不正ソフト使用問題で倒産の危機も囁かれるVW。メルマガ『国際戦略コラム有料版』の著者・津田慶治さんは、制裁金を含めた総出費は10兆円を軽く超えると試算、さらにこのような事態を二度と繰り返さないためには、江戸時代の日本人思想家・石田梅岩の「石門心学」を、世界が学ぶ必要があると記しています。
VW危機でドイツはどうなるか?
フォルクスワーゲンの倒産が心配な状況になっている。この事件での現状とドイツと日本の今後の予測をしてみよう。
今後どれだけの出費になるのか?
フォルクスワーゲンの不正プログラムによる今後の出費を計算することから始めるが、今後の対応するべきことを考えてみよう。
まず、米国の制裁金が2兆円、VW顧客からの集団訴訟賠償金、世界の株主からの集団訴訟、1,100万台のリコール費用で特に環境基準が厳しい米国での48万台は大変である。そして、業績悪化による労働者のレイオフになり、34万人の雇用をしているVWで何人の失業者が出るか? 下請けの労働者も同じように雇用問題が出てくる。
ユーロ5の基準は厳しくないので、これはプログラム入れ替えで基準が通るが、問題は米国の48万台で、単純なリコールでは無理で代替の車を提供する必要があり、現在の車と取り替える必要がある。
米国だけでリコール費用は、約1兆5,000億円になる。欧州はそれより随分と少ないはず。顧客からの集団訴訟も米国が中心となるが、48万人×500万円として2兆5,000億円程度、世界の政府の制裁金、補助金返しなどと、全て兆円のオーダーになるはず。
軽く10兆円以上にはなる。フォルクスワーゲン社の内部留保金は約230億ドル(約2.6兆円)、それに工場や特許、傘下の自動車メーカーなどを入れた総資産は、約2,600億ユーロ(約35兆円)で、資産を売却する必要がある。
このため、傘下の「アウディ」「ポルシェ」「スカニア」などの売却はある。
また、鉄鋼、部品メーカ(ボッシュなど)、タイヤ、ガラスなど自動車関連企業は多く、かつVWはドイツ最大の企業である。この影響がでかい。また、雇用の崩壊で消費が停滞して、全産業に影響することになる。深刻な景気後退になる。
というように、自動車メーカーが倒産してしまうとその国の経済に大きな影響を与えてしまうために、国家が出てくる。このため、ドイツは資産を担保にして金を国家保証で銀行から借金させてフォルクスワーゲンを実質的に倒産させない。
倒産してしまえば、株主集団訴訟、顧客からの集団訴訟はなくなるが、倒産前に国家がサポートすると、この出費も出ることになるので、一度倒産させる可能性がある。名前を旧会社から引き継ぐなどして、法廷闘争の無効化をすることは考えられる。
また、社債などの借金や銀行の貸付で、銀行も影響する。すでにリストラをしたドイツ銀行などの名前が出ている。2015年6月9日に、S&Pはドイツ銀行の格付けをBBB++(ジャンクから3段階上)に下げた。ドイツ銀行はデリバティブに約75兆ドルもの資金を投入して膨大な損失を抱えているが、VW倒産は致命傷になる可能性が出ている。
ドイツ経済は、世界で一番順調であったが、2つの問題を起こして一気に失速する危険性が出てきたことになる。VWがブラックスワンになり得る。中国減速とドイツ失速で、世界の景気も一時的には大変なことになる。
世界経済の日本化
GMが2009年に倒産したが、この原因は日本車のような小型車がなく、労働コストが高く、手持ち資金のショートが起きて破産法の申請をしたが、VWも同様なことになりそうだ。
GMもVWも省エネ、無公害などの技術的なイノベーションを避けて車を販売して、ブランドイメージだけで勝負するスタイルで、しかし、そのような販売は長続きしないことがあきらかになった。
日本車は、1つ1つ技術を積み上げて、着実に省エネや無公害へ前進させている。そのような努力がなく、販売台数だけを拡大した咎が出たようである。
日本のような着実な技術の前進がなく、デザインなどで売るほうが楽であるが、それはいつか通用しなくなる。
マツダの苦難の歴史を見ると、その苦難こそが、クリーンディーゼルを生み出した元であることがわかる。ロータリーエンジンを知っていますか。このエンジンを効率よく動かすために、エンジン内部の燃焼がどうなっているかを知ることが重要であり、いろいろと試行錯誤をしていた。
この試行錯誤から、透明な強化ガラスでできたエンジンを開発して燃焼を見える形にしたことが、マツダのエンジン構造の見直しにつながったのである。ロータリーという苦労が、スカイアクティブという効率的、省エネ、低公害なエンジンを開発できた元にあるのだ。
このような技術者の苦労なしには、新しいイノベーションは生まれない。
ソニーも財務畑の社長になり、ユニークな商品ができずに没落したが、技術を的確に評価できる人がトップに必要なのである。危機の時は、文系社長でも技術者に期待するので、良いものができることがある。この時、いかにそれまでに技術者に技術的な苦労をさせていたかが問われることになる。
技術が中心で世界は変革していくのが正しい。その技術をないがしろにして、販売やデザインを重要視していると、いつかは没落していく。ということを今回も思い知らされた。それもドイツという技術者を大切にする国でも、技術者が1,000万台の自動車販売という社長からのトップダウンの命令で、不正をする事態になったことを憂えるのである。
日本の技術者のように、着実な技術の積み重ねでしか、技術は進展しないのだ。その裏には石田梅岩の石門心学の影響を見て取れるのである。
世界が日本化するということは、世界が石門心学を学ぶことである。といっても、日本人自身が石門心学を知らないが、親の教育や周辺の人から信用が大切と言われているので、知らず内に勉強していることになる。
image by: simone mescolini / Shutterstock.com
『国際戦略コラム有料版』より一部抜粋
著者/津田慶治
国際的、国内的な動向をリアリスト(現実主義)の観点から、予測したり、評論したりする。読者の疑問点にもお答えする。日本文化を掘り下げて解析して、今後企業が海外に出て行くときの助けになることができればと思う。
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