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デフレ大爆発からの中国共産党崩壊=北京発「悪魔のシナリオ」に警戒せよ

中国人民銀行は25日、追加の金融緩和(0.25ポイントの利下げ / 0.5ポイントの預金準備率引き下げ)を発表しました。しかし40年近いエコノミスト歴を持つ「マン」さんは、ここ最近の中国当局の対応を実体経済に効果なしと分析。「中国政府が処方箋の誤りに気づき、ストック調整をしない限り」は最悪のシナリオが進行しそうだとしています。

この先何年も解消しない中国経済の「病魔」 早期回復は絶望的

世界にデフレをまき散らす中国の供給過剰

中国経済の巨大な「デフレ圧力」が株安連鎖などで世界市場を揺さぶっています。

中国経済に対する認識が、これまでの「世界の工場」「それでも7%成長」という「賛辞」から、上海株価の急落、人民元の切り下げにともなう混乱などの「惨事」を通じ、中国経済への疑念へと急展開したことが市場の混乱を呼びました。

お化け屋敷と同様、中国経済の本質的な病魔がわかれば、一旦は恐怖感を乗り越えられますが、病気の治療を誤れば後々まで世界にこの病魔をまき散らします。

中国経済の7%成長は幻想で、先の世界危機後に政府自ら作り出した異常な「供給過剰」問題こそ真の病魔で、その治療方法を間違えているだけに、中国はこれから何年も病に苦しみ、世界にデフレをまき散らします

この供給過剰の病魔を呼んだのが、2008年からの世界的な金融経済危機で、これに対処しようとして、中国政府は4兆元の大規模な経済対策を打ち出しました。この太宗は借り入れで資金を賄い、内陸部を中心に、積極的な投資を行ったのです。

ここで生み出されたのが、人の住まない不動産と、鉄鋼、セメントなどの工場建設です。

TonyV3112 / Shutterstock.com

住宅投資も設備投資も、これを建設している間は「需要」の追加となるのですが、ひとたび完成してしまうと、需要はゼロになり、供給力が突然高まります。

鉄鋼もセメントも、中国国内の需要をはるかに上回る供給力を付けてしまい、自動車なども海外から参入が相次ぎ、国内生産量の倍の生産能力を付けてしまいました。

この膨大な供給力がさばけるだけの需要があればよいのですが、国内では一人っ子政策の付けが回り、需要の増加ペースが急減、輸出でさばこうにも、中国の人件費急騰で輸出競争力が低下し、世界貿易の伸び鈍化も相まって、輸出でもさばけなくなりました。

国内には在庫の置き場がないほど積み上がり、絶望して自殺する管理職まで出ています。

そもそも、中国の成長率が7%ということ自体、信用されていません。ロンドンに拠点を置くコンサルタント会社は、今年の中国の成長率を2.8%、来年を1.5%と予想、米国の調査機関の多くも、中国の実際の成長率は2%ないし3%が良いところと見ています。

李克強指数(電力生産量、鉄道貨物輸送量、新規貸し出し総量)は、このところマイナス成長を示唆していました。

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当然の措置ができない中国。“自己批判”なき共産党に打つ手なし

この供給過剰という病状に対する処方箋は、過剰設備や在庫のストック調整ですが、資本主義経済では当然の措置が中国ではできません。

それは共産党政権にはタブーの雇用の削減を伴うもので、何よりも政府が行った事業を自ら否定することになり、政権を揺るがす事態になるからです。

そこで政府は、個人消費を柱に、需要拡大でこれに対処しようとしています。

しかし、ここに無理があります。中国の家計貯蓄率が30%超と異常に高いのにはわけがあります。つまり、民主化の遅れた中国社会では、自分の身は自分で守らなければなりません。

共産党幹部はともかく、9割以上を占める一般市民は人間扱いされず、医療保険、年金に頼ることもできません。しかも貧富の格差は米国以上です。実体的な低成長では実質賃金も増えません。

その民主化に対して、政府は全く逆行しています。ますます統制を強め、政府に楯突くものはとことん取り調べ、罰する傾向が強まっています。民主化が進まなければ、消費を増やすことはできません。

かといって、すでに総債務がGDPの300%にもなる中国が、借金で需要を付ける余地も多くはありません。先の株価支援で5兆元(産経報道では4兆元)も使ったとも言われます。

そこで最後に輸出に活路を見出そうとして、「市場主導型」と称して人民元の切り下げに出たのですが、一旦市場に任せると、とめどない下げになり、慌てて買い支えることになりました。

FT紙はこれに2000億ドルも費やしたと書いています(8/25日付)。少なくとも、ここまでは需要拡大で吸収する作戦は、うまくいっていません。

この政府の対応に不安が募り、個人投資家も当局への不信感から、株の投げ売りを始めたように見えます。そうなると、昨年の株価急騰前の水準、上海総合では2000ポイントあたりまで下げてもおかしくなく、それ以上に下げるリスクさえあります。経済実態の悪さ、処方箋の間違いが明らかになれば、株価の均衡水準も当然下がるためです。

上海総合指数 日足(SBI証券提供)

お化け屋敷的な中国ショックはいずれ峠を越えても、中国経済の本質的な病は、これから先、何年も解消しません。

その間に、中国からは鉄鋼や自動車などのデフレが輸出され、先進国経済を冷やすとともに、中国に進出した企業の業績も悪化します。経済のハンドリングを間違えると、共産党政権の崩壊にもつながりかねません。

中国政府が、処方箋の誤りに気づき、ストック調整をしない限り、この悪魔のシナリオが進行しそうです。中国ショックに慣れ、恐怖感が一服しても、中国発の病魔は引き続き世界にばらまかれます

フィデリティ社のCIOの指摘を待つまでもなく、安易に安値拾いの買いに走らず、ナイフが落ち切るのをじっくり待ってから買っても遅すぎないと思います。

マンさんの経済あらかると』(2015年8月26日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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