そこで、上原氏はその押すと引くのアンバランスに着目し、エネルギーを引く側=捨てる側の研究、つまり「捨て方」をよく考えたエネルギー開発こそ未来があるのではないかと確信し、そこに行き着いたのが海洋エネルギーであった。
海は太陽エネルギーのほとんどを蓄えており、資源としては無尽蔵で、地球環境に悪影響を及ぼさない。
発電過程で利用した温海水からは真水が作られ、その真水を分解して水素を作るので、水は人間の生活水として、水素は新しいエネルギーとして、残った海水は放流すれば漁場も作れる。
発電設備にはチタンやセラミックなど、鉄と違ってほぼ100%の再利用が可能な、耐久性に優れてリサイクル度も高い素材を利用している。
研究の開始当時、チタンはまだ日本に1トンほどしかなく値段も恐ろしく高くて「そんな高価なものを使うのか」とあちこちから非難されたが、上原氏は開発段階から「回収できないものは使わない」と決めていた。
これからのエネルギーは「いかに捨てないか」を重視し、最初からリユースを視野に入れた再処理型のエネルギーでなければならないことが時代の要請だ、と上原氏は下積み時代の経験から分かっていたのである。
若い頃の上原氏が憧れた核融合の研究から、いまだにこれといった成果が出ておらず、また原子力発電や火力発電などの人工エネルギーも、その技術は行き詰まりを見せており、押すエネルギーはいまや限界にきていることが分かる。
だからこそ、川下から発想された、ムダを出さない再利用型の「商品」でないと21世紀の社会では生き残っていけない。
これは電力エネルギーだけではなくビジネスでも同じで、川下といえば消費の現場、消費者のことでありお客様の側に立って発想しない限り、いい企画やヒット商品は生まれない。
商品を企画する側は、消費者は何を欲しがってるだろうとつい自分を上に置いた「押す視線」で考えがちだが、自分がお客さんなら何が不満だろうと考える、お客様の立場に立った低い「引く視線」で考えることから企画は始まる、と上原春男氏は述べている。
▼出典は、最近読んだこの本です。
海洋温度差発電の世界的権威、上原春男氏の著作。自然の摂理とビジネスの関係性がよく分かります。
『抜く技術』
(著・上原春男 サンマーク出版)









