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パリ多発テロ、イスラム国の「金と武器」はどこから来るのか?

パリ同時多発テロを遂行したイスラム国。メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では、読者から寄せられたその資金源や武器の調達法などの質問への回答と、今後のイスラム国の動きなどについてが詳しく記されています。

パリ同時多発テロ~イスラム国の資金源

「パリ同時多発テロ」で、再び注目されることになった「イスラム国」。「イスラム国の資金源は?」「武器はどこから?」といった質問がたくさん届いています。今回は、これについて考えてみましょう。

「イスラム国」について、知っておくべき「2つの基本」

まず基本をおさえておきましょう。これ、知らない人には結構衝撃なのですが。知らないと話が先に進みません。

「イスラム国」について知らなければならない「2つの基本」はこちらです。

1.「イスラム国」は、「元アルカイダ系」である。

アルカイダ。説明する必要もないですが、「9.11」を起こしたとされる組織。アメリカ「最大の敵」とされていました。

2.「イスラム国」は、「元シリア反体制派」(反アサド派)である。

なぜこの2つが「衝撃」なのか? だって、アメリカは、「反アサド派」を支援してますよね? で、「反アサド派」の中には、「アルカイダ系」の「イスラム国」もいた。アメリカは、「9.11」を起こしたとされる「アメリカ最大の敵」を含む勢力を支援し、アサドと戦わせていたのです。

「トンデモ、トンデモ、トンデモ~~~!!」

新規の読者さんから、そんな怒りの声が聞こえてきます。では、証拠をお見せしましょう。皆さん、「目を皿のようにして」次の記事を熟読してください。「反アサド派が仲間割れしていたが、仲直りした」という記事です。

2013年9月21日 AFP-時事から。

シリア北部の町占拠、反体制派とアルカイダ系勢力 対立の背景

 

トルコとの国境沿いにあるシリア北部アレッポ(Aleppo)県の町、アザズ(Azaz)で18日に戦闘になったシリア反体制派「自由シリア軍(Free Syrian Army、FSA)」と国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系武装勢力「イラク・レバントのイスラム国(Islamic State of Iraq and the Levant、ISIS)」が停戦に合意したと、イギリスを拠点とするNGO「シリア人権監視団(Syrian Observatory for Human Rights)」が20日、明らかにした。 ([AFP=時事])

字がつまっているので、分解してみます。

欧米が支援していた(いる)「反アサド派」

「自由シリア軍」

アルカイダ系

「イラクとレバントのイスラム国」(ISIS)

が「停戦に合意した」とあります。ここで、上に書いた2つのことが証明されます。

1.「イスラム国」は、「アルカイダ系」である。

2.「イスラム国」は、欧米が支援した「反アサド派」に属していた。

この記事は2013年9月。思い出してみると、2013年8月、オバマは、「シリア(アサド政権)を攻撃する!」と宣言した。しかし、翌9月、シリア攻撃をドタキャンした。この時期、「イスラム国」は、欧米が支援する「善の反アサド派」に属していたのです。だから、「イスラム国」は、もともと「欧米からの支援で強力になっていった」のです。

「イスラム国」を太らせたのは誰だ!?

2010年から、「アラブの春」という革命運動が、中東、北アフリカで盛んになっていきました。2011年、その波は、シリアにも及びます。

シリアで内戦がはじまった。この時、シリアに海軍基地をもつロシアと、イランアサド現政権を支持しました(いまもしています)。

一方、欧米は、逆に「反アサド派」(イスラム国も含む)を支持しました。支持しただけでなく、「支援」したのですね。金と武器

この勢力図ですが、もう少し詳しくみてみましょう。「イスラム国」について読んだ本の中で、もっとも詳しかったのは、こちら。

●「イスラーム国」 アブドルバーリ・アトワーン著 (集英社インターナショナル)

この本(202p)によると、「反アサド派」を支援した国は11か国。すなわち、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、トルコ、サウジアラビア、ヨルダン、エジプト、アラブ首長国連邦、カタール。欧米以外は、「スンニ派イスラム教」の国々です。

アサドを支援するイランは、「シーア派」。シリアは、「スンニ派多数」ですが、アサド自身は「シーア派」の一派とされる「アラウィー派」。つまり、「スンニ派」と「シーア派」の対立も深くかかわっているのですね。

この本によると、「反アサド派」をもっとも多く支援したのは、「サウジアラビア」「カタール」となっています。

サウディアラビアとカタールが革命勢力に資金、武器支援を行った。

 

「ニューヨーク・タイムス」は、2012年1月、カタールが武器を貨物機に載せてトルコに運び、革命勢力に供与していたと報じた。

 

サウディアラビアも軍用機でミサイルや迫撃砲、機関銃、自動小銃をヨルダン、トルコに運び、シリア国内に送り込んでいた。

 

非公式の情報に基づけば、サウディアラビアは50億USドル(約6,150億円)を、武器支援などのシリア反体制派支援にに費やしたという。  (203~204p)

これは、アメリカの支持、あるいは黙認のもとで行われたことでしょう。こうして、当時欧米+スンニ派諸国が支持、支援する「反アサド派」に属していた「イスラム国」は、強力になっていったのです。

普通の人たちは、こういう背景を知らないので、「なんかイスラム国って突然出てきて、あっという間にイラクとシリアの広大な地域を支配して。いったいなんなんだ????」と不思議に思うのです。

さて、2013年9月、アメリカは、「シリア・アサド政権攻撃」を中止。「化学兵器破棄」を条件に、アサド政権の延命に同意します。さらに、オバマは宿敵イランとの和解に動き、2015年7月の「核合意」にむかっていった。

サウジアラビアは、アメリカの変節に激怒。両国の関係は、悪化しました。そして、シリア、イランとの和解は、アメリカ、イスラエル関係にも深刻な打撃を与えています。

「イスラム国」、現在の資金源

何度も書きますが、アメリカは2013年9月、「アサド政権攻撃」をやめた。「アルカイダ系」で「反アサド派」の一派だった「イスラム国」は、独自の動きを強めていきます。

そして現在。

「イスラーム国」の著者アトワーンさんは、「イスラム国」が「大きな脅威である3つの理由」をあげています。

1.「イスラム国」は経済的に自立している

彼らの収入源は?

イラク中央銀行から、5億ドルを強奪した。石油販売で、1日200万ドルの収入を得ている。支配地域の住民約1,000万人から税金を徴収している。

2.「イスラム国」は武器を大量に保有している

なぜ?

イラクとシリア両国政府軍拠点を制圧し、アメリカ製、ロシア製の武器を大量に鹵獲(ろかく)した。2,700を超える、戦車、装甲車、軍用車両を所有している。

3.「イスラム国」には、支配した地域を統治する能力がある

というわけで、「イスラム国」が資金と武器をもっているのには、それなりの理由があるのです。

しかし…

しかし、「イスラム国」の進撃も、つづきそうにありません

1つ目の理由は、9月30日にロシアが空爆をはじめたこと。ロシアには、親ロ・アサドを守りたいという切実な動機があります。だから空爆も真剣。1か月半の空爆で、アサド政権は、息を吹き返しました。

2つ目の理由は、「パリ同時多発テロ」です。アメリカやフランスを含む「有志連合」には、なんやかんやと、「イスラム国を使ってアサド政権を倒したい」という不純な動機がある。それで、空爆もダラダラやっていた。しかし、パリのテロで、もう少し真面目に「イスラム国」と戦う必要が出てきました。「イスラム国」は今後、かなり苦しい状況におかれることでしょう。

とはいえ、彼らは、欧州を中心にひろがり、「テロ」を行うことでサバイバルをはかるでしょう。

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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