10日にトルコで起きたテロについて、ある専門家が口にした「ISがテロをするメリットはない」という言葉。これについて小川和久さんは『NEWSを疑え!』で、テロリストとゲリラの違いを整理できていないと指摘します。
テロリストは殺戮を目的とする
95人が死亡、246人が重軽傷を負った10日のトルコの首都アンカラでのテロについて、極楽トンボとしか思われない「専門家」の発言が聞こえてきて、思わず耳を疑いました。
12日夜のテレビ朝日「報道ステーション」でのことです。
イスラム、そしてトルコが専門だという同志社大学大学院の内藤正典教授が、テロの容疑組織に触れたくだりで次のような内容のコメントしたのです。
テロの標的となったデモには関係組織からも参加者があり、それを狙うとは考えにくい…。そして、私がおやと思った「ISにしても、テロをしてえられるメリットはない」というコメントです。
イスラムに関する権威者とされる大学教授の発言ですから、誰もが信じてしまうでしょうが、実は、この発言には、テロリストとゲリラの違いを整理できていない問題が隠されているのです。
そのことは、少し整理して考えればわかることです。
まず、現政権を打倒しようとするゲリラなど反政府勢力なら、人民の支持を得ようとするのが普通です。新たに新政権を樹立し、理想とする国作りを進めるためには、人民にとって正義の味方でなければなりません。だから、殺戮、略奪などは、絶対的と言ってよいくらい避けるものなのです。中国の八路軍の「大衆のものは針1本、糸1すじもとらない」とした「三大規律八項注意」などは、それを代表するモラルです。
翻って、テロリストの場合はどうでしょう。
例えば、アルカイダ、IS(イスラム国)などイスラム原理主義過激派集団の場合、目標とするところは7世紀から13世紀にかけてのカリフが支配する唯一の法シャリーアに基づくイスラム世界の再現です。
そこにおいては、近代文明を代表する国々が攻撃の標的となることはもとより、殺戮自体も目的とされている点を忘れてはなりません。
アルカイダでさえ眉をひそめるISのようなテロ行為や殺戮を支持する人は、きわめて限られることは言うまでもないことです。
しかし、地球規模で眺めると予想外の結果が浮かび上がってきます。それを忘れてはなりません。
例えば、ISのような殺戮や残虐行為を支持する人間が1万人に1人くらいしかいないとしましょう。
しかし、世界の70億人の人口で考えた場合、その比率でも70万人に達してしまうのです。
その中には、兵士として戦闘に身を投じる者やテロを支援する人間ばかりでなく、資金的にテロ組織を支える人間も少なからず含まれていると考えなければなりません。
1人が日本円で100円を拠出しても70万人ならたちまち7,000万円になるのです。オーナー経営者や富豪が含まれていれば、その金額は膨れあがると考えなければなりません。平均の拠出額が1万円になれば70億円というわけで、闘争資金が簡単に枯渇することはないと思わなければなりません。
ISなどが残虐な殺戮に出るほどに、それを熱狂的に支持する人間が増え、そうした人間による支持と支援を拡大すべく行動がエスカレートすることは、テロとの戦い、非国家主体との戦いを考えるうえで忘れてはならないポイントなのです。
トルコのテロがISによるものであった場合、ISは狙い通りの成果を手にしたと考えなければならないのです。
著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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