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麻生さんも誤解?中国人民銀総裁「バブルがはじけた」発言の真相はこうだ

G20での周小川中国人民銀行総裁の「バブルがはじけた」発言について、海外の報道は最も重要なことを伝えていないようだ。本土でも多くのメディアが周総裁の発言内容を伝えているが、結論はまったく異なるものである。(TS・チャイナ・リサーチ 田代尚機)

噴出する悪材料の中、一筋の光明が~中国本土株式市場

「バブルがはじけた」発言を曲解して報じた西側メディア

周総裁が先のG20でバブルと指摘したのは、今年の3月から6月にかけての株価上昇である。

「この間、上海総合指数は約70%上昇したが、その過程で、投資家によるレバレッジの急速な上昇が生じ、そこにリスクが存在していた」「6月中旬以降、3度にわたる調整が生じ、前半の2回は国際的な影響はなかったが、8月下旬の下げについてはグローバルに影響を与えた。システマティック・リスクの発生を避けるために、中国政府は一連の政策措置を打ち出した」と説明している。

もっとも重要なのはその次の内容である。

「株式市場は調整によって、レバレッジは顕著に下落したが、実体経済にはいまだ影響は表れていない。上昇相場を形成してきたマクロ要因に変化はない。レバレッジはほぼ正常な状態となっており、現在不足しているのはマネーではなく、投資家の自信だけである」などと強調している。

周総裁の真意は「2つのレバレッジ」にあり

少し噛みくだいて説明しよう。株価はどう動いたのか?

上海総合指数は2月9日の場中で(当時の)年初来安値となる3049.11ポイントを記録。その後は5月上旬と下旬に軽い押し目を挟み急騰、6月12日の場中で年初来高値となる5178.19ポイントを記録した。この間の上昇率は69.8%である。

上海総合指数 日足(SBI証券提供)

本土マスコミ情報では、3月から6月とあるが、正しくは2月から6月である。時期に少しずれがあるが、短期間で急騰したことに変わりはない。

そこから3段階(6月中旬から7月上旬、7月下旬、8月中旬から下旬)で急落が起こり、8月26日の安値は2850.71ポイントまで下がっている。当然年初来安値を更新しており、周小川総裁がバブルと呼んだ部分は全て無くなっている。

バブルが蓄積され続けた理由は明白である。「レバレッジが拡大したからだ」と指摘している。

ここで言うレバレッジとは何か?

1つは証券会社を通じた信用取引である

昨年12月上旬、買い残は急増したが、それでも1兆元程度であった。それが6月上旬には2兆2666億元まで増えている。わずか半年の間に1兆3000億元弱の資金が市場に流入したのである。この急増が株価をバブルに押し上げたもう一つの“バブル”である。

しかしその後、買い残は急速に減少した。“バブルの崩壊”が株価も崩壊させたのである。

ただし、9月2日には9591.54億元まで減少しており、既に12月上旬の水準に戻っている。バブル発生前の水準まで買い残は減っているので、バブルは消滅しているということだ。

レバレッジをかけるにはもう1つ方法がある。それは場外での借り入れ(場外融資)による株式購入である

中国では、ソフトウェア開発会社が作成する株式分析ツールがいくつも存在しており、中にはそのソフトウェアから証券会社に直接注文を出すことができるものがある。

操作環境は、証券会社の提供するものとまったく変わらない。ソフト上でノンバンクから資金を調達できる仕組みができあがっており、あたかも証券会社で信用取引をやっているかのように取引ができてしまう。

これはもちろん認められていない取引であるが、それ以上にレバレッジを掛け過ぎていたことに問題がある。正規の信用取引では、130%以上は売り建て出来ず、150%に達すると追証が発生するが、場外融資では300%とか500%のレバレッジをかけさせてくれるところもあるそうだ。

正確な統計数字があるはずもなく、実態はよくわからないが、マスコミ報道によれば、最大で1兆7000億から2兆元程度はあったようだ。これも政策によって減らす作業を行っており、なくすメドが立っている。

つまり、「レバレッジは正常な範囲まで縮小した。株価のバブル発生と崩壊の過程は終了した。株価は底打ちした」と周総裁は言いたかったのである。

海外の報道とは真逆に近い内容である。ただし、周小川総裁の言う通り今後、株価が底打ちするかどうかはわからない。

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中国市場「4つの不安材料」の彼方に見える、一筋の光明

下げ圧力は4つほどある。

1つ目は、場外融資の整理がまだ終わっていない。残高がはっきりしないが、数千億元程度の残があり、今後も相当の売り圧力が出てくると見られる。

2つ目は、市場に対する粛清である。悪意のある空売り、インサイダー取引、虚偽情報の流布など、あらゆる違法行為を厳しく取り締まっている。指数先物取引には売り方向に制限がかかっている。売り崩しはなくなるが、市場の活力もなくなり、買い手がいなくなる。

3つ目は、景気悪化懸念である。構造改革を進める中、経済がV字回復するはずはないし、当局にそのつもりもない。景気は今後4~5年に渡り、緩やかに速度を落とし続けることになるだろう。それに対して、当局の目標は高すぎる。景気要因がいつまでたっても、ネガティブな材料となり続ける。

4つ目は、トレンドである。本土市場はいったん下げトレンドが出ると、それが長期化してしまう。投資家は株式市場を投資としてではなく、投機として捉えている部分が大きい。したがって、ブームとなれば資金が短期間に集中するが、ブームが去れば、資金は緩やかに離散する一方となる。ブームの到来は、まるで忘れたころにやってくる長い周期の彗星のようである。

弱気な材料ばかり挙げてしまったが、上げ要因もある。

これからの経済発展に株式市場は必要不可欠である。経済は資本投下さえすれば拡大するような段階を過ぎ去ってしまった。また、労働人口は横ばいから減少に向かい始めている。新規産業を起こし、技術進歩を加速させなければならないが、新規産業に資金を回すには銀行の貸出では間に合わない。

どうしても資本市場の助けが必要である。

周総裁は「上昇相場を形成してきたマクロ要因に変化はない」と指摘している。

構造改革を推し進め、技術革新を起こす。製造業は加工組立産業から、高度な先端産業に重心を移し、産業構造は製造業から、消費、サービス産業など非製造業へと重心が移る。全面深化改革、戦略的新興産業の育成・発展、一帯一路戦略の加速などによって、中国は次の発展段階に移ろうとしている…。

9月11日現在の上海市場における平均PERは15.81倍に過ぎない。過去の水準と比較すれば、すでにフェアバリューと言ってよいだろう。

しばらくは底値形成が続く可能性があるが、最悪期は過ぎ去ったと見てよさそうだ。

中国株投資レッスン』(2015年9月17日号)より一部抜粋
※チャートと太字はMONEY VOICE編集部による

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