■中長期の成長戦略
3. AI事業の成長戦略
AI事業では、既存顧客に対するアップセルやクロスセルによって顧客単価の向上を図るとともに、新たな業界・領域への展開による市場拡大を進める方針である。社会インフラ分野では顧客との信頼関係の構築に時間を要する一方、一度導入されると追加案件や保守契約につながりやすい特徴がある。このため、既存案件で培った知見や実績を活用しながら、顧客企業内における適用業務の拡大を進め、顧客生涯価値(CLTV)の向上を目指している。
また、電力分野では送配電や設備停止計画などへの展開を進めている。さらに、製造・運輸分野では海運、航空、自動車分野へ、都市・交通分野では鉄道周辺領域へと適用範囲を広げることで、グリッドが取り込める対象市場(TAM)の拡大を図る考えである。
(1)技術戦略
同社は中期的に、技術とサービスの高度化を通じて、AI技術の活用範囲を個別業務の効率化から部署全体の業務改革、さらには社会インフラの自律運用へと広げることを目指している。
生成AIについては、2026年1月に業界特化型生成AI「GeNom(ジェノム)」の提供を開始した。第1弾となる「GeNom for Energy」は、日本の電力制度に関する膨大な情報を学習しており、利用者からの自然言語による問い合わせに対応するサービスである。今後は他業界への展開も視野に入れる。
量子技術については、社会インフラ分野で求められる高度な最適化ニーズへの対応を見据え、産業応用に向けた研究開発を進めている。自動車分野では、トヨタ自動車と量子機械学習分野で共同研究を行うとともに、量子コンピュータとスーパーコンピュータを連携させる研究開発プロジェクト「JHPC-quantum」のテストユーザーとして、大規模な組み合わせ最適化の実証に取り組んでいる。一方、電力分野では、(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として、電気通信大学と量子・古典ハイブリッド技術を活用し、分散する発電設備や蓄電池などを一体制御するVPP(仮想発電所)の需給調整最適化を研究している。こうした取り組みを通じて、電力の安定供給とリスク抑制を両立する技術を開発しており、量子技術の実用化に向けた知見を蓄積している。トヨタ自動車との共同研究やNEDO関連プロジェクトへの参画は、同社の技術力や研究開発力の高さを示す事例として注目される。
(2)人材戦略
AI事業の成長には、AI技術、数理最適化技術、システム開発に加え、電力や物流などの顧客業務を深く理解する人材の確保が不可欠である。
このため同社は、社会インフラ分野出身のエンジニアを積極採用する体制を構築するとともに、案件創出を担う営業・コンサルティング人材の拡充も進めている。案件獲得から開発、運用までを一貫して提供できる体制を強化することで、中長期的な成長につなげる考えである。
(3)M&A及び資本業務提携
同社は、AI事業における非連続な成長と事業シナジーの創出に向けて、M&A及び資本業務提携を戦略的に推進する方針である。強みとするAIエンジン開発に加え、コンサルティング、システム開発、運用・保守といった前後の領域の機能を拡充することで、AI導入の企画段階から運用フェーズまでを一貫して支援できる体制の強化を目指している。
曽我部社長を中心とするタスクフォースにおいて、案件の発掘と候補先の選定を進めており、特にコンサルティングとシステム実装・運用支援の強化につながる企業との接点拡大に注力している。今後はバリューチェーン全体の機能を強化し、提供価値と顧客基盤の拡大を図る方針である。
4. インフラアセット事業の成長戦略
インフラアセット事業では、系統用蓄電所の用地選定、系統接続、設計・開発、売却を一貫して手掛けるとともに、運用支援まで事業領域を広げる方針である。これまで高圧案件で蓄積した知見を生かし、今後は数十MW級の特別高圧案件へ展開する。既に特別高圧案件を含む複数の開発権利を保有しており、順次事業化を進め、2028年6月期以降の開発規模拡大を目指している。もっとも、案件の大型化に伴い、開発期間の長期化や資材価格の上昇、許認可手続きの遅延などによる業績変動リスクも高まる。
運用段階では、前述のとおり、AIを活用した充放電計画の最適化と蓄電所売却後の運用支援により継続収益の獲得を目指すほか、自社保有モデルについても、企業価値と資本効率の向上を両立できるかを見極めながら選択肢として検討している。
また、蓄電所開発で培った用地開発や電力インフラに関するノウハウとAI最適化技術を組み合わせ、データセンター関連事業への展開も視野に入れている。まずはデータセンター開発への参入を進め、次いで電力コストを最適化するエネルギーマネジメントサービスを展開し、将来的には同様の仕組みを各種産業へ拡大していく構想である。AIとインフラアセットの融合を通じて、電力需要の増加や再生可能エネルギーの導入拡大といった社会課題への対応を進めるとともに、中長期的な企業価値向上を目指している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 森本 展正)