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安心は傾かず?欠陥公開の裏で描かれた「三井のシナリオ」

前回、なぜ横浜の大型マンションで傾き問題が起きたのかを検証してくださったマンション管理士の廣田信子さん。今回のメルマガでは、今後住民の方の身に起こりうることや三井不動産への要望について記しています。

三井不動産レジデンシャルの対応は?住民の合意形成は?

こんにちは!廣田信子です。

「パークシティLaLa横浜」の杭打ちの施工不良に関する昨日の話の続きです。私の備忘録として読んで下さい。

問題が発覚しても、内密に済ませようという体質がある中、今回、このように大きく報道され、まるでシナリオができていたかのように、問題を起こしたのは、下請けの下請けの一監督者であるということが、早々と報じられ、そして、いち早く、三井不動産は、建替えにも買取りにも応じ、転居費用も負担するという方針を打ち出しています。

このことの意味を私なりに考えてみました。

この一連の行動は、ブランドイメージの低下を最低限に抑えようという売主の意向と、こうなってしまった以上、できるだけ多く実をとろうという管理組合の中心的な方々との戦略が一致したのではないかと、私は勝手に感じています。

この状況で隠し立てしてもマンションの資産価値を維持することは不可能。だったら、問題をしっかり世の中に知らしめて実を取ろうというのは、管理組合として当然の大変かしこい選択だと思います(これも私の勝手な推理です)。

そして、それにいち早く、ある意味、満額回答を出すことで、三井不動産もイメージダウンを最小限にすることができているような…。

私の周りの反応は、「一体いくらかかるんだろう。さすが『三井』だね」というものが多かったです。

マンションは、どんなに設計をしっかりしても、パンフレットにきれいごとをうたっても、施工が悪かったら、どうしようもありません。

そして、実際に施工不良は当たり前のように発生していることをみんなよく知っていますから。

で、どこが施工しようが施工不良が発生するのを避けられないから、結局、売り主にいざという時に対応できる力があるかどうかだと改めて、今回のことで思った訳です。

でも、私の周りにはマンションの関係者が多いですから、一般の感覚とはちょっと違うかもと思い、いろいろ聞いてみると、まず、「マンションってなんか怖い~」と言う声が。マンション全体への信頼が揺らいだということは避けられないと思います。個人が気をつけようがない問題ですから。

で、「やっぱり買うなら、大手から買わないと怖いね~」という反応で、三井のマンションは危ないから買わないというような反応は意外にありませんでした。

その意味では、一見満額回答? のような早い解決策の提示は、現時点では、ブランドイメージに対して大きなマイナスに働いておらず、三井の戦略は成功していると感じます。

でも、これからが大変です。

傾いた棟以外にも不良が数多く発見されるのかどうか…、これからの調査如何では、棟によって温度差が出てくることは避けられません。

建替えるにしても最低3年間は、別のところに引っ越さなければなりません。子供の学校の問題もあります。2007年の入居時から今までにそれなりのコミュニティは育っているはずです。不良工事が軽微な棟では、建替えはしたくないという意見も当然出るでしょう。

しかし、建替えには団地の一括建替えでも、ある棟だけの建て替えでも4/5の区分所有者の賛成が必要になります。

じゃあ、あのように密着して建物が建っている状況で、例えば1棟だけ残すというような選択が可能なんでしょうか。解体工事中、新たな建築工事中、そこで平穏な暮らしができるのでしょうか。

買取価格にしても、買ったときの値段と、事件が発覚する直前の市場価格では差があるといいます。買った時より価格は上がっていたはずだという主張にどこまで応えるのか…。精神的な苦痛に対してどのように損害賠償するのか…。

すべてのことが決まるまで、役員はもちろん、住民にとってもそれはそれは大変な日々が続くと思います。

三井のいち早い回答によって、逆に、住民は力を合わせて戦う相手がいなくなったわけで、団結して不満をぶつける相手がいない状況では、住民の苛立ちが、それぞれの主張の先鋭化に繋がりやすく合意形成は難航するのではないかと危惧します。

住民同士が対立するような状況での暮らしは建物の不安と人間関係のストレス両方を住民に強いることになり、コミュニティも崩壊してしまいそうで、本当に残酷なことだと思います。

それで体調を崩してしまう方がないようにと願うばかりです。

ちゃんと保障してもらえるなら、よかったじゃない…、で済まされるような問題じゃないです。

だからこそ、三井不動産には、二度とこんなことがないように、会社を上げて本気で取り組む姿勢を示してもらいたいと願います。それが業界のスタンダードになるくらい頑張ってもらいたいと思います。それで初めて「さすが三井」というのを素直に聞く気持ちになれます。

原因を、孫請け会社の一担当者の倫理観の問題だと矮小化しないでほしいです。それでは、問題の根本的解決になりません

ほとんど利益も出ずに、厳しい納期を押し付けられる孫請けの実態が、このような事件が起きる背景にあるとも言われています。それを改善しなければ、こういう問題は、いくら検査体制を強化してもなくならないと思います。

そして、思います。

私たちも、現場で働く人たちの状況を常に意識してものやサービスを購入しなければけないと。社会の構造の不具合は、私たち1人ひとりの意識の問題でもあると思うからです。

すべての人が、自分の仕事に誇りを持って働ける以前の日本を取り戻したいと思うからです。以前に書いたように。

● 参照:vol.183「関心を寄せて何も言わないのは無関心じゃない」 

そして、神野直彦先生じゃないですが、「信頼」こそは、もっとも重要なソーシャルキャピタルだと思うからです。

● 参照:vol.170「信頼関係はソーシャルキャピタル」 

image by: MAG2 NEWS

 

まんしょんオタクのマンションこぼれ話
マンションのことなら誰よりもよく知る廣田信子がマンション住まいの方、これからマンションに住みたいと思っている方、マンションに関わるお仕事をされている方など、マンションに関わるすべての人へ、マンションを取り巻く様々なストーリーをお届けします。
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