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私の見た「幸福な富裕者と不幸な富裕者」その決定的違い(後編) – 山崎和邦 わが追憶の投機家たち

投資歴54年の山崎和邦氏による本連載。テーマは前回に引き続き「幸せなお金持ちに共通の特徴」です。幸福な富裕者が皆、法律や契約を執拗なほど頑なに守る理由とは?インサイダー取引の誘惑や詐欺的増資にも打ち克つ心構えとは?山崎氏が豊富な実例を交えて解説します(後編)。
私の見た「幸福な富裕者と不幸な富裕者」その決定的違い(前編)はこちら

知ってか知らずか、契約を破って没落していく「不幸な富裕者」

前回までに、ヒトとおカネの組み合わせにはたった4通りしかなく、しょせん鴨長明や松尾芭蕉のような哲人になれない私たち凡人は(1)「幸福な富裕者」を目指すのが上策とした。

  1. おカネがたくさんあって幸福な人(幸福な富裕者)
  2. おカネがたくさんあっても不幸な人(不幸な富裕者)
  3. おカネがなくても幸福な人(幸福な貧者)
  4. おカネがなくて不幸な人(不幸な貧者)

そして、これまで私が見てきた多くの「幸福な富裕者」に共通する性質として、「自律的で質実な生活態度」と「最低限の法律・契約を必ず守る規範意識」を挙げた。今回は、2つ目の規範意識の大切さとその本質について、私自身の事例もまじえながらご紹介したい。

私自身や、私の知る「幸福な富裕者」は皆、法律や契約を執拗なほど頑なに守ってきた。「お金持ちは狡い人間」と思っている人にとっては、もしかすると意外に感じるかもしれない。だが事実である。

なぜ「幸福な富裕者」は約束を守るのだろうか。それは、「幸福な富裕者」は、最低限の約束を守らなければ最終的にワリを食うのは自分であることを、真の意味で深く理解しているからである。だから法律や契約を遵守する。ゆえに怖いものがない。

勘違いしないでいただきたいが、これは道徳や倫理観ではなく、あくまで損得勘定の話である。「幸福な富裕者」は、経済合理的な選択として、いちど交わした約束を必ず果たす

「幸福な富裕者」がすべての面で徹底的に損得計算ができるのに対し、「不幸な富裕者」はおカネの面でしか損得計算ができない、と言えば伝わりやすいかもしれない。

「不幸な富裕者」は富の構築過程で一時的にせよ法律や契約を破る。これが身の破滅につながる。そうでなくとも不幸に陥る原因となる。私はそのような人を数多く見てきた。

読者諸賢も一度は見聞きしたことがあるであろう卑近な例を挙げるなら、例えば「生前のあの人はお金持ちだったけど、死んだ後に子どもたちが相続争いで大喧嘩だそうだ。裁判で判事から和解を促されたのに、それでも高裁までいっちゃって。これじゃあ、おカネがいくらあっても不幸だネ」などという話だ。

このような悲劇は、その富裕者が民法上の相続ルールを(知ってか知らずかはさておき)“破る”ことで生じるのだ。彼は生前、子どもたちのために相続ルールに則った配分の遺言証書を作らなかった。すなわち法律と約束事(契約)を無視している。

それから、「あの人は気の毒にねぇ、お金持ちすぎて国税庁の調査が入ったそうよ。おカネがあってもこれじゃあ幸福ではないわネ」といったトラブルもそうである。税法という基礎的な法律を破っている。

不幸な富裕者が転落したとき、周囲の人間は決まって「あの人は気の毒に」と言う。これのホンネは「いい気味だ」である。だが、契約と法律を守ってさえいれば人様から「いい気味だ」と後ろ指を指されることはない。税務署も国税庁も警察も、何も怖くない。ヤクザや暴力組織すら怖くはなくなる

私の経験では、これらが怖いと言う者はおしなべて、法律は守っても契約(約束ごと)を守らなかったり、逆に契約は守っても法律を破ったりしていた。

「法律と契約を守る者にとっては」という括弧付きで、おカネは多ければ多いほどよい。おカネこそは、私たちの人生を真に自由たらしめるカギとなるものである――

と、理屈ばかりでは退屈だろうから、次頁から筆者の実体験をご紹介しよう。自分が同じ状況に置かれたらどう対応するか、それを考えながらご一読いただきたい。

Next: 事例1:確実に儲かる「インサイダー取引」の誘惑に打ち克てるか?


山崎和邦(やまざきかずくに)

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

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確実に儲かる「インサイダー取引」の誘惑に打ち克てるか?

もう10年以上前の話になる。私は、当時東証1部に上場していた殖産住宅相互<1920>の破綻が確実になったことを、その前々日に知る機会があった。

そして、その時の私の立場は第三次情報受領者であり、内部情報者(インサイダー)には該当しないように思えた。つまり「オレは何も知らなかった」とうそぶける程度のお膳立ては揃っていた。

これは千載一遇のチャンスだろうか、あるいは神の仕掛けたワナだろうか。読者諸賢ならどうお考えになるだろうか。

その時、殖産住宅の株価は30円。そこにカラ売りを仕掛ければ、労せず確実に2600万円ほどを儲けられる計算まではすぐに終えた

だが、もし情報取得ルートに問題アリと判断されれば利益は没収され、かつ反市場勢力として、私はすべての証券会社で取引ができなくなるだろう。

ここで私は、得意の損得勘定をした。むろん目の前のおカネだけではなく、人生すべての面を考慮した損得勘定である。

すると、証券市場は私にとって「宝の山」だ。何百兆円というおカネが、私に持って行ってもらいたがって山積みになっている、そんな場所だ。2600万円ぽっちの利益で、反市場の烙印を押されるのではワリに合うものか

これが明らかになった。

それに、こういうときにカラ売りした口座はすべて調べ上げられる。よって、疑わしきは止めるべし、の鉄則に従って、きちんと思いとどまった。

翌々日には、殖産住宅株は事前の情報どおり破綻して株価は1円になった。30円か29円でカラ売りしておけば1円で買い決済できたであろう日だった。

あの情報を活用して一儲けした者も、あるいはいたかもしれない。

それでもなお私には「幸福な富裕者」への道のほうがよほど重要に思えたのである。

Next: 事例2:あなたならどうする?本音は売りたいIPO株のロックアップ条項


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あなたならどうする?本音は売りたいIPO株のロックアップ条項

またこんな話もある。

かつて筆者は、アライヴコミュニティ(2005年4月6日 旧ヘラクレス上場)の株主だった。保有株式はIPO前に上場担当の非常勤取締役としてお付き合いで保有した450万円分である。

その株式は、もし上場初値で売れば約3億円になる計算だった。だが同時に私は、上場後の半年間は売却しない契約を交わしていた。

これはロックアップ条項と呼ばれるもので、IPO直後に株価が値崩れすることを防止するための売却制限である。通常6ヶ月間が多い。

とはいえ、いま売れば、450万円のお付き合い投資が3億円になる。本音では売りたい。誘惑である。売る選択もある。上場のために雇われた非常勤取締役に愛社精神はない。

このあたりの感覚は、経営者の方はもちろん、サラリーマンの方にもお分かりいただけるのではないだろうか。

ロックアップ条項を守るか、破るか。読者諸賢ならどうするだろうか。

この時も私はやはり、目の前のおカネだけではなくすべての面で損得勘定を行った。結果、やはり契約は守るべきという結論に至った。

半年後、ロックアップが解除された時には、3億円は5000万円にまで減っていた。2億5000万円分は泡のごとく消え去ったのである。だが450万円が5000万円になったのだから、これはこれで良しとした。

そしてそのおカネは、何らやましいことのない正当な報酬になった。

アライヴコミュニティがその後どうなったかを考えれば、もし、あの時契約を破って売っていたら、時節柄、闇の勢力に利益分を吸い上げられた挙げ句、それ以上の破滅的な結果すら招いたかもしれなかった。

Next: 事例3:株主激怒!アライヴの企てた「詐欺的増資」から身を守れたワケ


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株主激怒!アライヴの企てた「詐欺的増資」から身を守れたワケ

さらに私の事例を続けよう。これは読者諸賢も、経営者として、あるいは個人株主として、いつか遭遇するトラブルかもしれないので紹介する。

前述のアライヴコミュニティが上場した後の話だ。私は上場担当の非常勤役員を務めていたから、そろそろ一息ついても良いか、そんなふうに考えていた矢先の話である。

当時の社長がタチの悪い勢力に乗せられて、違法ではないけれども詐欺的な増資を計画した。

実例で言うと、当該株が時価45万円の時に、あるファンドに1株5万円で株式を取得する権利を与える。同時に、そのファンドは大株主である社長から株を借りて、5万円以上は利益になるのだから45万円から5万円までを売るという行為に出る

当然、株価はストップ安も交えながら短期間で5万円まで下がるが、当のファンドにとってはこれが利益の源泉である。5万円で新株予約権を行使して株を入手し、社長に借りた株を返却すればいい。

かくして、会社の資金調達と引きかえに、1ファンドだけが巨富を得て、他の全株主には価値が10分の1になった株が残るばかりという、詐欺的スキームである。

これが不思議と犯罪にならなかった。日本ではこういう増資は一般の証券会社は幹事を引き受けない。筆者が非常勤役員を務めたアライヴではある外資系証券が引き受けた(その証券会社は後に破綻している)。

こういう増資自体は、東証1部のマトモな企業でもやった例は数社ある。ただし、それらには安く取得した株を売らないで保有し続け、既存株主に迷惑がかからないようにする配慮があった。

さて、非常勤役員を務める企業で、まさに一般投資家を欺く詐欺的増資が行われようとしたとき、私はどのように自分の身を守ったか。具体的にはこうである。

まず私は、取締役会においてこの方式の増資に反対を表明し、それを議事録に明記するよう要求した。これは当然のことだ、一般投資家をカモにすると分かっていて、このような増資を認めてよいわけがない。

それから、その議事録を公証役場へ持って行って「確定日付」を取った。これはその議事録が確かにその日に存在したという存在証明を、公証役場という公的機関がしてくれる制度だ。1頁700円でやってくれる。

「そんな議事録はなかった」「あとで作成したのではないか」と難癖をつけられないようにするための防御策である。

後日、私はそれを携えて株主総会に臨んだ。他の役員が、激昂した株主たちから何時間も釣るし上げられる中でも、その書類を提示できた私に怖い物はなかった、株主も納得した。

さらに後日。所用で某証券会社に立ち寄った折、そこの支店長からヒソヒソ声で「折り入って話があるから支店長室に来てくれ」と呼び止められた。応じると、その支店長は「東証から通達があって、山崎和邦氏は反市場勢力企業の役員だから、今後、当社の取引口座は利用できなくなった」旨を言いにくそうに私に告げた。

だがその時も、私は携帯していた例の確定日付つきの議事録を提示して、直ちに取引停止を解除させることができた。間が悪くヘンな企業の非常勤役員だったからとて、東京証券市場という宝の山から締め出されてはかなわない。

Next: 時代を越えて変わらない「幸福な富裕者への道」 7つのポイント


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時代を越えて変わらない「幸福な富裕者への道」 7つのポイント

アライヴコミュニティをめぐる一悶着は、一歩間違えれば筆者の人生を大きく左右する(それこそ不幸へと転落させかねない)事案だったが、「幸福な富裕者」として「法律と契約は必ず守る」という心得のおかげで事なきを得た。

これらの事例からも分かるように、「幸福な富裕者」が法律や契約を必ず守る意味、これは単に法律の条文を守る、期日を守るにとどまらない。

一言で言えば、私の知る「幸福な富裕者」は皆、共通してよく勉強するし用心深い。「不幸な富裕者」は用心を怠るから没落して不幸に転落する。ほぼこれである。

「用心深さ」は「疑い深さ」とは異なる。物事はすべて信ずることから始まり、信じなければ何も生まれない。「用心深さ」と「疑い深さ」は似て非なるものだ。

この健全な用心深さを身につけるには、倫理観ではなく、あくまで損得勘定の立場から「法律と契約を守る」ことが大切だ。

知らず知らずのうちに法律や契約を破る者、無視してしまう者に欠けているのは、道徳心ではなく損得勘定であることが多いからである。

「幸福な富裕者」の規範意識は、倫理という「感情」ではなく「ソントク」という「勘定」を拠り所とする。読者諸賢には、ぜひこれを心得ていただければと思う。

最後に、前後編で述べた要点をまとめて本稿を終わろう。

「幸福な富裕者への道」7つのポイント

  1. 幸福とは「やりたいことをやれて、やりたくないことをやらないでいられる」自由な状態である
  2. おカネではなく自由を欲せよ。おカネは自由のための手段である
  3. 自律的で質実な生活態度を維持せよ。自由と自律は不可分だ
  4. 本業における年収をポートフォリオの中心に据えよ
  5. 法律や契約、他者との約束事は必ず守れ
  6. 規範意識は倫理観ではなく経済合理性をその拠り所とせよ
  7. 目先のおカネだけでなく将来を含むすべての面で損得勘定せよ

山崎和邦(やまざきかずくに)

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

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