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南シナ海作戦はほんの序章。アメリカは2つの「戦争」を中国にしかける

中国による南シナ海埋め立て問題を事実上2年間無視していた米国が、なぜここに来て「航行の自由作戦」を開始したのでしょうか。メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』によると、そこにはあの「AIIB事件」が深く関わっているといいます。

AIIB事件がなかったら、米中南沙対立もなかったの??

読者のSさまから、こんな質問をいただきました。

もし件のAIIB事件が起こらなかったら、南シナ海の行方というか…。

 

中国の人工島建設は完成して、人民解放軍の基地になってしまったのでしょうか?

 

AIIB事件が起らなかった時、米国はどうするつもりだったのでしょうか?

皆さんご存知のように、今年3月に「AIIB事件」が起こった時、「アメリカは、必ず中国に逆襲する」と書きました。

メルマガでは長すぎるので、ダイヤモンドオンラインさんに、「どうやって逆襲するのか?」その方法も書きました。

リベンジ~AIIBで中国に追いつめられた米国の逆襲

で、半年経って、まさに書いたとおりになっている。そこでSさまは、疑問に思われた。「でも、AIIB事件がなかったら、どうなっていたのだろう??」と。今回は、これを考えてみましょう。

AIIB事件前の状況1~シリア戦争ドタキャン

世界情勢を知る最重要ポイントは2つです。

1.長く見る

つまり、過去までさかのぼって見ること。

2.広く見る

つまり、「世界的視点」で見ること。たとえば、ウクライナ情勢を見るときも、シリア情勢を見るときも、必ず大国群の意図と動きを見ること。というわけで、AIIB事件が起こる前の世界情勢を見てみましょう。

アメリカには、戦略上「重要な地域」が3つあります。すなわち、

で、アメリカが「どの地域を最重要視するか?」は、情勢によって変わるのです。

2013年、アメリカの目は、明らかに「中東」にむいていました。具体的には、シリアの反米アサド政権を打倒すること。2013年8月、オバマは、「アサド軍が化学兵器を使ったので、シリアを攻撃する!」と宣言しました。国連報告によると、化学兵器使っていたのは「反アサド」の方だったのですが、ここでは詳しく触れません。証拠に興味がある方は、こちらをご一読ください。

ロシアは絶対悪なのか。シリア空爆の驚くべき「裏側」

2013年9月、オバマは「シリア戦争」をドタキャンして、世界を驚かせました。プーチンの仲介で、アサドは、「化学兵器破棄」に同意。そして、アメリカは、アサドのバックにいるイランとの和解にも動きはじめました(2015年7月、核開発問題で歴史的合意に至る)。

こうして、オバマは「シリア攻撃」を断念し、イランとの和解に動きはじめた。これは一体なんなのでしょうか? なぜアメリカにとって「中東」は大事だったのか? ここに原油と天然ガスが集中しているからです。

ところが、シェール革命で、アメリカは、原油生産でも天然ガス生産でも世界一になってしまった。自国の埋蔵量も、十分あることがわかってきた(シェール革命前は、「2016年頃アメリカの原油は枯渇する」といわれていた)。それで、中東の重要度が下がってしまったのです。

これが、アメリカのシリア放置イランとの和解の本質です。

AIIB事件前の状況2~ウクライナ問題とイスラム国

さて、シリア戦争ドタキャンの2か月後、今度は欧州ウクライナが騒がしくなってきました。親ロシア・ヤヌコビッチ大統領に反対する大規模デモが起こった。2014年2月、革命が起こり、ヤヌコビッチは失脚します。

これ、「陰謀論」でもなんでもなく、アメリカがオーガナイズしたのです。なんといっても、「オバマさん自身」が認めていますから。証拠はこちら。

オバマ大統領 ウクライナでの国家クーデターへの米当局の関与ついに認める

動画はこちら。

● Brokered it & broke it: Obama on Kiev deal that paved path to bloodshed

2014年3月、ロシアはクリミアを併合。これで、アメリカの最重要ポイントは欧州にシフト。最大の敵はプーチン・ロシアになりました。

しかし、「ロシア憎し」の情熱も長つづきしませんでした。同年8月、アメリカは「イスラム国」への空爆を開始しています。以後、アメリカの視線はプーチン・ロシアとイスラム国をいったり来たりしていました。

AIIB事件の衝撃

アメリカの「戦略重要地域」は、欧州、中東、アジアである。しかし、2013~14年の動きを見ると、アメリカは中東と欧州(ウクライナ)で戦っている。アジアには視線がむいていないことがわかります。

ところが、2015年3月、すべてを一変させる「AIIB事件」が起こった。

毎回書いていますが、親米国家群、具体的にはイギリス、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国などなどが、中国主導「AIIB」への参加を決めた。しかも、アメリカが「入らないよう」要求していたにも関わらずです。

「親米国家群が、アメリカのいうことではなく中国のいうことを聞く!!!!!!」

これはつまり、「アメリカではなく中国が覇権国家になりつつあること」を示していました。「AIIB事件」で、アメリカの「主敵」は、「プーチン・ロシア」「イスラム国」から、中国にかわったのです。

【参考】AIIB進撃の中国に、アメリカが宿敵・ロシアと和解する可能性が浮上

4月末、安倍総理の「希望の同盟」演説で、「日本は味方」であることを確信したアメリカ。5月から、中国の「南シナ海埋め立て問題」をバッシングしはじめました。

これ因果関係が重要です。

「AIIB事件(原因)があったから、南シナ海埋め立てをバッシングしはじめた(結果)」

決して、「中国が国際法を無視しているから、バッシングを開始した」のではない。それが証拠に、中国は、「2013年」から埋め立てを開始しています。アメリカは、事実上2年間、中国の動きを無視していた。つまり、「AIIB事件」で衝撃を受けたアメリカが、「南シナ海埋め立て問題」を「口実」にして「中国バッシング」を開始した。

こういう「因果関係」です。

「AIIB事件」がなかったら?

さて、Sさまからの質問に戻ります。

もし件のAIIB事件が起こらなかったら、南シナ海の行方というか…。

 

中国の人工島建設は完成して、人民解放軍の基地になってしまったのでしょうか?

 

AIIB事件が起らなかった時、米国はどうするつもりだったのでしょうか?

ここまで2013~15年の動きを見てきましたが、「AIIB事件」が起こるまで、アメリカは「南シナ海」の状況にあまり関心をもっていませんでした。ということは、「AIIB事件」がなければ、2013~14年の状況がしばらくつづいていたことでしょう。つまり、アメリカは、プーチン、イスラム国との戦いをつづけていた。

しかし、アメリカが、巨大化する中国の脅威に、永遠に気づかないということもあり得ないでしょう。「AIIB事件」ではない他の事件で、「ええ!? 中国ヤバいじゃん!」と気づいたはずです。その時、やはり「南シナ海埋め立て」は、問題になっていたはずです。

要するに、「はやいか、遅いかの違い」ということですね。日本にとっては、「AIIB事件で、アメリカがはやめに気づいてくれてよかった!」ということなのですが。

アメリカは、「表面上」何も変えることができないが…

もう一度、Sさまの質問を。

もし件のAIIB事件が起こらなかったら、南シナ海の行方というか…。

 

中国の人工島建設は完成して、人民解放軍の基地になってしまったのでしょうか?

 

AIIB事件が起らなかった時、米国はどうするつもりだったのでしょうか?

この、「中国の人工島建設は完成して、人民解放軍の基地になってしまったのでしょうか?」ですが。米海軍が動いたにも関わらず、中国は「人工島建設」をやめないと思います。

ウォールストリートジャーナル10月28日に、「南シナ海の米中緊迫、5つのポイント」という記事がありました。その5番目のポイントは、以下のようになっています。

5.この作戦で実際に何かが変わるのか

 

ほとんど変わらない。

 

中国が造成した7つの小島が存在しなくなるわけではなく、この海域で中国がますます民間・軍事的存在感を示すのは避けられないようだ。

 

米国は重要な原則とみえるものを示したが、このささやかな抗議行為では、中国が南シナ海における基地ネットワークの構築・維持という目的を最終的にあきらめることはないだろう。

まさに、その通りでしょう。そして、アメリカも、「今回の威嚇で『人工島建設』を断念させよう」とは思っていないはずです。

しかし、私たちは、「米中覇権争奪戦」が「はじまったこと」をはっきり自覚しておく必要があります。そして、「核兵器大国」同士の争いにおいて、「軍隊同士の戦闘」は「戦争のほんの一部」でしかないのです。2014年の「米ロ対立」を見ればわかります。

「プーチンはヒトラーの再来だ!」
「プーチンは世界の孤児だ!」

など、脳みそに残る言葉を100万回繰り返し、信じさせる。

そして、実際の戦闘は、「代理戦争」でした。つまりアメリカの利益を代表するウクライナ軍と、ロシアの利益を代表するウクライナ東部「親ロシア派」の戦い。米中の争いも、両国軍が大戦争をするような事態は、最終段階まで起こらないでしょう(孫子もいってますが、「戦わずに勝つ」のが一番いいのです)。

アメリカは、別の手段をメインに中国をつぶしていくはずです。

具体的には、

です。

結局アメリカは、「中国の一党独裁体制を崩壊させ、民主化させること」を目指すことでしょう。

「AIIB事件」まで、アメリカの支配層は、「中国はアメリカの作った世界秩序の中にとどまる」と信じていました。しかし、「AIIB」は、明らかに「アメリカの世界秩序の『外』に新たな国際金融機関をつくること」ですから、「裏切り」に激怒しているのです。

アメリカより日本の「自覚のなさ」が心配

それより私が心配なのは、「米中関係が最悪になっている」中、日本政府が中国との関係改善に動いていることです。

安倍談話、最後の方にこうあります。

我が国は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります。

「その価値を共有する国々と手を携えて」とあります。

これは、アメリカとか欧州、オーストラリア、インドなどのことをいっているのでしょう?

今、価値を共有するアメリカは、共産党の一党独裁で、人権も言論の自由もない中国と戦っています。そんな中日本は、「価値をまったく共有しない国」と関係を改善している。なにやってるんでしょうね。

日本政府は、「みんなと仲良くしなきゃね」ということなのでしょう。

しかし、アメリカは、「安倍の『希望の同盟』演説も、『談話』も口だけ。日本は米中を戦わせて「漁夫の利」を得ようとしている狡猾な国だ!」と疑うことでしょう。

韓国みたいな「二股外交」はやめて、是非「希望の同盟演説」「談話」が「ウソでないこと」を証明してほしいと思います。

image by: Everett Collection / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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