MAG2 NEWS MENU

※画像はイメージです

南シナ海の米中緊迫、新聞各紙は「大国の思惑」をどう伝えたか?

南シナ海で中国に対しついに実力行使に出たアメリカですが、この米中の対立を新聞各紙はどう伝えたのでしょう。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』の解説によると、読売の記事の水準が圧倒的に高いとのこと。その理由は?

米中の南シナ海での対立をどう伝えたか

◆1面トップの見出しは……。

《朝日》…「米艦 12カイリ内へ派遣継続」「南シナ海 人工島付近を航行」
《読売》…「米、中国の領有権認めず」「南シナ海 緊迫化の恐れ」
《毎日》…「中国「米艦を追跡・警告」」「米、今後も継続方針」
《東京》…「軽減税率 財源確保で隔たり」「与党協議が再開」

◆解説面のテーマは……。

《朝日》…南シナ海米中対立
《読売》…南シナ海米中対立
《毎日》…南シナ海米中対立
《東京》…南シナ海米中対立

軍事的緊張新聞大好物のようです。それはそうです。今回は、安保法成立を受けて日本巻き込まれる可能性ですね。各紙、《東京》を除けば、1面トップも解説面も、この問題で持ちきり。《東京》も解説面はこのテーマになりました。扱い方には違いが見えています。

◆今日のテーマは……。

というわけで、今日は「米中の南シナ海での対立」をテーマとします。まずは「基本的な報道内容」を整理しておきましょう。

基本的な報道内容

日本時間の27日午前、米海軍横須賀基地所属のイージス駆逐艦ラッセンが、中国が南シナ海の南沙諸島(スプラトリー)で領有権を主張する人工島から12カイリ内に入り、航行の自由を行動で示す作戦を行った。カーター国防長官は、米上院軍事委員会の公聴会で作戦を認め、「今後数週間、数ヶ月の間にも実施する」として、南シナ海で同様の作戦継続する考えを明らかにした。

中国外務省は「強烈な不満」を表明、「米艦船を追跡した」と発表、国防省も談話の中で海軍のミサイル駆逐艦「蘭州」と巡視艦「台州」が米艦船に警告したことを明らかにした。

中国外務省の次官は駐中米大使を呼び、「厳重な申し入れと強烈な抗議」を伝えた。米側が今後も艦船を派遣し続ければ、人工島建設をさらに加速、強化するなど、対抗措置をとるとしている。

ラッセンは寄港していたマレーシアから南沙諸島に向かい、中国が人工島を建設しているスビ礁12カイリ内を北から南西に抜け、フィリピンとベトナムが領有権を主張する岩礁の12カイリ内も航行した。ミスチーフ礁には入らなかった模様。

「航行の自由作戦」

【朝日】は1面トップに加えて、2面の解説記事「時時刻刻」、さらに11面の国際面で周辺国の反応を記し、14面社説の題は「各国共通の利益を守れ」。

1面記事の中には、「中国の今後の出方次第では、緊張がさらに高まる可能性もある」との記述。また、解説的な内容だが、「国際法では領土から12カイリ内が領海とされるが、スビ礁は中国が埋め立てる前は、満潮時に岩が海面下に沈む暗礁だったため、12カイリ内は領海にならない」との記述もある。

解説記事「時時刻刻」の見出しは「米、中国牽制へ強硬策」。中見出しには「度越す主張に挑む」「中国、対抗措置も視野」「日本の連携米は期待」とならび、最後段には「米中、軍高官会議へ」と話し合いのチャンネル示唆されている。

uttiiの眼

法的な位置づけの整理をする必要があると思う。

今回の米艦船の行動は、形式的には、公海における航行の自由を主張したもの。もともと暗礁で、干潮時にも海上に出ないスビ礁では、人工島になっていても通常、領土主張認められない。だとすれば「領海ではないので、12カイリの内側だったとしても「公海」として誰でも通ることができるというわけだ。

だが、アメリカはここで1つ言い訳用意している。仮にスビ礁が中国の「領土」であったとしても、国旗を掲げて通過するだけなら、「無害通行権」の行使として、事前の許可がなくても通航認められている。中国は、92年に制定した領海法で、中国領海内を航行するには中国政府許可必要と規定しているから、中国としては「不満」を表明せざるを得ないが、それは国際的には通らない。「オタクの領海法は認められないよ」というのが米側の次のメッセージなのだろうが、その論点はまだ浮上させていない

フェイスブックで公開する駆逐艦情報

【読売】は1面の記事に続いて2面には「自由な海 日本も支持」の見出しで、自衛隊が米軍の要請によって南シナ海での情報収集・偵察活動を行う可能性について書いている。小さなQ&Aがあり、「航行の自由」について解説。米軍は昨年9月までの1年間に中国など19カ国に対して「航行の自由」を示すための活動を実施したと書かれている。

3面の解説記事「スキャナー」は、背景についての詳細な分析を含む。他紙には見られない精密さ。今回の行動は、以前から米軍がホワイトハウスに実施を提案してきたものだという。共和党による批判、ベトナム・フィリピン両国による批判などを経て、首脳会談でも譲歩を引き出せなかったオバマ政権が今回の行動に踏み切らざるを得なかったものだという。そうであるがゆえに、中国との対立を過熱させず、偶発的衝突を回避しようという配慮が随所にあり、ラッセンの動きは随時、フェイスブックで公開されていたという。また米当局者は「ベトナムやフィリピンによる構築物の周辺でも実施する」として、中国のみを狙った行動ではないことを強調したという。それでも《読売》は、今回の行動によって中国人工島から手を引く可能性ない断言する。既に南シナ海で「中国は制空権を確保」しているという。しかも、これをきっかけに、南シナ海での防空識別圏設定を行う可能性があるという。

6面と7面の国際面にも複数の記事。人工島の航空写真、東シナ海での原油採掘リグの写真を全部並べ立てたときの《読売》紙面を思い出させる。また、対応が割れるASEAN各国についてのリポートでは、中国に対する批判姿勢の強弱で各国を3つに分けた図を掲載。領有権を争うベトナム、マレーシア、ブルネイとは対照的に、ミャンマー、ラオス、カンボジアの3国は中国経済の影響下にあるので批判姿勢は弱いという。また李克強首相の訪問を控えた韓国は態度表明を避けていると。

uttiiの眼

中国批判というのは《読売》の大好物で、今回も色々なところにその「片鱗」が見えるけれど、記事の水準圧倒的に高く面白い。考える材料という意味でも、重要な事実がたくさん摘示されている。

アメリカが構想する中国包囲網?

【毎日】も1面記事に続いて、3面の解説記事「クローズアップ2015」では「米、人工島譲歩狙い」との見出し。中見出しは「航行の自由前面に」と「中国「主権に脅威」」の2つ。

3面解説記事では、アメリカの狙いを「11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議や東アジアサミットで『航行の自由』を主要議題にして、包囲網を築き、中国から譲歩を引き出すためと見られる」と、独自の分析米中首脳会談譲歩引き出せなかったことで派遣が決断されたと見る向きが多いこと、今後も、中国が既に3,000メートル級滑走路完成させているファイアリクロス礁などで同様の作戦が続くだろうとしている。

《毎日》は、中国側の対抗措置について、3つのシナリオを描く。1つは今後も監視、追跡、警告を続けること。2つ目は中国艦を米艦に異常接近させたり衝突させたりすること、3つ目は中国艦に、米国の領海を無害通航させること。過去の例から見て、いずれも現実性がある。

8面9面の国際面見開きの作り方は、《読売》と驚くほどよく似ている。右側の面は、環礁を埋め立ててきた「証拠写真」、左ページはアジアの各国で対応・反応が分かれているという記事。

uttiiの眼

《読売》と近い認識だが、《読売》よりも中国の反応に関する部分が具体的で詳細。記事のレベルは高いように思う。ちゃんとした軍事記者がいるのだろう。

大国意識と危機意識

【東京】は、1面の下段に、「中国2艦、追尾・警告」「『不法進入』米を批判」との中国を主語にした基本的な記事。3面の解説記事「核心」は「『寸止め』米中 にらみ合い」の見出し。

3面の解説記事「核心」は、中見出しに「米国 対話に手詰まり感」と「中国 避けたい軍事対決」の2つを置き、対比的に解説している。各紙同様、習金平主席との直接会談が空振りに終わり、対話に行き詰まった末の駆逐艦派遣という理解が紹介されている。珍しくヘリテージ在団の専門家の意見が紹介されていて、今後中国が対抗上、南シナ海にも防空識別圏を設定しないか懸念されるということ、そうなると米議会の神経が逆なでされ、オバマ政権に対する風当たりが一層厳しいものになるとの観測も。

南シナ海への進出を強めている中国については、「大国意識と危機意識」の両面があるという。

世界第2位の経済大国に見合った海外権益を確保したいという姿勢と、他方で、米国のアジア重視、日本の安保政策転換などで中国は挑戦に晒されているという危機感。

uttiiの眼

短いが、充実した記事。米国についても、中国についても、その強さとともに弱さを見つめるということが必要なのだろう。他方、私たちにとって軍事関係の情報は非常に危険なので、警戒感を抱く必要もあると同時に、簡単に煽られたり、過剰な危機意識を持たされたりしないようにしなければと思う。

image by: Shutterstock

 

uttiiの電子版ウォッチ』2015/10/28号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
≪無料サンプルはこちら≫

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け