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東芝の白物家電事業を買収する「美的集団」とは何者か?=栫井駿介

東芝の白物家電事業を買収すると報じられた中国の美的集団(Midea Group/ミデア・グループ)は、多くの人にとって馴染みのない会社だと思います。この記事ではその中身に迫ってみましょう。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

創業1968年「瓶の蓋」作りから始まった美的のビジネスは絶好調

世界第2位の白物家電メーカー

美的集団は中国の白物家電メーカーで、エアコンや冷蔵庫、炊飯器などを製造しています。売上高は約2.7兆円で、当該分野におけるシェアは世界2位となっています。

世界2位の割に知名度が低いのはなぜでしょう。それは中国市場があまりに大きいからです。

例えば同社最大の商品であるエアコンは、中国が世界需要の約4割を占め、中国での順位がそのまま世界ランクになります。1位はハイアールで、美的がそれに続くというわけです。

創業は1968年と、思いの外老舗です。最初は瓶の蓋を作る小さな事業から始まり、1980年から家電の製造を開始。中国家電メーカーの買収やエアコン製造での成功を経て、現在の地位を獲得しました。

東芝とは切っても切れない関係

そんな美的と東芝は切っても切れない関係にあります。

1990年にはエアコン製造で提携し、その後も複数の合弁会社を立ち上げています。美的が飛躍するきっかけとなったのもエアコンですから、東芝に恩義もあるでしょう。

エアコンやコンプレッサーの製造や中国販売に関して協力して行っていたことから、お互いのことはよく知っているはずです。東芝が売却後もブランドの使用を許可しようとしているのは、そういう背景があるのかもしれません。

超好業績!

美的の分析に戻ると、実はかなりの好業績企業であることがわかります。

売上高純利益率は7.4%と、パナソニックの2.3%はもとより、同じ中国企業のハイアールの3.6%をも大きく上回ります。家電メーカーとしては驚異的な数字です。無駄を省く製造工程の効率化を徹底しているということで、トヨタ生産方式を彷彿とさせます。

80年代は松下電器産業(現パナソニック)など日本企業の経営手法を学び、90年代は「より中国人に合っている」とゼネラル・エレクトリック(GE)など米国企業の研究に力を入れた。97年にGEを参考に事業部制を導入。権限を分散し、市場の変化に素早く対応できるようにした。管理職などには利益や技術開発の成果を厳しく問い、未達成には降格や減給で臨んだ。業務の無駄を徹底して省く「リーン管理」と呼ぶ手法も導入。組織で勝つ体制づくりに余念がない。

出典:hanashowten filing

Next: ここ数年の売上高は3年で2倍になる勢い/なんとPERは約10倍



中国市場の拡大に伴い、売上高も急増しています。ここ数年の成長率は年率約20%と、3年で2倍になる勢いです。2017年には売上高を2.7兆円から3.8兆円に増やす計画を掲げています。

一方で、中国ばかりに頼らない姿勢も見せ、東南アジアや南米へ進出しています。今でこそ好調な中国市場ですが、若者人口の減少や家電製品の普及により、成長の鈍化が想定されるからです。

2014年には日本にも拠点を設けており、東芝の白物家電事業買収は渡りに船だったのでしょう。

喉から手が出るほどいい銘柄だが…

そして私が驚いたのはその株価です。

これだけの高収益・高成長にも関わらず、PERは約10倍。PERをEPS成長率で割ったPEGは0.4と相当割安な水準です(PEGは1を割ったら割安と言われます)。

「それは買わない手はない!」と思った人もいるでしょうが、残念なことに、日本からは個人で同社の株を買うことはできません。深セン証券取引所に上場していますが、外国人は基本的に参加できないA株のみの上場なのです。

とはいえ、これから世界を見据えて活動する美的は要チェックでしょう。

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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2016年3月17日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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