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「国連軍役立たず論」はアメリカの陰謀というこれだけの証拠

メディアなどでよく「国連軍には紛争解決能力がない」という論調を耳にしますが、はたしてそれは本当なのでしょうか。しかし、です。この「国連軍役立たず論」が、ある意図を持った国や集団により作られたものだとしたら…。『異種会議:戦争からバグパイプ~ギャルまで』の著者で軍事ジャーナリストの加藤健二郎さんが、この「陰謀」について詳しく解説しています。

武器ビジネスから見た国連軍

ユーゴスラビア戦争では、国連軍が最大規模で投入された。メディアや有識者たちは、国連軍が投入されても紛争を解決できないという短絡的な結果を見て、国連軍役立たず論をぶち上げた。しかし、クロアチア共和国内の戦闘は全体的には収まっていた(収まってたとはいっても、たまに数日間の戦闘は発生)。

そしてボスニア共和国内でセルビア軍に包囲されていたサラエボをなんとか半停戦状態に持ちこんだ。それでも、どこかで戦闘が再開されたり虐殺が発覚したりすると、国連軍役立たず論が再燃するのだった。「国連軍がいないよりはいる方がマシになっていた」という価値観は無視され「紛争を完全解決できていないから、国連軍は役に立ってない」という論理で。

そんな1992~1995年、カトケンは、ヨーロッパのいろいろな国で開催されている武器見本市へ行ってみると、この時代の旬な製品は「PKO任務に最適…」という売りの軽装甲車や指揮通信システム、不整地走破力の強い小型装甲車、防弾装具などだった。長距離射程で大火力を投射する火砲やロケット兵器などはなく、戦車などの重装甲重火器も見本市には少なかった。カトケンが感じたのは「こんな軽量級の兵器ばかりじゃあ、さぞかし、武器市場は景気が悪いことだろう」である。

よく「戦争ビジネスで儲けてる悪人がいる」という論を唱える人もいるが、倉庫に眠っていたカラシニコフ小銃や機関銃、迫撃砲、手作りに近い地雷やその他爆発物をいくら戦場で有効に使いまくってくれても、欧米先進国の武器マーケットに恩恵はない。欧米製の高性能兵器を必要とする戦争をしてくれないと、悪いヤツ(武器屋)は儲からない。そこで、商売のターゲットになったのが「PKO任務に最適…」と国連軍向けがブームとなっていたのである。

そして、1995年夏には、ボスニア戦争もほぼ膠着状態になり、終戦の話し合いにもってゆくモードが見えて来ていた。しかし、このまま終戦にしたくはない、と言わんばかりに、米空軍が、1995年秋にボスニアを空爆して、決着をつけた。武器市場の視線から見ると「国連軍の軽武装車両だけで戦争を終わらせた、ではなく、最後に、米空軍の3,200回の出撃による大空爆作戦こそがボスニア戦争を終わらせた」という形が欲しかったようにも見えた。というのは、米軍の空爆によって、「国連役立たず」論が、非常に強く吹き売れたからである。そして、この後に見えてくるのだが「国連軍役立たず」論は、米国武器メーカーにとっての追い風になるのだ。

1998年にコソボ紛争が勃発すると、これも、地上戦はほとんど終焉を迎えてセルビアが制圧したところで、米空軍主導NATO軍による、ユーゴスラビア全土への約80日間に及ぶ空爆作戦が敢行され、コソボ紛争は収まったことになる(実際には、空爆開始前にほぼ収まっていた)。

ユーゴスラビア空爆では、複数方向からのトマホーク巡航ミサイルの同一目標同時着弾や、中国大使館への誘導爆弾の同時着弾など、ハイテク高額兵器の実験場というか実戦見本市の場と化した。この2件の着弾は、カトケンも空爆下、現場でその瞬間を撮影していたので、軍事オタクとしては震えた。

その瞬間の写真 → 米軍空爆下の夜空 

PKO向けの軽車両は米国兵器メーカーが得意な分野ではなく、米軍が売りたいのは航空兵器やミサイルシステムなど、ハイテクで高価な兵器というかシステム全体だ。米軍の最先端兵器を世界の多くの国に買ってもらうためには、PKOに最適な軽武装軽装甲の装甲車両なんかで紛争解決をされてしまっては困る。

ユーゴスラビアへの空爆は1999年。圧倒的に優位な米空軍の威力が発揮された。そして、その後、ステルス戦闘爆撃機F-35の多数国による国際共同開発や、日本でも話題になったミサイル防衛システム(核弾頭弾道ミサイルを撃墜するシステム)やAWACS、アパッチ攻撃ヘリなど、米国製兵器ビジネスのオンパレードとなる。もはや、PKO的な軽武装な兵器装備なんて議論の場にも上がらなくなってしまった。

米国が、自国製の大型兵器、ハイテクシステムを売るために国連軍ダメダメ論をぶち上げ、国連軍が成果を上げてしまう直前に空爆作戦を敢行して「紛争の解決には、国連ではダメで、米軍様の出番が必要、米国製の兵器が必要」という世論誘導をしたなどという証拠は出てない。「戦争ビジネスで儲けてる悪人がいる」論を唱える反戦側言論人さんも、この流れのことは言わない。カトケンだけが目立たないように「なんか怪しいなあ」と言ってるだけですので、陰謀論嫌悪者な方は、いくらでも反論してください。

image by: Sadik Gulec / Shutterstock.com

 

異種会議:戦争からバグパイプ~ギャルまで

著者/加藤健二郎
建設技術者→軍事戦争→バグパイプ奏者、と転身してきてる加藤健二郎の多種多様人脈から飛び出すトーク内容は、発想の転換や新案の役に立てるか。
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