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【いじめ対談3】正論、情、脅し。弁護士と探偵が伝授、いじめの解決法

メルマガ『ギリギリ探偵白書』の著者でこれまで5,000件ものいじめ相談を受けた探偵・阿部泰尚さんと、『弁護士谷原誠の【仕事の流儀】』の著者・谷原誠さんによる「いじめ対談」。前編では凄惨ないじめの現場を、中編では我が子のいじめに気づくために親がすべきことなどを語っていただきました。最終回の後編は、お2人がそれぞれ専門の立場で「いじめの解決法」を伝授してくださいます。

前編→「【いじめ対談】5000件のいじめ相談を受けた探偵が語る凄惨な現場とは
中編→「【いじめ対談2】こんなタイプの親が、我が子のいじめに気づけない

探偵と弁護士が伝授するいじめ解決のテクニック

まぐまぐ:酷いいじめが多く起こっている現状で、解決を急いであげないと被害者がどうなるかわからないという時に、先生が先生として機能してくれない、警察が見て見ぬふりをする、場合によっては加害側の保護者も罪を認めず子供をかばうということがあると思います。そういうときに、阿部さんはどういう風に、その状況を切り崩してらっしゃるのかなって。

阿部:僕らはやっぱり、証拠を押さえることがどうしてもメインになってきますね。……当事者らと話をしていく場合に関しては、同じ質問を繰り返したりといった、テクニックみたいなものってあると思うんです。要は先に言わせたうえで、その後それを否定する証拠を出していくみたいな……。そういうテクニックをフル活用することはよくあるので、調査する項目は非常に多くなってくる。

まぐまぐ:しかし、それって結構際どい手法ですよね。

阿部:僕らは学校じゃないと。……もちろん証拠を取る際に、倫理観に基づいた行動は必要だと思いますけれど、そこまで手段を選んでいないというケースもある。だから、彼らの仲間内を裏切らせて、LINEの中でやりとりしたデータやいじめの画像などを入手して、それを切り札に使うっていうことも、僕らは結構やります。

T.I.U.総合探偵社の阿部泰尚さん

まぐまぐ:そういう切り崩し工作も……。

阿部:いじめって複数人でやるので、全員が口裏を合わせているケースがほとんどなんですけど、全員が同じ利害のもとにいるとは限らないんですよ。そうすると、その中の1人をどう裏切らせるかという工作もするんですが、その辺は「大人のずるさ」を100%使ってるっていうのはあります。そのくらいはしないと、子供がそういう風になっちゃってる親御さんって変な人が多いので、認めないんですよ。……すごいのになってくると、弁護士を連れてくる親とかいるんですよ。せいぜい保護者が来ればいいぐらいの問題なのに、そこに弁護士さんを連れてきた時点で、自分の子供の権利を守ろうとしてるわけじゃないですか。何もなかったら、そこまでする必要ないですよね。

まぐまぐ:確かにそうですよね。

阿部:そういう場合は、もう最初からケンカ腰だったりして、結構怖いんですよ。この手のものなら負けたことがないとか、こういう証拠の取り方は人権的にどうなのか、とかですね。「知るか、この野郎!」って感じなんですけど、結構色んなことを言ってくるんですよ。そういう、ある意味モンスターな親っていうのは多いし、そのモンスターな親の元で育っちゃった子供だから、モンスターになってるっていうのは感じます。

まぐまぐ:この親にしてこの子あり、ということですね……。

加害者側と学校が打ち合わせをしているケースも

阿部:また他に厄介なケースとして、酷いいじめが起きた場合に、学校が管理者としての責任を問われる可能性があるんです。そうなると、加害者側と学校側の利害関係が一致するってことがあるんですよ。現に私立校では、かなりの確率でいじめの隠蔽が起きていて、なかには加害者の親と担任や校長が、レストランで会って打合わせしてたりすることもあるんです。

まぐまぐ:おお……。

阿部:よくやるなあと思うんですけど、そういう風に加害者と学校の利害関係が一致すると、加害者側の反応がたいてい「そっちのほうがモンスターだ」ってなるんですよね。また、いじめ解決のために第三者委員会を作るとしても、メンバーは学校が選任するんですよ。学校側に有利な意見を出しそうな人を。で、そのメンバーもボランティアではないので、学校とか理事会から報酬をもらっているわけですよね。となると、たいていの結果が「いじめと類似したような行為や被害があったかもしれないけれども、厳密にいじめではない」と。……本来なら、被害者側の推薦する専門家を1人ないし2人入れるべきっていう話はあるんですけども、そういう学校ってたいてい被害者側が推薦する人は入れない。そのうえ議事録も開示しない。そういう問題って、僕らが手掛けている案件だけでなく、他にも結構あるようなので……。

谷原:法的にいうと……いじめが校内にありましたと。そのいじめによって怪我をしました、あるいは自殺をしましたってなりますね。そうすると被害者の親は、その被った損害を誰かに賠償請求しましょうという話になります。まあ刑事の問題とは別に民事で。そうすると、誰に請求するかっていうと、まずいじめた張本人の子供かその親、同時に学校も訴えるんですよね。学校を訴えるのはなぜかというと、学校の校長と教員は生徒の学校の関連する活動の中においては、生徒の生命身体の安全を守らないといけない義務がある、と。そのためにいじめられそうな子、いじめそうな子の普段の行動をよく観察して、そういうことが起こらないような万全の措置を講じる義務がある、ということになってるんです。

みらい総合法律事務所 弁護士の谷原誠さん

まぐまぐ:なるほど。

谷原:そうすると、いじめがあってそれを認識できたにもかかわらず、漫然と放置したという話になってくると、その義務違反になるので、今度は学校も訴えられるっていう話になってくる。するとどうなるかというと、自分たちが損返しを受けるかもしれない。あるいは、教育委員会から何か措置を受けるかもしれないという話になる。そうなると、いじめがなかったことにしたほうが、自分の責任は問われないという話になって、加害者とくっついてしまうというような方向になっていく。

まぐまぐ:……酷い話ですが、そういう方向になりかねないのは分かるような。

谷原:さっき阿部さんが「証拠が重要だ」とおっしゃっていたのも、その構造があって……。結局は、法律に基づいて学校の責任を問うためには、また加害者側の責任を問うためには、それが違法行為である、悪質な行為であるということを証明しない限りは、相手にいじめ行為をやめさせたり、反省をさせたり、法的責任をとったりという方向に行かないんですよ。だからこそ、「事実関係を確定する」っていうのが最も重要になるので、阿部さんが客観的な証拠をとるために全力を集中する、そういう構造になってますね。

阿部:ただ、僕らがやってることと近いことって、実は保護者の方にもできることが結構あるんですよ。学校の中とか、保護者だったら入れる場所もかなりあるんで、できれば保護者の方にも証拠取りというか、それにプラスしていじめの状況を把握するっていうのは、是非やっていただきたいって思っているんですね。ただ、素人考えで無茶や暴走をすると、自分のほうが悪いことになったりしますので、ある程度の範囲内でということなんですが。

弁護士が教える「交渉術」

まぐまぐ:このようにいじめの調査に関しては、阿部さんのような専門家にサポートなり教えていただかなきゃいけないと思うんですけど、その後の加害者側や学校との交渉においては、どういう準備をして、どういうふうに話を進めていけばいいのか……もし有効な手立てがあれば、谷原先生にちょっと教えていただきたいかなと。

谷原:交渉の場合には、誰かを動かして何かをしてもらうっていう話なんですね。だから、誰と交渉するかっていうのはまず考えないといけないんですよ。仮に、じゃあ担任の先生と交渉しましょう、担任がやればこれは解決できるんだとなった場合にも、担任と直接交渉するっていう話と、担任を動かすには、校長先生を動かした方が担任を動かしやすいという話だったら、校長のところにいくんですね。その校長先生を動かすためには教育委員会にいったほうがいい、ということであれば、教育委員会と交渉する。それで校長先生に降りて、担任に降りるっていう話になるので……。まずは、そこをどういう交渉戦略を立てて、誰と交渉しましょうかというところから、まず考えていかないといけないということ。

まぐまぐ:どこを突けば、解決に向けて話が動き出すか、ということですね。

谷原:また、交渉にも色々な方法があって、例えば「これはもう違法行為で、ちゃんとやってくれないと刑事問題にしますよ」という風に「正論」で行く方法。あと「いじめの被害に遭っているかわいそうなこの子、あなたはどう思いますか?」といった「」に訴える方法。それから「ちゃんと解決してくれないと、地域の人たちに真意を問いますよ」といった「脅す」方法。これらのうちで、どれが最も効果的かを考えたりという風に、まず全体の交渉戦略を練っておくのも重要ですね、交渉においては。

まぐまぐ:そういう交渉事に、あまり慣れてない場合はどうすればいいんでしょうか?

谷原:確かに、ガンガン言える人と言えない人がいますね。言える人は言いに行けばいいと思うんですが、言えない人は書類にして出せばいいんです、言いたいことを。

阿部:なるほど。

谷原:直接言いにくいということであれば、ご自宅で言いたいことを意見書や要望書という形にして、交渉の場に持って行って「詳しいことはこれに書いてありますけれども、かいつまんで言うとこれがこういうことです。ということで、よく読んでお返事をください」と言って帰ると。自分が得意なところ、不得意なところあったら、それを代替するような手段で交渉していくっていう。それも交渉テクニックですかね。

まぐまぐ:書面にするっていうのは、なかなか思いつかないかもしれないですね。

阿部:僕も、営業をやってるお父さんにやってもらった時なんですが、「概要だけ箇条書きにして、これで上手くトークしてください」って言ったら、これが上手いんですよ、営業マンなんで(笑)。逆に、どちらかというと人と話すのが苦手な事務職のお父さんの場合は、僕と話す前の段階から黙ってても書類を作って来るんですよ。もう起承転結ができてるし、半分もう企画書みたいな感じになってる(笑)。よく見ると、いつまでに回答しろといった期限までついてるし、すごいわ……と。だから、こと交渉事ということになれば、まさに普段から社会で揉まれているお父さんの出番なのかなと。

谷原:親がいざ自分の子を守るために行動しようといったときに、「でも、俺こういうのは苦手だから……」っていうのはあると思うんですね。ただ、それで「行動に移せない」という風になるのではなくって、その時にはそれを補う方法を考えてやる。とにかく、行動を起こすことを決めるっていうのが大事じゃないかなと思いますね。なんらかの補う方法があるはずなので、今の例とか。

阿部:その方法について、詳しくは谷原先生の本を読めばわかる、と(笑)。

谷原:交渉事についてはですね(笑)。

阿部:僕も持ってますよ。色々チェックしてあるので、それを地方の現場に行く新幹線の中でもう一度見直すんですね。こういうふうにしたらこう答えようとか、自分の中である程度落としてから、学校と話をしたりするんですけど。やっぱり寝ちゃって読まなかったときと、しっかり読んでいってるときとは違いますよ。これは、もう。

探偵が遭遇した現実

谷原:ただ、保護者がそれだけ準備してくるというのは、なかなか大変かもしれないですね。

阿部:ただ、たぶん読むと安心すると思うんですね。「あ、こういうやり方あるんだ」って。日本人ってあまり交渉慣れしてないように感じるんですよ。ちょっと交渉事があると、途中からケンカ腰になっちゃう人がいたりするんで。そういう人も、たぶん1回読んでみるといいんじゃないかと。

まぐまぐ:戦う術のひとつとして、ですよね。それに交渉ができたほうが、阿部さんもケガが減るっていう。

阿部:そうです!(笑)……結構あるんですよ。最近もそうですけど、交渉事で地方に行くことが多いんですね。すごい地方になると交通手段がないから、新幹線の駅から4時間くらいかけてレンタカー……っていうこととかもあるんです。で、学校に着いて、そこの校長先生と話したり担任の先生と話したりして、帰りになると……ずっと尾行してくるんですね。面白いですよ、探偵を尾行するって(笑)。

谷原:「バレバレだよ!」っていう。

阿部:こっちも色んなことして焦らせて、その表情をバックミラー越しで見て、喜んでたりするんですけど。「焦ってる、焦ってる」「どっち行っていいのか、わかんなくなってる」みたいな。方向指示器を右に出したり、左に出したりして(笑)。……あと地方によっては、日帰りできない所もあるので、そうすると近くでホテルとか旅館に泊まるんですが、その建物の外に利害関係者というか、加害者側の保護者が来たりとか。前にも、地下にちょっとした温泉みたいなのが付いてるホテルに泊まったんですけど、その温泉に入りながら、窓ガラスみたいなところから外を見てみたら、造園業のトラックが停まってて、書かれてる屋号が加害者の苗字なんですよ。

谷原:(笑)

阿部:で、ウロウロしてるんですよ、おっさんが! 「やべぇ!」と思いますからね。「オレ、いま裸だし!」みたいな(笑)。

まぐまぐ:恐ろしいですよね。

阿部:怖いですよ。……地域を守るっていうのは、僕は良いことだと思うんですけども、それが「不祥事を外に出ないように」という方向になると、僕らのような外部の人間を場合によっては襲うとか……。まあ襲うまではしないとしても、車で前後を塞がれるとかは、たまに発生するんですが、あれは本当に迷惑ですね。それで、なぜか向こうが警察呼ぶんですよ。自分たちが不利になるのに(笑)。お巡りさんに向こうを説得してもらって、ようやくどかしてもらったりすることって、結構あるんですよね。

まぐまぐ:向こうは一般市民なわけですよね。でも、そこまでやるんですね。

阿部:興奮しちゃってるんですよね。ヘタに車から降りると殴りかかってきたりするんで、一応説明しますけどね。「叩かれたら、絶対傷害罪で訴えますよ」「被害届ひきませんからね」って。あと「抵抗するので、その場合は正当防衛ってことでよろしく。ビデオも撮ってますから」って。でも、全然耳に入ってない。困るんですよね、無謀な方は……。


弁護士と探偵が伝授する「いじめ解決法」、いかがでしたか? 正論、情、脅し、書面にしてみる、などなど様々な方法がありましたが、肝心なのはいじめを受けている我が子を守ろうという親御さんの気持ちということに変わりはありません。悩まれている方、一歩踏み出してみてください。

構成:まぐまぐニュース!編集部

 

谷原誠さんメルマガ弁護士谷原誠の【仕事の流儀】
人生で成功するには、論理的思考を身につけること、他人を説得できるようになることが必要です。テレビ朝日「報道ステーション」などテレビ解説でもお馴染みで、「するどい質問力」(10万部)、「弁護士が教える気弱なあなたの交渉術」(アマゾン1位獲得)の著者で現役弁護士の谷原誠が、論理的な思考、説得法、仕事術などをお届け致します。
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