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高等教育無償化の財源に?「教育国債」にひそむ日本の問題点=久保田博幸

自民党が、高等教育の無償化に必要な財源を確保するため「教育国債」の議論を始めるそうである。「誰もが希望すれば進学できる環境を」との安倍首相の訴えは理解できなくはない。しかし、財源の目処もないものについて国債を発行すれば良いという考え方はあまりに安易すぎる。(『牛さん熊さんの本日の債券』久保田博幸)

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日本は償還財源の当てなき「教育国債」を本当に発行していいのか

安倍首相、高等教育の無償化に意欲

2月8日の日経新聞によると、自民党大学などの教育に関する財政支援に必要な財源を確保するため「教育国債」の議論を近く始めるそうである。

安倍首相は1月の施政方針演説で「誰もが希望すれば高校にも専修学校、大学にも進学できる環境を整えなければならない」と述べ、高等教育の無償化に意欲を示した。教育無償化はもともと日本維新の会が改憲案の柱として掲げてきた。

出典:「教育国債」焦点に 自民、無償化財源へ検討 – 日本経済新聞(2017年2月8日)

ただし、

全国の大学・短大が学生から1年間に徴収する授業料総額は約3兆1000億円に上るという。
(中略)
大学に限っても巨額の財源が必要となる。
(中略)
麻生財務相は6日の衆院予算委員会で、教育国債について「償還財源の当てはない。実質は親世代が税負担や教育費から逃げるため、子どもに借金を回すものだ」と述べ、否定的な見解を示した。

出典:「教育国債」検討=償還財源がハードル-自民 – 時事ドットコム(2017年2月13日)

ここにはいくつかの大きな問題が潜んでいる。「誰もが希望すれば、高校にも、専修学校、大学にも進学できる環境を整えなければならない」との首相の訴えは理解できなくはないが、とにかく大学に行けば良いという考え方にそもそも問題はなかろうか。

これは国民の理解が得やすく、これをきっかけに憲法改正に持っていきたいとの意図も見え隠れし、日本維新の会と自民党の関係強化も狙いのようにみえる。このあたりの問題については、ここではひとまず置いて、その財源として浮上している「教育国債」にも大きな問題があると思われる。

Next: 償還財源の当てのない「教育国債」を乱発すると日本はどうなる?



償還財源の当てがない「教育国債」の問題点

そもそも財源の目処もないものについて国債を発行すれば良いという考え方が、あまりに安易すぎる。たしかにいまの日本の債券市場では、日銀が異常な量の国債を買い入れていることもあり、需給はかなりタイトとなっている。日本国債の利回りも日銀の長短金利操作によって低位に押さえつけられており、国債を発行しやすい環境にあることは確かである。

しかし、この環境そのものがすでに変化してきており、このような好環境が未来永劫続くと予想することの方が危険である。日銀もいずれは出口政策を議論せざるを得なくなる。

それでなくても2020年までのプライマリー・バランスの黒字化達成には赤信号が点滅している状況となっているところに、名称を変えたといえど国債を増発するには無理があろう

いまならば年間5兆円程度の国債を増発しても日本の債券市場での需給面では何ら問題はなく、いくらでも調整は利くだろうとの見方もあろうが、国債は打ち出の小槌ではない

市場がいくら安定していようが、市場参加者が日本国債に対するリスクを完全に忘れ去っているわけではない。国債を発行せずに、その分はあらたな税収で賄うものであれば話は別だが、償還財源の当てのない国債を発行することによって財源を補うという考え方は、やや安易な発想と指摘せざるを得ない。
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牛さん熊さんの本日の債券』2017年1月6日号より
※記事タイトル・リード文・本文見出しはMONEY VOICE編集部による

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