国民から挙がっていた反対の声を押し切り、マイナンバー制度がスタートしました。では、マイナンバー制度の目的とは一体何でしょうか?『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の著者で元国税調査官の大村大二郎さんが、誤解されやすいこの制度について「本当の狙い」をわかりやすく解説しています。
マイナンバー制度の本当の狙いとは?
ついに始まったマイナンバー制度ですが、多くの方はマイナンバー制度とは何のためにあるのか、よくわからない、という状態なのではないでしょうか?
そこで、今回は、マイナンバー制度の「本当の目的」を税務当局の目から解説したいと思います。
マイナンバー制度は現在、社会保険などだけに利用されることになっていますが、将来的には預金口座などと紐づけにされることが計画されています。この預金口座への紐づけには、多くの方が警戒心を抱いているはずです。
当局は、何のために預金口座とマイナンバーを紐づけしようとしているのでしょう?
それは、ずばり脱税防止のためなのです。
市民運動家の勘違い
マイナンバー制的な制度は、先進国の多くはすでに導入しています。
なのに、なぜ日本だけが導入が遅れてきたのでしょうか?
最大の理由は、各種の市民団体や市民運動家などからの反対にあってきた事です。
マイナンバー制に関しては、「プライバシーの侵害」「国家から財産が監視される」などと警戒感を抱いている人も多いようです。
が、マイナンバーを反対している団体、市民運動家たちは、実は大きな勘違いをしているといえます。
筆者は、市民団体や市民運動家の知り合いもおり、彼らが社会の改善のために、慈善事業的な活動されている姿勢には敬意を表しています。
が、運動の中で勘違いされている部分も時々見受けられるのです。
マイナンバー制に関しては、それが非常に顕著なのです。
彼らは、マイナンバー制の導入により、「家が国民を監視するような社会」になるのではないか、と危惧を抱いています。
マイナンバー制を悪用して、市民の過度に監視するのではないか、と主張している市民運動家もたくさんいます。国家の不都合な人物をターゲットにして、資産関係を洗いざらい調べ、その人を不都合な方向に追い込むのではないか、戦前の治安維持法のようなことが起きるのではないか、というのです。
が、これは大きな勘違いなのです。
実は、マイナンバー制が導入されたからといって、国家は、「今まで知りえなかった国民の情報」を取得できるようになるわけではありません。
というのは、現在の税法においても、国家は、「すべての国民の収入と資産を知る権利」を持っているからです。
そもそも、税務当局というのは、現行の法律の中でも、市民の財産を丸裸にしようと思えばできるのです。
現在、税務署の国税調査官たちには、「質問検査権」という国家権限を与えられています。
質問検査権とは、国税調査官は国税に関するあらゆる事柄について国民に質問できる、という権利です。
国民はこれを拒絶する権利はありません。
これは、見方によっては警察の捜査権よりも強い権利だといえます。
警察は、何か犯罪の疑いのある人にしか取り調べはできません。任意で話を聞くというようなことはありますが、それはあくまで「任意」です。
その人には、拒否する権利もあるのです。だから、誰かを取り調べしようと思えば、逮捕したり拘留する以前に客観的な裏付けが必要となります。
また拘留期限なども法的に定められており、何の証拠もないのに、誰かを長時間拘束したりはできません。
しかし、国税調査官の持っている質問検査権の場合は、そうではありません。
日本人に対してならば、どんな人に対しても、国税調査官は税金に関して質問する権利を持っているのです。
赤ん坊からお年寄りまでです。
国民はすべて国税調査官の質問に対して、真実の回答をしなければなりません。拒否権、黙秘権は認められていないのです。
また「国税に関することはすべて」というのは、かなり範囲が広いのです。国民の収入に関するあらゆる事、国民の財産に関するあらゆることを、国税調査官は質問する権利を持っているのです。
国民の経済生活のすべてといってもいいでしょう。
国税調査官は、経済生活に関するものであれば何でも見せてもらうことができるのです。
帳簿や領収書だけではなく、事業や仕事に関するあらゆる書類、データ、預貯金などの金融資産、不動産資産、自家用車などの固定資産などを調査することができるのです。また国税庁(税務署)は、日本中の金融機関をくまなく調べることができます。
つまり、今の税法においては、すでに国家は国民の経済性生活すべてを監視、把握する権利を持っているのです。
もし、国が、市民運動家などをターゲットにして、財産を把握しようと思えば、今の法律でもすぐにできるはずなのです。
逆に言えば、マイナンバー制が導入されたからといって、市民の権利が今よりも侵害されることはない、ということです。つまり、マイナンバー導入の目的は、市民生活の監視などではないのです。
幽霊資産を一網打尽にする
では何のためにマイナンバーを導入するのでしょうか?
簡単に言えば「幽霊資産の解明」です。
国税は、特定の人の収入や資産を丸裸にすることはできます。それは、あくまでも、その人物が誰であるのかがわかってからの話です。
「この人物が怪しい、だからこの人物を徹底的に調べよう」
そういうことは今でもすぐにできるのです。
しかし、脱税というのは、そもそも誰がやっているかわからないものです。まったく身元の知れない人物が、巨額の脱税をしているケースも多々あります。だから、疑いのある人物だけを調査しても、すべての脱税を把握することはできません。
ではどうすればいいのでしょうか?
トータル的に国民全部の資産を把握し、誰のものかを紐づけしていけば、誰のものでもない幽霊資産が見えてきます。
幽霊資産というのは、仮名口座や借名口座などを使って蓄えられた資産のことです。
この幽霊資産には、暴力団関係の資金やオレオレ詐欺などで獲得した犯罪金なども含まれます。
この幽霊資産は、実はけっこう巨額なのです。
各金融機関には、実際の所有が誰のものか判然としない金融資産が、かなり存在すると見られています。もちろん、調査や統計などはされてこなかったので、実額がどのくらいなのかはわかりません。
そしてこの幽霊資産こそ、脱税の温床となっているのです。
この幽霊資産を一網打尽に把握し、しらみつぶしに「事実上、誰が所有しているのか?」ということを調べていけば、脱税摘発は劇的に進むはずなのです。
つまりは、これまで明るみに出てこなかった「汚れた金」を、すべてつまびやかにするというのが、マイナンバー制度の最大の目的だと言えるのです。
image by: Shutterstock
『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』より一部抜粋
著者/大村大次郎
元国税調査官で著書60冊以上の大村大次郎が、ギリギリまで節税する方法を伝授す有料メルマガ。自営業、経営者にオススメ。
≪初月無料/登録はこちら≫