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シリア難民が「フランス行き」だけは頑なに避けようとする理由

ヨーロッパ在住の日本人たちが、その土地ならではの話題をリレー形式で綴っていく『出たっきり邦人【欧州編】』。今回ご紹介するのは、10年に一度の滞在許可の更新年を迎えたという、パリ在住の方からのレポートです。欧州各国が直面している「シリア難民問題」の影響は、彼ら移民者たちにも大きく及んでいるようで……。

外国に住まわせてもらうということ

みなさま、こんにちは。

今年は、滞在許可の更新年でした。10年に一度ですから、その度に、手続きの方法や提出する書類が変更されていて戸惑います。

移民受け入れが年々厳しくなる今日この頃、10年カード更新の際にはフランス語のテストがあるという噂を耳にして恐れていたのですが、それは国籍を取得する際のことでした。

手続きは中途半端に旧態依然でして、まず県庁移民局へおもむき、必要書類一覧をもらいます。何故わざわざ取りに行くことになっているかというと、受け取る際に日付印が押されて、それから10日以内に必要書類を提出しなければならないからなんですよね。

言っておきますけど、移民局にいく時には半休を取って、朝から気合を入れて並びますからね。一日の受け付け人数が決まっているので、整理券をもらうために早くから並ぶんです。

パリに接触した、移民の多い地区の県庁では、今でも朝5時や6時から行列ができると聞きますが(20年前から全く変わっていない)、私の住むところではそこまでひどくないです。開局と同時くらいに到着できれば、それほど並んでいません。

ちなみに、学生の滞在許可申請と、難民申請は別窓口です。私が行くのは、滞在+労働許可申請。で、無事に書類を郵送しまして、あれ? 受付証はもらえないの?

昔は、書類を提出すると、その場で申請中証明がもらえまして、その証明書が仮のIDカードになる、というわけだったのですが、それがもらえないと、申請中に滞在許可の期限が来た時(十分あり得る)どうすればいいのか。しかも、滞在許可に関する電話でのお問い合わせは一切受け付けませんと来たもんだ。

移民局のサイトで調べてみましたら、申請は郵送にて行う。カードの準備ができたらSMSで連絡が行く。期限一週間前までに連絡がなければ出頭するように。とありました。

SMSだと? 携帯を持っていない人はどうすんだ? 期限一週間前って、そこまで待ってからまた半休取って並べってか。わたしの期限は8月24日だったのですが、案の定、8月に入っても何の音沙汰もなかったので、仕方なく出頭しました。半休取って。

するとあっさり、「はいはいあなたのカードは今審査中です(いつまで審査するんだ、書類を郵送したのは5月だ)申請中証明を発行します。ついでに指紋を取ります」…… ついでって。

実は、フランスで指紋押捺したのは初めてです。今まで滞在許可申請で指紋押捺したことはありません。

しかし、指紋押捺が義務化された事は知っていたので、これをするってことは、書類は通過したってことだなと判断し、言われるままに押捺し(変な機械だった……)証明書をもらって、さらに待つこと1ヶ月以上。まさかのSMSが来ましたよ。宣伝SMSと間違って削除してしまったらどうしてくれるんだろう。

あなたのカードができあがったので、260ユーロの収入印紙とパスポートと旧カードと申請中証明を持って取りに来なさい。

260ユーロだと? 足元を見るのもいい加減にしてほしいものです。EU統合以来、EU人は滞在許可が要らなくなりましたからね。難民にはお金を取るどころか滞在費を提供しなきゃいけませんし。その分のしわ寄せですかね。ふん。

10年に一度の260ユーロに、嫌味たらたらな私もどうかとおもいますが。

さて、その難民ですが、シリア難民の人の意見に、「フランスには行きたくない、申請が許可されないと聞いているし、フランス人は外人に冷たい人が多いから」というのがあったそうで、今現在、受け入れ先を探して必死なシリア難民にさえ嫌われるフランス人、というのが最近のうちの職場での自虐ネタになっているのですが、実際、難民申請は簡単ではありません

私もよく知らなかったので、今回ちょっと調べてみました。申請の流れを軽く追ってみますと

1.難民申請可能な移民局へ行く。そこで申請人の出身地、居住地、申請歴などが調べられ、フランスが保護すべき人かどうかが確認される。

 

2.1がOKとなると、1カ月有効の仮滞在許可がもらえる。同時に、難民保護局への申請書類が配布され、それに記入して配布後21日以内に提出する。

 

3.難民保護局は書類を審査し(約4ヶ月かかると書いてありますが実際は最低4ヶ月が正しい)通過すれば6ヶ月有効の申請中証明(仮滞在許可)が発行される。

 

4.最終審査と個人面接、それも通過すれば難民認定。

この間、難民保護施設またはそれに相当する宿泊所に滞在できる(義務ではない)。保護施設に入居しない人(親戚がフランスに住んでいる等)は一日につき11.45ユーロ(月343.5ユーロ)を受け取ることができる。6歳から16歳の子供は、滞在地区の学校で教育を受けなければいけない(権利ではなく義務です、と明記されている)。

また、難民認定後は大人も無料でフランス語講座を受けることができる。最初の書類が通過した後の健康診断は義務、病気になった時の治療費はもちろん無料。6ヶ月の仮滞在許可は労働許可を含まない。

簡単に書きましたけど、この、1~4のどの段階でも拒否される可能性があるんですよね(拒否されたら、家裁に申し立てして、再審査請求ができる)。もちろん、申請者個人の状況により、違いがあるはずですが、とにかく審査が長いのなんのって、認定が下りるまでに2年や3年かかる人も珍しくないようです。

実は、私の職場の2軒隣に、パキスタン人経営の小さな金物屋があって、そこで働いている、やはりパキスタン人のおじさんが、2年前から難民申請中なんです。何度も何度も(ていうかほぼ毎日……)うちの事務所にコピーを頼みに来ています(うちはコピー屋ではないのですが、近所のよしみで)。同じ書類を何度も何度も。あっちに提出、こっちに提出、もう訳がわからないよ、っておっしゃっていました。

去年までは自力でがんばっていましたが、疲れ果ててついに弁護士を雇い、どうやら、やっと、あと一歩で、家族全員に認定が下りる運びになったようです。

すみません、他のEU諸国の難民認定までは調べていませんが、手続きそのものは、ほぼ同じだと思いますよ。通過しやすいかどうかが違うだけで。

フランスは、経済状態よくないですからね。失業率も下がっていませんし。正直言って、難民受け入れのために税金を増やすなんて言ったら暴動が起こりかねないです。でも、立場的には受け入れざるを得ないし、それはフランス人もわかっていないわけではない。

難民認定には2通りあり、

A.人種的、政治的または宗教的迫害を受けて居住国にいられなくなった人(日本語で言う亡命者ですね)

 

B.居住国内で戦争、紛争、テロなどが頻発し、命の危険にさらされているため、居住国を逃れることを希望する人

Aの人は難民認定されると10年滞在カード(事実上の永住許可)が発行され、Bの人は1年の短期滞在カード(更新可能)が家族全員に発行される。A、Bとも、労働許可を含む。

難民保護局のディレクターが話したという新聞記事に拠りますと、今回、シリア、イラク難民に関しては、手続きが簡易化され、認定も早いだろう、おそらく、3分の2が上記A認定、残りがB認定になるだろう、とのことです。

必ずしも出身国を離れる必要はないが、移住を希望し、260ユーロ払って、フランスに「住まわせてもらう」移民と、祖国を離れざるを得なくて、フランスの「保護を受ける」難民、亡命者は違います。

移民も多いが難民も決して少なくないフランスでは、中学生にもなれば、その違い誰でも知っているでしょう。難民受け入れの前に女性活躍云々、というどこかの首相の発言は、外国人にとっては、何が言いたいのか、さっぱりわからなかったことでしょう。なぜなら、一国の首相が移民と難民の違いをわかっていないなどということは、ありえないからです。

ではみなさま、また、そのうちに。

(MAO@ふらんす)

image by: Shutterstock

 

『出たっきり邦人【欧州編】』
スペイン・ドイツ・ルーマニア・イギリス・フランス・オランダ・スイス・イタリアからのリレーエッセイ。姉妹誌のアジア・北米オセアニア・中南米アフリカ3編と、姉妹誌「出たっきり邦人Extra」もよろしく!
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