのうち導出活動を行っている「sofnobrutinib」についてもご説明します。
当社の概要についてです。すでにご存じの方も多いと思いますが、今回初めて視聴される方もいらっしゃると思いますので、簡単にご説明します。当社は創薬ベンチャーであり、大きな特徴として創薬支援事業を有しています。これは、もともと米国でバイオベンチャーが誕生した際に生まれたモデルです。
バイオベンチャーとは、なんらかの中核的な技術を持ち、それを基に創薬を目指すビジネスモデルです。この中核技術を活用してキャッシュを稼ぎながら、自らの創薬を進めていくことが、元来のモデルとなっています。
現在、米国では資金調達環境が非常に良いため、創薬支援事業を行っている会社はほとんど見られません。しかし日本では、必ずしも資金調達環境が良いとは言えない状況であるため、創薬支援事業が当社にとって非常に重要な力になっています。
当社は、キナーゼという重要なターゲットを主として創薬活動を行っています。体内には約500種類のキナーゼが存在し、それらを多数作製し活用することで創薬支援事業を展開しています。この事業を通じて、国内外の大手製薬企業や大規模なベンチャー企業に製品やサービスを提供しています。
コーポレートストーリー
吉野:当社は2003年に創業し、2008年に上場しました。そこを起点として創薬研究を強化し、2010年頃から本格的に創薬研究を開始しました。その成果が徐々に現れ、2015年以降は大手製薬企業やバイオベンチャーへのパイプライン導出を実現しています。
現在、臨床開発段階にあるパイプラインが3件あり、BTK阻害薬が2件、CDC7阻害薬というがん治療薬が1件となっています。当社は今後、これらの臨床試験を進め、最終的には大手製薬企業に導出することで、全世界で当社の薬が使用されることを目指しています。
新薬開発のプロセスと収益化までの構造
吉野:新薬の研究開発には多額の費用がかかります。初期の研究室で薬を探索している段階ではそれほど費用はかかりませんが、フェーズが進み臨床試験の準備に入る段階になると、急激に費用が増加します。
特に、薬に使用する化合物を大量に作る必要があり、そこに予想以上の費用がかかります。また、化合物をカプセルや錠剤の形状にする段階でも、当社が想定していた以上の費用が発生しています。
いよいよ臨床試験に入り、フェーズ1、フェーズ2、フェーズ3と進みます。フェーズ1では少人数の健常者や患者さまに薬を投与して安全性を確認します。この段階も費用はかかりますが、対象者が少ないため、それほど大きな出費にはなりません。
しかし、さらにフェーズが進むにつれ、より多くの患者さまに薬を投与する必要が出てくるため、出費が格段に増加します。当社は現在まさにその段階にあり、大きな資金を必要とする状況にあります。
ただし、このプロセスを経てライセンスが取得され、薬が上市されると、ロイヤリティやマイルストーン収入が発生し、一気に大きな成長を遂げることができるのがバイオベンチャーのビジネスモデルです。
創薬ベンチャーの収益モデル
吉野:特に導出について、以前はフェーズ1やその直前の段階で、早期に導出することが可能な時代がありました。当時は、大手製薬企業がバイオベンチャーから薬を積極的に購入する流れがあり、その中で当社も比較的早い段階で薬を導出してきました。
早期導出は対価が少なくなる一方、比較的容易に実現できる特徴がありました。しかし、近年は状況が大きく変化しています。特に中国では臨床試験が非常に容易になり、多くの資金が流入したことで進行が加速しています。
この影響で、約10年前から中国に多数のバイオベンチャーが設立され、そのような企業が迅速に臨床試験を進めた結果、現在ではフェーズ2試験が終了した段階で、メガファーマに導出される事例が増加しています。
現在、ライセンスディールの3分の1は中国製の薬によって占められ、この傾向はますます加速しています。
そのため、当社におけるフェーズ1の段階では、以前のように十分なデータが揃った状態で進められていたものの、現在ではメガファーマの要求水準が上昇し、「フェーズ2ぐらいのデータを見たい」と指摘を受ける状況が非常に増えています。
創薬ベンチャーの企業価値
吉野:バイオベンチャーの価値は、先行投資型で、収益を生み出しているわけではないため、パイプラインそのものの価値が評価されます。この価値を算定するのは、証券会社やファンドのアナリストです。
しかし、日本ではそのような評価を行う方がほとんどおらず、各企業についてフェアバリュー(公正価値)が十分に算定されていないのが現状です。当社としても、パイプラインの内容には相当な自信を持っていますが、それが株価には十分に反映されていないと認識しています。
当社の事業概要及び業績動向
吉野:当社の大きな特徴は、創薬支援事業を有している点です。スライド左側の売上高推移のグラフをご覧いただくとおわかりいただけると思いますが、棒グラフの薄い青色部分が創薬支援事業から得た売上、濃い青色部分がライセンス収益で、2017年以降、これまでに約120億円を自力で調達しています。
スライド右側の営業費用はトータルで約200億円強となっていますが、その残り約100億円を株式市場から調達してきた結果、これほど自力で資金を調達しているバイオベンチャーは日本では数少なく、当社はその1社であると考えています。
当社は創薬研究を行っており、全社で役職員を合わせて約80名が在籍しています。当社の非常に大きな強みは、人材が多く集まっている点です。特に、博士号を持つ人員が25名ほど在籍しており、役職員の約3分の1が博士号を保有しています。これはバイオベンチャーの中でも非常に突出していると考えています。
現在の臨床試験等の状況
吉野:今、臨床試験を行っているのはスライドにある3件です。
「docirbrutinib」というBTK阻害剤はリンパ腫の薬です。「sofnobrutinib」というBTK阻害剤は、免疫・炎症疾患をターゲットにしています。「monzosertib」は、CDC7というキナーゼを阻害する薬で、現在、白血病(AML)をターゲットにしています。
当社のもう1つの大きな特徴は、全米トップレベルの機関であるMDアンダーソンがんセンターの先生が臨床試験を率いている点です。
「docirbrutinib」についてはNitin Jain医師が担当し、「monzosertib」については白血病科のAbhishek Maiti医師が医師主導治験を行いたいと手を挙げてくださいました。昨日IRを行い、正式な契約を締結し、間もなく患者さまへの投与が始まる段階に至っています。
「docirbrutinib」と「monzosertib」については、後ほど有村が対談形式でご説明します。
臨床開発段階のパイプライン②:sofnobrutinib(AS-0871)
吉野:「sofnobrutinib」については、私から現在の状況を説明します。「sofnobrutinib」は特にBTKというキナーゼを抑制し、免疫細胞による抗体の産生を抑える薬で、抗体が異常に多量に産生されることで発症する疾病に効果的です。
当初、当社が最も関心を持っていたのは慢性特発性蕁麻疹でした。しかし、今年1月にJ.P.モルガン・ヘルスケア・カンファレンスでさまざまな企業と面談した際、この薬のプロファイリングから腎疾患にも効果が期待できるのではないかという関心が寄せられました。
その後、当社内で再度詳しく精査した結果、「sofnobrutinib」はさまざまな腎疾患にも効果を発揮する可能性が高いという確信を得るに至りました。
原発性膜性腎症(pMN)
吉野:特にその中でも、原発性膜性腎症という疾病があります。この病気は、腎臓の表面に出ているタンパクに対して抗体が異常に産生され、それにより腎臓が攻撃されて腎炎が発症するものです。比較的若い方にも多く見られる病気とされています。
患者数に関しては、スライド右側に記載されています。先進国では米国に3万人程度、特に中国では非常に多く、約140万人もの患者がいるとされています。この病気に対して「BTK阻害薬」が非常によく効くことが、徐々に他社の事例から明らかになってきました。
臨床開発段階のパイプライン②:sofnobrutinib(AS-0871)
吉野:私たちが非常に驚いたことがあります。それは、当社が腎臓に注目してさまざまな資料を準備し、多くの企業とライセンス交渉を進め始めていた時の話です。
今年6月、中国のEverest Medicinesが持つBTK阻害剤「civorebrutinib」が、中国で臨床試験を実施し、フェーズ2試験で非常に良いデータが得られたことを受け、米国のTravere Therapeuticsにライセンスアウトされたというものです。
フェーズ2試験の結果をもとにライセンスアウトが実施され、契約一時金は約160億円、マイルストーンの総額は1,000億円を超えるという非常に大型のディールとなりました。
その後、6月下旬に米国のバイオ関連企業と面談を行ったところ、BTK阻害剤の腎疾患への適応に興味を示す会社が多く、多数の企業と意見交換を行いました。
臨床開発段階のパイプライン②:sofnobrutinib(AS-0871)
吉野:「sofnobrutinib」が原発性膜性腎症にどれほど有効である可能性があるかという点についてご説明しました。抗体をよく抑制すること、動物モデルでの効果が高いこと、フェーズ1試験でも安全性が高いという点を訴求した結果、秘密保持契約下で評価を進めている企業が複数あります。
一方で、大変興味を示した企業の中には、追加の臨床試験データを求める声もありました。こうした意見を踏まえ、引き続き導出活動を進めていきます。以上で、私のご説明を終了します。
関本圭吾氏(以下、関本):それでは、ここからは私との対談形式で進めたいと思います。前回2月に吉野さんと1対1で対談しましたが、本日は有村さんにもお越しいただき、ありがとうございます。
ぜひご経歴や、どのような点をお聞きしていくべきかというところからスタートできればと思います。はじめに、どのようなご経歴で、チーフデベロップメントオフィサーとしてどのような業務を行っているのか、お聞かせいただけますか?
有村昭典氏(以下、有村):取締役チーフデベロップメントオフィサーの有村です。前職では入社後約19年間、創薬研究所の薬理部門に所属し、主に探索研究に携わってきました。
その後、以前から興味のあった臨床開発部に異動し、約11年間、グローバルプロジェクトリーダーとして開発戦略の策定や臨床試験の計画立案など戦略的な業務に携わりました。その後、カルナバイオサイエンスに入社し、すでに8年が経過しました。
私に課せられたミッションは、当社の研究所で創製された化合物の価値を最大化し、ライセンス契約や業務提携につなげることです。限られたリソースの中で、臨床試験を速やかに実施し、臨床効果を実証することにフォーカスして日々業務を行っています。
具体的には、戦略的な業務だけではなく、実務的な業務も非常に多岐にわたります。例えば、CROの選定、進捗の管理、データの分析、ドクターとのディスカッション、学会発表など、開発に関するあらゆる業務を遂行しています。
治験に必要な非臨床試験や毒性試験もカバーしています。また、治験薬の製造についても私が担当しています。
関本:つまり、開発の最前線に立たれているとのことですね。
次におうかがいしたいのですが、ご経歴がとても興味深いと思います。大手製薬会社と比較してバイオベンチャーでの業務はかなり違う部分があるのかと思いますが、前職とどのように違うのかについて、うかがいたいです。
有村:大手製薬会社とバイオベンチャーの違いとして、仕事の進め方や個々に求められる役割が異なると感じています。大手製薬会社では各分野に専門家がいて、各自その専門性を発揮しながらプロジェクトを進めていくかたちを取ります。
各個人は専門領域を深掘りして専門性を高め、専門家として成長していくスキームがあると思います。また、大手では意思決定に関係する方が非常に多いため、決定に時間がかかり、また慎重かつ着実に進めることが求められると考えています。
一方、ベンチャー企業はスピードを重視しており、リソースや人員が限られているため、1人で複数の役割をこなさなければなりません。
そのため、まず行動することを心がけ、課題が見つかればその都度解決し、方向性が間違っていれば速やかに軌道修正を行い、専門性が不足している部分はコンサルタント等と相談しながら進めています。
このように、いわゆる典型的なベンチャーの進め方で対応しています。人数が少ないことから、意思決定が非常に迅速で、それにかかる時間や労力が少ない点はベンチャーの強みであると思います。
資金面については、大手製薬会社が長期的なスパンで投資の判断をすることが可能であるのに対し、ベンチャーでは限られたリソースの中で、どのプロジェクトに最優先で投資するかを手元資金に応じて都度判断します。この点が、大手とベンチャーの大きな違いであると考えます。
さらに、投資家や株主からお預かりした資金を有効に活用し、企業価値を高める意識をこれまで以上に高く持たなければならないと感じています。
関本:ここまでがイントロダクション的な部分ですが、次からは御社についてうかがえればと思います。
隣に吉野社長がいらっしゃるので言いにくい点もあるかもしれませんが、実際に他社にいらっしゃった方として、御社の体制がどの程度整備されているかを教えていただけるとありがたいです。
私は専門知識があまりないため、「ここが足りていない」「でも、ここは他のバイオベンチャーと比べて優れている」などについて、ぜひ現場の視点をうかがえたらと思いますが、いかがでしょうか?
有村:このようなベンチャー企業は、大企業のようにすべての機能を社内で持つことは現実的ではないと考えています。そのため、CROやコンサルタントに業務を委託してプロジェクトを進めることになりますが、すべてを委託してカバーできるわけではありません。
例えば、治験ドクターとのネットワーク構築やKOL(Key Opinion Leader)の先生方とのネットワーク構築などは、CROではなかなかカバーできない部分があります。
実際に我々は米国で「docirbrutinib」の臨床試験を行っていますが、当初は治験に参加していただける先生を見つけるのに非常に苦労した経験があります。
そこで、当社のチーフサイエンティフィックオフィサーである澤と私でMDアンダーソンがんセンターを何度か訪問し、コアな先生であるNitin Jain医師に当社の化合物のプロファイルを繰り返しご紹介することで、なんとか興味を持っていただけるようお話ししました。
その結果、ようやくNitin Jain医師にもご参加いただけることになり、その後はNitin Jain医師の人脈を通じて多くの先生方にご参加いただけるようになり、現在の実施体制が出来上がったかたちになります。
振り返ると、米国でまったく人脈のないベンチャー企業が臨床試験を行うのは非常にチャレンジングなことであると感じています。ただ、一度化合物に興味を持っていただき、人脈が広がってくると、このような体制も構築可能であると現在では実感しています。
会社としても、これは非常に大きな財産になると考えています。その意味では、一定のご評価をいただけるのではないかと思います。
関本:日本のバイオベンチャーが米国でネットワークを構築し、実際に治験を進められている点は、有村さんの外部視点から見ても、しっかりと取り組めている会社であるということですね。
続いて、治験の現場に関する質問です。治験には非常に多くの費用がかかりますが、具体的にどこに費用がかかるのか、なぜこれほどの資金が必要なのかという点についてお聞きしたいです。
費用面について、実際にどのような項目があり、それぞれをどう差配されているのか、また見通しについてどうお考えでしょうか?
有村:臨床試験の費用は主に3つの項目に分類されます。1つ目はCROへの支払い費用、2つ目は治験を実施していただいている医療機関に支払う費用、そして3つ目は治験に必要な薬剤の製造費用です。これらが大きな費用となっています。
CROについて、彼らは患者さまの募集や登録だけでなく、臨床試験を開始するために医療機関との交渉やさまざまな準備を行い、得られたデータの管理も担当しています。特に重要なのは、安全性情報の収集や当局への報告で、これらを我々自身で行うことは困難です。
また、GCPという非常に厳しい基準のもとで品質を担保する業務も担っていただいており、我々にとって非常に頼もしいパートナーとして仕事を進めています。
これに加え、医療機関に関する費用ですが、通常診療以上に非常に精密な検査を2ヶ月に一度などの頻度で実施するため、相当な費用がかかります。
病院の先生方だけでなく、リサーチナースと呼ばれる看護師や薬剤師など、さまざまなスタッフの人件費をお支払いする必要があり、これが費用の一部となります。
また、治験薬についてはGMPという非常に厳しい基準の下で製造し、安定性や品質保証も行わなければなりません。そのため、開発の初期段階から相当な投資が必要になります。
今後の見通しについて、治験が進む中で資金が増加する可能性もありますが、当社はベンチャー企業であるため、基本的には限られた資金の中で運用していく方針です。
したがって、どのプロジェクトに投資することが最も価値の創出につながるかを考え、提携やライセンス交渉などを含め、開発資金の調達にも積極的に取り組んでいます。これにより、持続可能なかたちで事業を進められるよう努めています。
関本:非常に具体的にご説明いただけると、確かに患者さまの数が増えることで費用がどんどん拡大していく状況がイメージできるかと思います。
ここまでの内容を踏まえて、パイプラインの話についてうかがえればと思います。先ほど吉野さまから紹介のあった「docirbrutinib」と「monzosertib」という2薬については話題が増えているようです。
このあたりの治験の進捗や、現場にいらっしゃる方として患者さまやドクターからどのようなお声が届いているのか、現状についてご意見やお考えをお聞かせいただければと思います。
EHA2026発表:エグゼクティブ・サマリー
有村:「docirbrutinib」のデータをご紹介します。スライドは、今年6月にヨーロッパの血液学会である「EHA2026」で発表した内容のご紹介になります。
特徴的なのは、安全性に関する点です。因果関係があるグレード3以上の有害事象は10パーセントと非常に低く、他社の競合品と比較しても圧倒的に低い数字です。これにより、安全性が非常に高いことは間違いないと思います。
有効性については、CLL/SLLやMantle Cell Lymphoma(MCL)、Waldenström’s macroglobulinemia(WM)などの患者さまで非常に良好な奏効率を示していることが確認されています。
EHA2026発表:フェーズ1b試験途中結果 安全性の評価
有村:スライドは安全性データに関するものです。因果関係のあるグレード3以上の割合は10パーセントです。
EHA2026発表:フェーズ1b試験途中結果 有効性の評価:CLL/SLL
有村:スライドは、CLL/SLLの有効性に関するデータです。詳細で恐縮ですが、横棒で表された図は、いわゆるスイマーズプロットと呼ばれるもので、1本1本が患者さまの投与期間を示しています。
スライド右側の図はウォーターフォールプロットといい、腫瘍の縮小率を示しています。下向きの棒が多いということは、腫瘍の縮小に向かっていることを意味しており、この図を見るだけでもすべての患者さまで縮小していることが確認できることがわかると思います。
スイマーズプロットでは、上から順番に100ミリグラムBID(1日2回投与)から500ミリグラムBIDまでの用量ごとに線を引いています。特に我々は、300ミリグラムから400ミリグラムが臨床用量ではないかと予測し、300ミリグラムと400ミリグラムのレスポンスについて詳細に分析しました。
その結果、300ミリグラムよりも400ミリグラムのほうがレスポンスは非常に高いことがわかりました。図の見え方がやや複雑ですが、黄色がStable Disease(安定)を表し、緑色がPartial Response(部分奏功)を示しています。
奏効ありと判断する緑色のマークに変わるタイミング、つまり奏効するタイミングが300ミリグラムに比べて400ミリグラムの方が早いことがわかりました。
1回目、すなわち2サイクル投与後に奏効している症例が非常に多いという結果から、やはり400ミリグラムのほうが300ミリグラムよりも効果が高いと判断しました。そのため、我々は暫定的に400ミリグラムBIDを次の第2相臨床試験の用量として暫定的に選定しました。
この患者さまの中には、さまざまな前治療歴を持ち、非常にヘビーに投与された方が多くいらっしゃいます。cBTKiとBCL-2阻害剤である「ベネトクラクス」という2つの前治療を受けた患者さまは、予後が非常に悪く、アンメットニーズの高いポピュレーションとされています。
このような患者さまに対し、86パーセントの効果が得られています。この86パーセントという数字は、競合他社のデータと比較してもまったく遜色がなく、非常にエンカレッジングなデータであると考えています。
EHA2026発表:フェーズ1b試験途中結果 有効性の評価:NHL
有村:1本のプロトコルの中では、ほかのNon-Hodgkin Lymphomaの患者さまにもエントリーしていただいています。その中で、MCLとWMといった疾患の患者さまにおいても非常に高い奏効率を示しています。
特に、MCLでは奏効率が100パーセントで、7名中7名の患者さますべてがレスポンスを示し、その中で3名は完全奏効、つまりコンプリートなレスポンスを示していることが確認されました。
WMについては、4名の患者さまにエントリーいただき、4名すべてがレスポンスを示し、非常に高い奏効率を示しています。
特に我々は、アンメットニーズの高いMCLに注力しており、現在、このコホートではMCLの患者さまを中心に登録を進めている状況です。
反響について、今回のEHAをはじめ、米国の血液学会などで複数回これまでに発表を行っており、すべての発表をNitin Jain医師がファーストオーサーとして行っていただいていました。
最近では、他の先生方からも「私にも発表する機会を与えてほしい」との要望が届いており、臨床データに関心を寄せていただいています。この点については、非常に感謝しています。
実際にこの治験に参加されている患者さまは、標準治療がすでに無効など、治療の選択肢が限られている方がほとんどです。
先生方も、そのような患者さまで効果が見られた際には非常に喜ばれ、直接メールで私にご連絡いただくことや、「治験に参加させてくれてありがとう」という感謝のメールが届くこともありました。そのため、現場でもこの化合物に対する期待が非常に高いと感じています。
また、長期投与を受けている患者さまが多くいらっしゃり、2年や3年にわたって投与を続けている方もいます。その中には、州をまたいで引っ越しされる方もいらっしゃいます。
その場合、これまで通院していた病院ではなく新たな病院に通うか、あるいは飛行機で元の病院に通うという選択が必要となりますが、それでもなお継続を希望される患者さまもおり、私たちはそのサポートを行っています。
このように、ドクターに限らず患者さまやそのご家族にも、この新しい治療に大きな期待を寄せていただいていることに、感謝申し上げる次第です。
関本:非常にリアルな患者さまやドクターの声が聞けるため、大変興味深いと思っています。「monzosertib」についても、よろしければお願いします。
臨床開発段階のパイプライン③:monzosertib(AS-0141)
有村:「monzosertib」は先ほど吉野が少しお話ししましたように、昨年のAACRで発表した当社研究所の成果です。「アザシチジン」と「ベネトクラクス」を併用することで、抗腫瘍効果がシナジスティックに得られるという発表を行いました。
その発表を見たAbhishek Maiti医師がわざわざポスターまで足を運んでくださり、「ぜひ医師主導治験をやらせてください」ということでオファーをいただきました。
それ以来、準備を進めてきましたが、昨日ようやく契約を締結し、治験を開始できる段階に至りました。すでに候補となる患者さまも多くいらっしゃるようですので、近々投与が始まると考えています。
関本:基本的な質問で恐縮ですが、この医師主導治験と「docirbrutinib」の治験は、内容が異なるものなのでしょうか?
有村:企業治験と医師主導治験の2つがありますが、医師主導治験にはコストを抑えられるというメリットがあります。また、医師が主導して治験を行うため、被験者のエントリーも企業治験に比べ、非常にスピードが速いという利点もあります。
また、我々としては、自社で企業治験を実施する場合、一定のリスクを取る必要があります。しかし、医師主導治験のデータを活用して、次のステップとして承認申請のための企業治験を実施することが可能になります。
このように、医師主導治験はリスクヘッジの観点からも非常に有効なシステムだと考えています。
関本:つまり、お医者さまが「ぜひやらせてほしい」と言って実現するものということですね。
有村:おっしゃるとおりです。Abhishek Maiti医師はもともとCDC7阻害に非常に興味をお持ちの先生で、基礎研究の段階からずっと関心を寄せていましたので、特に思い入れが強かったのではないかと思います。
関本:資金調達の件について、吉野さまにお話をうかがいたいと思います。9月に実施されたファイナンスについてお話しします。先月発表された内容になりますが、2月にもファイナンスを実施され、その際は私が対応したことを覚えています。
「またか」という意見もあるかと思いますが、その背景や考え方についてお聞かせいただければと思います。いかがでしょうか?
吉野:2月のファイナンス(新株予約権の発行)は、第1回新株予約権付社債を買入消却および第2回無担保普通社債を償還することが資金使途の主な部分を占めていました。
これを消却・償還し、さらに残った分を手元資金として調達できるというスキームです。ただ、残念ながら株価が一時的に低迷していたため、償還に至っていませんでした。
しかしながら、手元資金が徐々に減少しており、そのままでは臨床試験のスピードを落とさざるを得ない状況になる可能性があったため、臨床試験を優先的に進めるべく、今回新たに資金調達を行いました。
関本:前回のスキームに対応するかたちでの資金調達ということでしたが、株価の動きについては、発表後一度下落し、現在は回復している印象を受けます。その過程で行使が進まない状況が背景にあるのだと思います。
吉野:おっしゃるとおりです。
関本:本ファイナンスは希薄化を伴う性質上、評価が難しい側面がありますが、私個人としては、かなり配慮されたかたちの資金調達だと思っています。
特に、前回のムービング・ストライク型、修正価格条項付きの調達とは異なり、今回は一定の価格を設定した上で「ここで行使されます」という内容で発表されました。この姿勢を明確に示した点は評価すべきだと思います。
また、これを請け負った投資家の中には著名な方もいらっしゃり、既存の大株主への第三者割当増資として実施されたため、一時的にキャッシュフローが確保されるかたちとなり、希薄化や売り圧力を考慮すると悪くない設計だったのではないかと思います。
このファイナンスの経緯や設計の意図について、お聞かせいただけますでしょうか?
吉野:通常、バイオベンチャー企業で行われる資金調達は、ほとんどの場合、修正価格条項付きの新株予約権、ムービング・ストライク型の新株予約権を用いたものです。
結果的に、下限行使価格まで株価が下がり、売り圧力が高まることで株価が大幅に下落するケースが多く見受けられます。当社としては、このような状況はぜひとも避けたいとの思いから、第三者割当増資や転換社債などを目指してきました。
ただし、このようなスキームは投資家に大きなリスクを伴うため、引き受けてもらうのは非常に難しいのが現状です。
しかし幸いにも、当社の場合はキャンターフィッツジェラルド証券と密に連携を取っており、当社の状況を彼らがアナリストを通じて詳細に把握してくれているなど、進捗状況や必要資金をよく見てくれています。
今回も「それでは資金調達に応じましょう」というかたちで応じていただきました。
それに加えて、五味さまが、大量保有報告書を提出されており、昨年12月に当社の大株主となってくださいました。
もともとネクセラファーマなどへのバイオベンチャー投資に熱心でいらっしゃり、四半期ごとに当社の状況をお伝えしていました。
上期の決算状況についてWebベースでご説明したところ、進捗をご理解いただき、さらに当社の手元資金の状況について「ちょっと少ないのではないかと心配している」とお話しくださいました。
当社側から「追加の資金を出してください」とはなかなか申し上げにくい状況ではありましたが、「少し出しましょうか」とお答えいただき、結果として一挙に7億円の資金を投入していただく運びとなりました。このご支援に対して、非常に感謝しています。
五味さまの強い思いとして、日本のバイオベンチャーを何とかしなければならないという熱意があります。その熱意から、ネクセラファーマやオンコリスバイオファーマにも資金を注いでいて、特にオンコリスバイオファーマは、最近その期待に見事応えている状況です。
「テロメライシン」が認可され、株価が現在高騰しています。バイオセクターの時価総額で言えば、ジーエヌアイグループが第1位、オンコリスバイオファーマが第2位となり、2,000億円を超える時価総額を達成しました。
このような状況を当社にも実現してほしいというのが、五味さまの思いではないかと感じており、私たちもさらに努力を重ねていかなければならないと考えています。
質疑応答:「docirbrutinib」の有効性と安全性、および観察期間における課題について
向井沙耶氏(以下、向井):「導出について、『docirbrutinib』は現在、製薬企業との交渉の中で『もう少し見たい』と言われている部分があるとすれば、それはどのようなデータでしょうか?
『pirtobrutinib』の既治療患者でのデータを含め、差し支えない範囲で教えていただけるとありがたいです」というご質問です。
有村:有効性や安全性のデータとしては、他社の競合品と比較しても遜色なく、むしろ安全性に関しては優位性が確認されているという評価をいただいています。
ただ、症例数がまだ少ないことと、観察期間が短いことが話題となることもあります。これはデータが少し未熟であるとの指摘と理解していますが、投与を開始してからの期間が長くなるほどレスポンスが良くなる傾向がありますので、引き続き、データをアップデートしていきます。
質疑応答:BTK阻害薬と他剤の併用療法の効果と今後の展望について
向井:「CLLでは最近、BTK阻害薬と『ベネトクラクス』を組み合わせた時限療法が大きなトレンドになっているかと思います。『docirbrutinib』と『ベネトクラクス』の併用療法の可能性について見解をお聞きしたいです」というご質問です。
有村:一般に、BTK阻害薬と「ベネトクラクス」というBCL-2阻害剤との併用が非常に優れた効果を示すことがわかっています。これは「ベネトクラクス」を併用すると、腫瘍の細胞死、すなわちアポトーシスを強く誘導するからです。
最近、MRD(微小残存病変)という、血液中にがん細胞がどれくらいいるのかを評価する方法が最近確立されてきました。この方法で評価した場合、ベネトクラクスとの併用治療により、がん細胞はほぼゼロ、すなわち限りなく検出限界以下まで減少します。
その結果、根治とは言えないものの、かなり根治に近い状態になるため、投与や治療をいったん中止することが可能となります。例えば、1年ほど投与を行い、MRDで評価した結果、微小残存病変がなければしばらく治療を休止することができます。
この場合、患者さまは治療のために病院へ通う必要がなくなり、クオリティ・オブ・ライフが大いに向上します。そのため、患者さまからも喜ばれています。
ただ、「ベネトクラクス」という薬と併用する場合、それなりの副作用が生じることもあります。そのため、副作用を我慢して1年間しっかり投与した後に無治療の生活を送るか、副作用が少ない薬を長期間服用し続けるかは、患者さまの選択肢となります。
我々としては、「ベネトクラクス」との併用も視野に入れ、そうした選択肢を増やすことで、患者さまのニーズに応えられるようにしたいと考えています。
質疑応答:事業開発における導出方針と現状のパイプラインに関する取り組みについて
向井:「今年7月にチーフビジネスデベロップメントオフィサーを設置されたとのことですが、これまでのパートナリング活動と比べて、具体的に変わったことを教えていただきたいです。
導入を早めることを重視しているか、それともより良い条件を引き出すことを重視しているのか、その狙いを教えてください」というご質問です。
吉野:栗原(チーフビジネスデベロップメントオフィサー)は第一三共で事業開発の責任者を務めており、事業開発に関するさまざまな哲学や考えを持っており、「パイプラインは、会社に最もバリューを与えるものは何なのかということを大切にして、しっかりやりましょう」と最初に話してくれました。
当初は、株主からの大きな期待に応えるため、早急に導出を進める中で、それなりの対価で導出を行うことや、財務基盤が弱い会社にも導出を行い、その会社が倒産するという事態も発生しました。
しかし、会社価値を最大化するためには、信頼性の高い会社が確実に臨床試験を実施することを見極めつつ、良い条件で投資することが重要だという考えです。「でも、ズルズルやっては駄目ですよ。一生懸命やって駄目だったらスパッと諦めるということも重要ですよ」とも、栗原から聞いています。
ただし、現在保有している3件のパイプラインについては、取り組む余地が十分にあると考えており、現在、一生懸命取り組んでいます。なお、「いつ導出するのか」というご質問をよくいただきますが、これに関しては我々自身もまだ明確な答えを持ち合わせていません。
現在、「sofnobrutinib」については秘密保持契約の下で評価を進めてくれている会社があり、その結果としてタームシートが出され、対価が提示されることとなります。
それが我々にとって十分に満足のいく内容であれば、速やかに進めますが、もし期待よりも遥かに低いものであれば、さらに交渉を重ねていく予定です。交渉を続けている会社がありますので、良い条件がいつ提示されるかわからないため、時期については不明です。
吉野氏からのご挨拶
吉野:当社は今回、資金調達を行うことができました。また、チーフビジネスデベロップメントオフィサーが加入し、有村やチーフメディカルオフィサーである吉田も加わり、体制が大幅に強化されました。引き続き、さらに努力していきます。
早くみなさまに吉報をお届けしたいと考えています。患者さまの声を聞くたびに、「これは早く薬にしなくてはいけないな」と責任を強く感じています。
有村氏からのご挨拶
有村:私たちは株主さまならびに投資家さまからお預かりした資金を有効に活用し、企業価値を高める責任を負っています。それに加えて、患者さまに早く良い薬を届けたいという思いもありますので、どちらも達成できるように努力していきます。引き続き、ご支援を賜りますよう、よろしくお願いします。