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日本株市場でどんどんと存在感を増す外国人投資家と公的資金

東京証券取引所は2014年度の「株式分布状況調査」を発表しました。これによると日本株の好調を支えていたのは外国人投資家と公的資金の買いだということがよくわかります。『プロの視点。今、乗るべき銘柄が見えてくる。』ではこの調査をさらに掘り下げ、気になるポイントについても解説しています。

日本株に大きな影響を与えていたのはやはり外国人投資家と公的資金!

東京証券取引所などによる、2014年度の株式分布状況調査が発表された。2014年度の全国4証券取引所上場会社(対象会社数:3,565社)の株主数合計は、前年度比8.3万人増加して4,713万人となった。このなかの97%を個人株主が占めており、個人株主数は6.7万人増加して4,582万人となった。個人株主数は、前年度の大幅な減少から、今年度は再び増加に転じている。新規株式公開(IPO)が活況で、個人株主を呼び込んだ形だ。少額投資非課税制度(NISA)を利用する投資家を意識して、株式分割などで最低投資金額を引き下げる企業も相次いだことも個人株主の増加につながったと見られている。

ただ、その中身をよく見てみると、日本株に大きな影響を表しているのは、外国人投資家と公的資金の買いであることが解る。外国人の株式保有比率は、前年度比プラス0.9ポイントの31.7%と3年連続の上昇となり、過去最高を更新した。投資部門別株式売買状況における差引き売買代金でみると、外国人投資家は2014年度に2兆5,247億円、日本株を買い越している。買い越しは2009年度以降6年連続となった。

信託銀行の株式保有比率は、前年度比プラス0.8ポイントの18.0%と2011年度以来3年ぶりの上昇となっている。投資部門別売買状況でも、信託銀行は2014年度の合計で3兆5,038億円の買い越しと2011年度以来3年ぶりの買い越しとなり、買越額も2008年度以来の6年ぶりの大きさになった。月別にみると、2014年5月から10ヵ月連続で信託銀行の買い越しが続いており、個人が大きく売り越している。また、外国法人などの買い越し幅が縮小する中で、今年度は信託銀行が最大の買い主体となっていたことがうかがえる。背景にあるのは、公的資金の買い支えだ。

海外投資家と日銀やGPIFが日本株を買い、個人投資家は利益確定を行った

日銀は2014年度に上場投資信託(ETF)を1兆7032億円買っているが、ETFの裏付けとなる株式は信託銀行が保有するため、統計上は信託銀行に含まれる。なお、公的年金の資産も信託財産として管理されるため、主として信託銀行名義となる。公的年金の積立金運用を行っている年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)では、中期計画における基本ポートフォリオの変更として、運用資産中の国内株式の割合を12%から25%に引き上げたことを公表している。

一方で、個人の投資部門別売買状況をみると、2014年度合計で6兆5,473億円の売り越しと、前年度に引き続き大幅な売り越しとなっている。個人の売り越しは、2009年度以降6年連続。月別にみると、2014年11月及び2015年2月が特に売り越し額が大きく、月間の売り越し額としては2014年11月が過去第2位、2015年2月が第5位となっており、株価が上昇するなかで、昨年に引き続き利益確定の売りが数多くあったと推測できる。株式保有比率は、前年度比マイナス1.4ポイントの17.3%と3年連続の低下しており、1999年度以来15年ぶりに過去最低を更新した。

日本株の保有比率では、トップは外国人投資家の31.7%、以下、信託銀行の18.0%、個人・その他の17.3%と続いており、外国人投資家や公的資金の存在感が高まっていることが解る。2014年秋の日銀の追加金融緩和とそれに伴う円安を好感し、海外の投資資金が日本株に流れ込み、日銀やGPIFが日本株を買って株価が上昇するなかで、個人投資家は利益確定の売りで対応したといえよう。

Next: 外国人株主の存在感が増すと何が変わって株価に影響を与えるのか?




外国人株主の存在感が増すと何が変わって株価に影響を与えるのか?

日本経済新聞の調査でも外国人株主の存在感が高まっていることが解る。日本経済新聞社が日経平均株価を構成する225社について2014年度末時点での持ち株比率を調査したところ、6割強の企業で外国人の持ち株比率が上昇していたことが解った。日経平均を構成する225社の3月末時点の株主構成で、225社のうち外国人の持ち株比率が上昇した企業は143社と64%にのぼった。下落したのは77社(34%)、変わらずは5社(2%)。個人株主の比率は14.3%と1.1ポイント低下した。結果として、全体では35.3%と半年前の調査より0.3ポイント上昇し、過去最高の水準となっている。

特にソニーにおける外国人株主の比率は56.6%と半年間で4ポイント増えて過去最高になった。2015年3月期までにパソコンからの撤退やテレビ事業の分社など事業の選択と集中終了させ、収益を生み出す体制を整えたことが評価されているようだ。実際に、株価は昨年9月末より9割近く高い水準で推移しており、時価総額はパナソニックや日立製作所を上回っている。

日本経済新聞によれば、配当など株主への還元を増やす企業も外国人の人気を集めているという。アマダは今期までの2年間、純利益の全額を配当と自社株買いに充てる方針を示し、外国人投資家の買いを集めた。配当水準が高い武田薬品やエーザイなど医薬品大手も外国人株主比率の上昇が目立っている。外国人投資家の資金の向かう先は外需だけではない。一部の内需株にも海外マネーの矛先は向かっている。足元の業績回復と東京五輪の開催による特需を期待して、大成建設、鹿島などゼネコン大手も外国人株主の比率が上昇している。

自社株買いや配当の実施といった株主を重視する施策が買いを呼ぶ

株式市場で外国人投資家の存在感が一段と高まると、企業に資本効率の改善を求める声が強くなる。欧米企業と比較して日本企業の収益性の低さは以前から指摘されていたが、スチュワードシップコードの導入をきっかけに、多くの企業がROE(株主資本利益率)などの収益性の目標を持ち始め、実際にそれを行おうとしている点を評価しているものと思われる。外国人投資家が中長期的な観点から日本株を買う動きが戻ってきたと考えられることは、投資家にとってはプラス材料である。

6月1日から適用が開始されたコーポレートガバナンス・コードを受けて経営陣は、会社の目指す経営理念や経営戦略を策定し、株主に分かりやすい言葉や論理で明確に説明することが求められることで、収益性向上への意識は高まっていくことが期待される。持ち合い株についても、その経済合理性についての説明が求められることになり、持ち合い解消への契機となる可能性も出てくるだろう。自社株買いや配当の実施といった具体的な企業の動きを外国人投資家は注視している。そして、そういった株主を重要視する施策をとる企業の株をリターンを目的として買っていく動きは今後も引き続き続くのではないだろうか。

ただ、唯一気がかりなのは、外国人投資家が企業収益にプラスと考えている、個人消費の底上げの前提となる実質賃金の上昇には、まだ日本の経済は至っていないということだろうか。名目の賃金上昇はすでに始まっているが、2014年は消費税率増税、インフレ率の上昇があり、それらの影響を除いた実質賃金はマイナス2.5%のマイナス成長となった。賃金上昇にもかかわらず、個人の生活はむしろ苦しくなり、個人消費の停滞をもたらす結果となっている。

厚生労働省は18日、2015年4月の毎月勤労統計調査(事務所規模5人以上)の確報を発表したが、それによると現金給与総額に物価変動の影響を加味した実質賃金指数は、前年同月比0.1%減となった。6月上旬の速報値では同0.1%増と2年ぶりに増加に転じていたが、一転下方修正され、実質賃金は24ヵ月連続で減少していることになった。日本株高が続く要因として、実質賃金の増加を挙げていたエコノミストも多くいたことから、速報値から下方修正され、24ヵ月連続で減少したという事象は多少想定から外れることになり、外国人投資家から敬遠される恐れもある。

プロの視点。今、乗るべき銘柄が見えてくる。』(2015年6月20日号)より一部抜粋

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