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プーチン大激怒!トルコのロシア軍機撃墜を各紙はどう報じたか

11月24日、トルコとシリアの国境付近で、ロシア軍の戦闘爆撃機がトルコ側に撃墜されました。脱出した乗員2人は武装勢力に銃撃されて死亡、さらに救援に向かったヘリも銃撃されて1人が死亡しています。歴史上繰り返されてきた露土戦争が新たに始まりそうな勢いですが、この緊迫した事態について日本の各新聞はどのように報じているのでしょうか。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』では各紙の分析を解説しています。

トルコ、ロシア軍爆撃機を撃墜。各紙の報道は

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「トルコ、ロシア軍機撃墜」
《読売》…「軽減税率 財源4000億円超」
《毎日》…「トルコ、露軍機を撃墜」
《東京》…「福島事故の健康不安対策」「原発関連財団請負い」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「マイナンバー配達延長」
《読売》…「宇宙産業 新たな一歩」
《毎日》…「2段ロケット改良奏功」
《東京》…「低所得者 薄い恩恵」

*やはりトルコによるロシア軍機の撃墜事件が大きく扱われています。各紙取り上げていますが、《朝日》と《毎日》は1面トップ。《読売》は1面、《東京》は3面。各紙、関連記事の数も量も多くなっています。微妙な情報の違いは、各紙の新聞としての姿勢の違いというよりは、偶然的なことも多いかと思います。今日は政治的な傾向の比較よりも、各紙の報道を総合する方向で見ていきましょう。

◆今日のテーマは……。

各紙は、トルコによるロシア軍機撃墜事件をどう報じたか、です。

【基本的な報道内容】

トルコ軍は24日朝、領空を侵犯したとしてロシア軍のSu24戦闘爆撃機1機を撃墜した。機体はトルコ国境近くのシリア北部に落ち、乗員2名は緊急脱出装置で脱出したが、パラシュートで降下中、トルクメン人のシリア反体制派武装勢力によって射殺された。また救援に向かったロシア軍ヘリも攻撃され、1人が死亡した模様。

ロシアのプーチン大統領は同日、トルコのF16戦闘機によって撃墜されたことを認めた上で、領空侵犯を否定し、「テロの共犯者による背後からの攻撃でロシア兵の命が失われた」とトルコを強く批判した。

トルコ軍によれば、同国南部で領空侵犯をしていた国籍不明機に5分間10回にわたって繰り返し退去警告をしたが、領空侵犯を続けたため撃墜。

NATOはトルコ政府の要請で緊急理事会を開き、対応を協議する。

プーチン大統領は、ISの資金源である石油や石油製品の密売に係わっているとして、トルコを「テロの擁護者」と呼び、強く批判。対ISの戦いでロシアが進めようとしてきた欧米との協力に大きく影響しかねない事態になっている。

【朝日】イラク・シリアで大戦争が始まっている

【朝日】は1面の記事に加えて3面の記事で今回の撃墜事件自体を扱っている。

13面国際面の記事も「関連」とされてはいるのだが、こちらは別内容。見出しは「米仏、IS空爆強化へ」「資金源の石油や拠点標的」。中見出しは二つ。「仏、攻撃力3倍超」と「米「車両400台破壊」」。前半は原子力空母シャルル・ドゴールの参加でこれまでの3倍の航空機が空爆に参加することになったこと、後半は、アメリカが50人の特殊部隊を派遣して反体制派の支援と情報収集に当たらせ、ISの資金源を絶つ目的で、石油密輸ルートを空爆、タンクローリーなど400台を破壊したとする。

uttiiの眼

13面記事には今回の撃墜事件については全く触れられていない。パリとワシントンの特派員3人が書いた記事で、中身は、米仏による大規模な軍事行動がイラクとシリアに跨がるIS支配地域で始まっていることを示している。この記事、おそらくは撃墜事件の前に書かれていて、初めから掲載が予定されていたのではないか。そのことがかえって奏功し、イラク・シリアを巡る基本的な状況・情勢のなかで撃墜事件を見るという視点を提供することになった。端的に言えば、撃墜事件で利益を得たのはISだということは考えておく必要のあることだと思う。

【読売】領空侵犯は本当?

【読売】は1面の中央に基本的な情報の記事を載せる。プーチン氏は「トルコ軍のF16戦闘機から発射された空対空ミサイルに撃墜された」と語り、また、「今日の悲劇的な出来事はロシアとトルコとの関係にとって重大な結果をもたらすだろう」と述べたとする。

関連記事は2面と6面。2面は、「対「イスラム国」亀裂も」との見出し。シリア内戦をめぐっては、ロシアや米国、フランス、トルコを含む関係20カ国・機関がウィーンに集まり、アサド政権と反体制派が年内に直接交渉を初め、半年以内に「統治機構」を樹立することで合意していたのに、今回の事件でその協力の動きに水を差す恐れがあるとする。

6面は国際面の記事で、「露、過去にも領空侵犯」との見出し。ロシアによるシリア空爆開始後、トルコによればロシア機が頻繁に領空侵犯を繰り返し、IS掃討と言いながら、シリア北西部のトルコ系少数民族の村が空爆されているとして反発を強めていたことが背景にあるとする。

uttiiの眼

13日のパリでのテロ、翌14日にはフランス軍による攻撃の激化と20カ国間の合意。シリア内戦の収拾手順について合意ができた後、米仏とロシアの双方が攻撃を激化させているのは、話し合いを始める前にそれぞれの支持する勢力が支配地域を広げられるよう、いわば駆け込み的に攻撃を強めている様子が浮かんでくる。既成事実を積み重ねておくことが、交渉を有利に進めるための前提条件になるわけだから、これは当然なのだろう。その中で、アサド政権を支持するロシアの戦闘爆撃機が、アサド政権と敵対するトルコの戦闘機によって撃墜されたことになる。

飽くまで報じられていることを材料に私見を申せば、ロシア側に領空侵犯によって得られるものはなく、逆にトルコ軍にはシリア上空で活動するロシア機を撃墜する利益は明らかにある。事実は分からないが、《読売》の見出し「露、過去にも領空侵犯」はミスリーディングだ。《読売》が勝手にロシア軍機の領空侵犯を断定するに等しい。少なくとも、読者には、それが当然の事実であるかのように受け取られてしまう。

反体制派とISを同一視する事情

【毎日】は1面トップで基本的な情報。この撃墜事件について、イラク駐留米軍の報道官が「純粋にトルコとロシアの事件だ」と述べながら、ロシア軍機が「本来飛ぶべきでない空域を飛行していた」とも述べたとしている。

9面に関連記事。「IS包囲網 暗雲」との見出しで、今回の事件で米ロの協力が困難になったとしている。ここには他紙にない注目すべき情報がいくつか書かれている。

一つは、ロシア国防省が当初、シリア国内で地上からの砲撃で撃墜されたとしていたのを、プーチン大統領が訂正してトルコ軍機による撃墜としたこと。また、ロシア軍機が展開していたシリア北西部のラタキア付近に対する空爆を、「ロシア出身の武装集団が集中した場所。彼らがロシアに帰ってテロ攻撃を仕掛ける前の先制攻撃だ」と理由付けしたこと。その上で、「ISは(トルコ)国軍の全面支援を受けている」と述べていることだ。つまり、空爆は、ロシアにとっての「テロとの戦い」であり、それはトルコに対するものでもあるということになる。

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プーチン氏はトルコに支援されているトルクメン人武装勢力とISとを同一視しているように見える。トルコがシリアを侵し、アサド政権を倒そうとしている張本人であり、だからこそアサド政権を支えるロシア軍機を攻撃したということだろう。だとすると、この一件は、シリアをめぐる基本的な軍事対立の延長線上で起きたことであり、単なる領空侵犯事件(実際に侵犯したかどうかも分からないが…)ではないことになる。《毎日》が心配するように、フランスのオランド大統領が手がけた仲介外交も座礁しかねないといったところか。

《毎日》の記事で一番印象深かったのは写真だ。他紙はすべてロイターが提供した不鮮明な写真を使用していて、「炎に包まれながら落下する軍用機」というような説明がついている(《読売》)のだが、《毎日》だけは火を吹きながら飛んでいるロシア軍機を鮮明に捉えた写真。提供元は「ゲッティ共同」とあるので、ゲッティ・イメージズから共同通信を経て配給された映像であることが分かる。動画も比較的鮮明なものがテレビのニュースで繰り返し使われているようだが、なぜ、このような映像が撮られたのか、不思議な感じもする。

ロシア軍の攻撃が激化する可能性

【東京】は3面に基本的な情報の記事。プーチン氏は、ISがトルコ国境を通じて石油を密輸していると指摘、さらに「テロの共犯者に後ろから撃たれた。こうした犯罪を絶対に許さない」と述べたとする。また、脱出した二人のパイロットは、「着地前に反体制派のトルクメン人武装勢力に射殺された」とする。

関連記事は9面の国際面。見出しは「「後ろから撃たれた」」「プーチン氏、怒りあらわ」。カイロの特派員による記事。14日に合意したシリア内戦に関する新和平合意は半年以内の移行政権樹立が方針となっているが、シリア問題に詳しいレバノンのジャーナリストは、「移行政権の樹立どころか、アサド政権と反体制派の交渉すら実現しない恐れが出てきた」と指摘。さらに、ロシアは今後、トルコが支援する反体制派勢力に激しい空爆を加える可能性が高いとも。

さらに、攻撃を受けたロシア軍のヘリは、アサド政権支配地域に緊急着陸したが、同地域では同じ日に、アサド政権側とアルカイダ系のヌスラ戦線との間で激しい戦闘があったという。

uttiiの眼

カイロ特派員の目と現地に詳しいジャーナリストの指摘で、新しい別の面が明らかにされている。ロシア軍の動きがさらに大きくなるのかどうか、注目しなければならないと思う。

関連記事に、一枚の写真が使われている。トルコの首都アンカラのロシア大使館前で「侵略者に抗議する」と書かれたブラカードを手に抗議する市民ら、という説明が付けられている。ロシア軍機の領空侵犯だけについてなのか、他のことも含まれているのか分からないが、オレンジ色の横断幕が目を惹く。横断幕もプラカードも、少し、手回しが良すぎる気がするのは私の見当違いだろうか。官製デモのようにも見える。

image by: Bangkokhappiness / Shutterstock.com

 

uttiiの電子版ウォッチ』2015/11/19号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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