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世界に再び吹き荒れるナショナリズム。斜陽の米国はどこへ行く?

「まぐまぐ大賞2015」の総合大賞1位に輝いた無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』。その著者である国際関係アナリストの北野幸伯さんが、影響力の低下が叫ばれるものの依然として世界一の大国であるアメリカの動きを中心に、2016年の世界情勢を読み解きます。

2016年、世界はどうなる?~落ち目の覇権国家アメリカが世界を動かす

新年一発目ということで、「2016年、世界はどうなる?」を考えてみましょう。

正直いうと、そんなことわかりません。わかりませんが、2015年までに世界で起こったことをヒントに、考えてみます。今日は、「アメリカの話」がメインです。

影響力の低下が著しい覇権国家アメリカ。しかし、いまだにGDPでも軍事費でもナンバーワン。やはり、世界情勢は、この国を中心にまわっていくのです。

まず、大きな流れをおさえておきましょう。

第2次大戦終結から1991年までを、「冷戦時代」、別の言葉で「米ソ二極時代」といいます。アメリカとソ連の二極が戦っていた。

1991年12月、ソ連が崩壊し「米ソ二極時代」は終わりました。そして、「アメリカ一極時代」が始まります。アメリカ一極時代は、1992年~2008年まで。08年に起こった「100年に1度の大不況」で終わりました。

09年、新しい時代がはじまりました。「多極時代」という人もいますが、実際は、「米中二極時代」です。

経済力(GDP)、軍事力共に世界1のアメリカ。経済力(GDP)、軍事費で世界2位の中国。この2大国が、世界の覇権をかけて争っている。他の国々は、「アメリカと中国、どっちにつくのがお得かな?」と考えながら行動している。これが、今の世界の様相なのです。

2015年、アメリカは「中国打倒」を決意した

さて、「アメリカ一極世界崩壊時」に登場したのがオバマ大統領でした。2009年1月~13年1月の1期目、彼が取り組んだのは、主に「100年に1度の大不況」を克服すること。いろいろひどいことをいわれるオバマさんですが、「世界経済を破滅させなかった」のは立派です。

実際、2008年の危機は、1929年の世界恐慌並にひどかった。しかし、アメリカは、約80年前の大恐慌から学んでいて、同じ過ちを繰り返しませんでした。

2013年1月からの2期目、オバマさんは、世界の問題にも積極的にかかわるようになってきました。しかし、外交については、多くの人が指摘しているように「イマイチ」といわざるを得ません。

13年8月、オバマは、「シリアを攻撃する!」と宣言します。しかし、翌9月、戦争をドタキャンし、世界を驚かせました。

14年3月、ロシアがウクライナのクリミアを併合すると、オバマは日本、欧州を巻き込んで「対ロシア制裁」を発動。

14年8月、オバマは、「イスラム国」(IS)への空爆開始を宣言しました。

2014年、アメリカ外交は、「ロシア-ウクライナ問題」「IS問題」が主なテーマだったのです。

しかし、2015年、大事件が起こり、アメリカの外交政策は大きく変化します。「大事件」とは、いつも書いている「AIIB事件」。イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国などの「親米国家群」が、アメリカの制止を無視し、中国主導AIIBへの参加を決めた。

「え~~~!? 親米国家群は、アメリカではなく、中国のいうことを聞くか!?」

このことは、アメリカ支配層に大きな衝撃を与えます。

「アメリカは、中国に覇権を奪われようとしている!!!」

こう自覚したアメリカ支配層は、「中国打倒」を決意します。そして、2つの行動を開始しました。

1つは、中国バッシング。中国は、2013年から「南シナ海の埋め立て」を開始していた。アメリカは2015年、突如このことを問題視しはじめ、中国バッシングを開始。2015年5月には、日本のメディアも「米中軍事衝突」の可能性を指摘するようになりました。

2015年9月、アメリカ(特に政界)は、訪米した習近平を、あからさまに冷遇しました。2015年10月、アメリカは、南シナ海で「航行の自由作戦を実施。再び、「米中軍事衝突の可能性」が指摘されました。

もう1つは、「他の問題」を収束させる。

中国問題の他にも、アメリカは、世界情勢がらみで2つの大きな問題を抱えています。すなわち、「ウクライナ問題」と「IS問題」。「AIIB事件」後、アメリカはこの2つの問題解決にむけて動きはじめました。

1つは、ロシアとの和解。「中国、ロシアと同時に戦うのは愚か」ということで、ロシアと和解する。これは、リアリズム外交の正道ですね(他の例、1970年代初め、アメリカはソ連に対抗するため、中国と和解した)。

昨年12月15日、ケリー国務長官は、モスクワを訪問。プーチンと4時間会談しましたが、「ウクライナ問題」には、ほとんど触れませんでした(メインは、シリア、IS問題)。そう、あわれウクライナは、アメリカに「梯子を外された」のです。

もう1つは、「IS問題から距離を置くこと。アメリカは、「中国問題」に専念するため、「IS問題」とも距離を置こうとしています。

そもそも、「シェール革命」により、世界一の「産油」「産ガス」国に浮上したアメリカ。もはや(資源がたっぷりある)中東問題は、「アメリカの国益とはあまり関係ない」と思い始めている。だから、極端な話、「IS」は「重要問題ではない」と考えている。

もちろん、口ではそういいません。しかし、「行動」が語っています。アメリカは、「IS問題」をロシアに解決させ、自分はパワーを温存しようと考えている。

以上まとめると、2015年アメリカは、

  1. 中国打倒を決意した
  2. ウクライナ問題を忘れた
  3. IS問題を、他の国にやらせることにした

となります。オバマ政権も終わりに近づいていますが、ようやく「リアリズム外交」の方に向かってきました。

2016年、アメリカはどう動く

こういう流れで、アメリカは2016年に突入しました。そして、今年も2015年にできた流れに大きな変化はないと思います。すなわち、アメリカは今年、

  1. 中国をバッシングする

いろいろ方法はありますが、一番は「経済情報戦」でしょう。つまり、「中国経済崩壊論」を、毎日毎日報道する。

確かに、中国経済は、大きな問題を抱えています。しかし、「AIIB事件」前は、「肯定的報道」と「否定的報道」が半々ぐらいでした。ところが、「AIIB事件」後は、「中国経済はお先真っ暗という報道一色になってきました。これは、「事実を報道している」という一面があります。

しかし、「報道が事実をつくる」という面もある。どういうことでしょうか?

なんの問題もない上場会社があったとしましょう。しかし、全新聞が、「A社は大きな問題抱えている!」と報じた。すると、必ずA社の株は暴落するでしょう。これは、「情報が現象をつくった」のです。

アメリカが、今年やるであろうことは、それと同じです。毎日毎日、「中国経済は崩壊する」と報道することで、実際に中国経済を崩壊させようとしている。

その他にも、「サイバーテロ」「人民元操作」「南シナ海問題」などなどで、アメリカは今年、中国をバッシングしつづけるでしょう。米中関係は、ますます悪化していきます。

 2. ロシアとの和解をすすめる

これも、2015年にはじまった流れですね。「中国と対抗するために、ロシアと和解する」のです。結果、ウクライナは捨てられ、悲惨な状態になっていくことでしょう。

 3. アメリカは、IS問題への関与を大幅に減らす

オバマさんは、「IS問題が一番重要だ」といっています。しかし、全世界の人が、「アメリカは、マジメにISと戦っていない」ことを知ってます。

1年以上空爆して、ほとんど何の成果も出ていなかった。理由は、ISが反米アサド政権と戦っていること。残虐なので表立って支援できないが、ISは「都合のいい存在」である。しかし根本理由は、「シェール革命で中東の存在感が薄れたこと」なのです。

覇権国家アメリカが中東支配を緩くする。するとどうなるのでしょうか?

ソ連崩壊後、旧共産圏で紛争が多発した。それと同じような状況に、中東もなっていくと思います。シリアを見ると、

アサド現政権支持勢力:ロシア、イラン(シーア派)、シリア・アサド政権(シーア派の一派アラウィー)

vs

反アサド勢力:トルコ、サウジアラビア、ヨルダン、エジプト、アラブ首長国連邦、カタール(=スンニ派諸国)+シリア・「反アサド派」、IS

で、ごちゃごちゃになっていくと思われます。しかし、遠いアメリカは、知ったこっちゃない。というわけで2016年、アメリカの意向により世界は、

  1. 米中関係がますます悪化する
  2. 中国経済は、実際の悪さにアメリカのプロパガンダが加わり、ますます悪くなっていく
  3. アメリカとロシアは、和解にむかう
  4. ウクライナ問題は、忘れさられる
  5. アメリカは、IS問題への関与を減らし、シリアはゴチャゴチャになっていく

となります。

その他の重要問題について

以上、落ち目の覇権国家アメリカがつくりだす世界情勢について触れました。

後2つ、皆さんがおそらく関心をもっているであろうテーマについて簡単に触れます。

 ・アメリカ経済は?

長期的には、ユーロや人民元の台頭により、ドル基軸通貨体制が徐々に破壊されている。これは、非常に大きな問題で、アメリカ衰退の根本原因になっています。

一方、FRBは昨年12月、9年ぶりの利上げを決断しました。つまり、短期的に、「アメリカ経済は正常な状態に戻りつつある」と宣言した。どういうことかというと、2016年「アメリカ発の大きな危機が起こる可能性」は、あまりないということです。

むしろ、経済がらみでは、「中国経済はどうなるのか?」に関心が集中すると思います(中国発の経済的事件が起こり、それがアメリカや世界に波及するシナリオはあり得ます)。

 ・アメリカ、新大統領は?

2016年、アメリカは選挙の年ですね。そのせいで、オバマさんの影は、ますます薄くなりそうです。

アメリカ大統領選がらみで、一番注目されるのは、「トランプは大統領になれるのだろうか?」でしょう。そんなことは、もちろんわかりません。しかし、彼が「世界とアメリカのトレンドに合致している」ことは間違いありません。

「世界のトレンド」とはなんでしょうか? 善悪はともかく「ナショナリズムが流行している」こと。世界的に「ナショナリスト」というと、プーチン安倍さんですね。

しかし、「ナショナリズム」は「世界的潮流」になりつつあります。たとえば、ISによる「同時多発テロ」が起こったフランス。いま一番人気の政治家は、「極右政党」とよばれた「国民戦線」のマリーヌ・ル・ペンさんです。

大暴れするIS、多発するテロ、欧州に大挙してくる難民(イスラム教徒)が、欧米で「ナショナリズム流行」の原因になっている。

トランプは、(移民を制限するために)「メキシコとの国境に『万里の長城』をつくる!」と宣言している。また、「イスラム教徒の入国を禁止すべきだ!」と宣言している。こういう過激な発言が、テロに怯えるアメリカ国民の心情にマッチし、人気を獲得している。

もう1つ、「アメリカのトレンド」とはなんでしょうか? 「ロシアと和解して中国と戦う」ということです。トランプは常々、「プーチンとの和解」を主張する一方で、中国を非難しています。さらに、「中東への関与を減らすべき」と主張している。要するに、「アメリカの進むべき方向性」について、過激な口調ながらも、正しい視点を持っている。

もちろん、どうなるかわかりませんが、トランプが大統領になっても、私は驚かないでしょう。

長くなりましたので、今日はこの辺で! 次号からは、「他の大国群」「日本」の「2016年」について考えます。

image by: Christopher Halloran / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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