誰にも気兼ねなく旅行がしたい…そう考える人たちが増え、今や一人旅はスタンダード化しつつありますが、一人ゆえにいい宿や観光地を見つけることは至難の技です。美味しい食事、いい温泉、一人旅でも安心できる観光地が知りたい…そんな贅沢な悩みについて、元旅行雑誌編集長のメルマガ『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』がコッソリお答えちゃいます。
お気楽ビジネス温泉ひとり旅
このコーナーでは、僕が昔から温めていた温泉特集の企画「ビジネス温泉」の魅力や、おすすめ宿をご紹介していきたい。
旅行雑誌業界では、数年前から「ひとり旅」が安定した人気を集めている。
定年退職して時間がある方、相方に先立たれて一人気ままに旅を楽しんでいる方(これはほとんどが女性のようである)、人付き合いに疲れた方(これもひとり旅に出かけるのは女性が多い)などが、諸情報を求めているのだろう。
おおむね、日本の温泉旅館というのは1泊2食付きで2人1室から受け付け、というところが多く、1人1室利用だとかなり料金が割高になることが多い。
で、低料金の宿を選ぶと、ありきたりの悲しい夕食メニューをもそもそ食べることになりがちだ。宿泊料金が安いのだから、うまいものは出ないですわ。
そこで提案したいのは、昨今、ようやく増えてきた温泉宿のビジネスプランや、温泉付きビジネスホテルを利用するひとり旅である。
宿のビジネスプランは素泊まりや朝食付きで、レイトチェックインOKなどというものが多い。温泉付きビジネスホテルは、そもそも素泊まりまたは朝食付きが基本である。
こうした宿に泊まって温泉を満喫し、夕食は温泉街や繁華街の料理店で、地元ならではの郷土料理に舌鼓を打つ、というのがイチオシなのである。
1泊2食付き1万円ちょっとの宿の夕食で、感動するほどおいしい料理を味わえるということは滅多にない。宿はもてなしやお風呂など、トータルな魅力で勝負しているわけだから、仕方がないところだろう。
しかし、街に繰り出せば、おいしい料理だけで勝負している店がいくらでもある。旅先でしか味わえない味覚だって、1品料理で味わえるから、女性や小食の人だって安心だ。酒だって宿で飲むよりずっと安い。
うまく行けば、地元の人とのふれあいだって楽しめることがある。酔っぱらいオヤジの、わけのわかんねぇ方言を聞くのは実に楽しい。
旅先でのアバンチュールだって、ないわけではない、し…
ひとり旅の気軽さ、気楽さは、旅好きにとっては大きな魅力である。だが、先述のような「ひとりで安心して味わえる店」を見つけるのがなかなか難しいものである。
そこで、この連載では、ビジネス温泉の宿近くのおすすめの店情報も一緒に紹介したい。女性がひとりで出かけても安心の店情報だ。
ただしそこでナンパされたら、それはあなたが魅力的なだけなので、そこまでは僕も責任が取れない、ということはあらかじめお断りしておく。
湯村ホテル(山梨県湯村温泉)
湯村温泉は、山梨県甲府駅からタクシーで10分ほどのところにある温泉地。歴史は古く、1200年前に弘法大師が開湯したという。武田信玄の隠し湯ともいわれ、井伏鱒二や太宰治も訪れている。
だが、現在は「情緒ある」温泉街というものはほとんど残っていない。
とはいえ、市内の目抜き通りの県道6号を曲がった細い道沿いに、宿が建ち並び、オーセンティックなラーメン店やそば屋、郷土料理店、理髪店やつぶれたスナック(鬼娘=きむすめ?の看板が恐い)、寺院などがひしめくように並んでいる様は、往時の様子を想像してあまりある。
温泉は毎分830リットルで、源泉数は12本とされている。自家源泉を持つ宿も多い。
甲府周辺には源泉温度の低いぬる湯の名湯が多いのだが、湯村の特徴は、源泉温度が平均して41度くらいだということ。つまり、加水も加温も必要のない、源泉かけ流しを実現するのにはぴったりの湯が湧いていることだ。
今回ご紹介するのは、そのこぢんまりとした温泉街の入り口に位置する湯村ホテルである。
シングルルームがあってビジネスユースにも対応しており、ひとり旅にはうってつけ。 素泊まりで6500円(税別)と宿泊料も手頃。HPの割引券を利用すると10%オフになる。
そして、あまり大声ではいえないが、領収書は正規料金で発行される。会社員の場合は、650円がお小遣いになる勘定だ。フリーランスの僕にはあんまり関係ないけれど。
お湯がまたいい。 もちろん自家源泉100%かけ流しである。泉質はナトリウム・カルシウムー塩化物・硫酸塩泉で源泉45.8度。貯湯タンクを介さず、源泉をそのまま浴槽に入れており、浸かっていると体に細かな泡がつく。 肌をなでると、ビロードのような感触がすばらしい。
食事もうまい。 朝夕ともにバイキングなのだが、地産地消を標榜していて、甲州地鶏やワイン豚、地元産の野菜などをふんだんに使った料理が並ぶ。
まあ、僕はほとんど夕食をここで食べないのだが、朝飯だけは食べる。こちらも明野の赤玉卵、八ヶ岳高原の牛乳、水出し珈琲など、こだわりの品々を始め、パンやご飯も、サラダも、ハムやソーセージなども美味である。
今や完全に僕の常宿と化していて、毎年10泊以上している。『温泉失格』も大半をここで書いた。 なんか作家みたいで気分が良かったかというとそうでもなくて、全然原稿が進まず、青ざめて飲んでばかりいた。
シングルルームはテーブルといすのビジネスホテルスタイルだから、PCを持ち込んで仕事をするにはもってこい。 むろん、有線、無線のLAN完備。
週末に仕事を持ち帰ったオトーさんは、ここに閉じこもると、子供たちに邪魔されず、仕事もはかどるはずである。
夕方までしこしこ仕事をした後は、早めに大浴場に出かけると、ほとんど「独泉」状態である。 小さいながら露天風呂もあり、電気風呂になっている。この電気がものすごい。 近づきすぎると手足が反り返り、奥歯がガチガチいうほどすごい刺激である。 初めての人はご注意を。
風呂上がりにはさっさと着替えて、宿の斜め向かいにある料理店「花月」へ。
ものすごくうまい、という店でもないが、ほうとうや馬刺など、郷土の味覚も楽しめるし、生け簀があってこれからの時期なら生イワガキなども味わえる。
さらに、今は引退した先代のオヤジさんが釣りの名人で、渓流解禁のころは天然のヤマメ(と言っているが実際はアマゴ)やイワナ、これからの時期なら天然釣りものの鮎が味わえる。 鮎は塩焼きのほか、背ごしや刺し身もある。
今や天然の鮎を味わうことができる機会というのは滅多にないだろうから、ぜひ足を運んで欲しい。 明るい店で、女性ひとりでも安心だ。
ちなみにこの店、湯村ホテルの会員カード(発行無料)を提示すると、グラスビールがサービスされる。
花月から道を挟んで斜め向かいにあるそば店「菊水」も僕の行きつけだ。
縄のれんがかかったまことにオーセンティックな町のそば屋だが、ここは焼酎の品揃えがすばらしい。
ご主人の大屋さんと、非常にキュートな奥さん、感じの良いお母さんが飾り気のない家庭的なもてなしで迎えてくれる。
県道6号(山手通り)に出て少し歩いたところのラーメン店「げん」は、2軒目に行くことが多い。 ラーメン屋というより居酒屋という感じ。
だが、酒のあとに食べるラーメンとしては、あっさり味でいい。
半ラーメンというのもあって、本当に半分量しかないのが、おじさんにはありがたい。 優しくて若いご主人も好印象だ。
最後に、ランチにおすすめの喫茶店。 前述の「げん」の向かい側を少し歩いたところに、「今再(いまさ)珈琲店」というのがある。
スタバなどチェーン系にはない、昔ながらの落ち着いた時間を過ごせる店で、ランチの数量限定ハヤシライスがうまい。
ついでにもう1軒、あまりネット検索で出てこないのだが、ホテルから温泉街の通りを10分ほど歩いたところにある「夢酒 あきやま」という店は、酒飲みを感動させるメニューがそろっていて、非常におすすめである。
いつも込んでいるので、ひとりでも電話で確認していったほうがよい。
<電話>055-254-5420
まあ、いざとなれば甲府まで車で10分、タクシーでも1000円ちょっと。
どこへなりとも行くことができるのが、湯村の魅力でもある。
image by: Shutterstock
『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』より一部抜粋
著者/飯塚玲児
温泉業界にはびこる「源泉かけ流し偏重主義」に疑問を投げかけた『温泉失格』の著者が、旅業界の裏話や温泉にまつわる問題点、本当に信用していい名湯名宿ガイド、プロならではの旅行術などを大公開!
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