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プーチンの次の戦略は「米中を戦わせて、ロシアが漁夫の利を得る」

無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者、国際関係アナリストの北野幸伯さんが連載している、「2016年世界はどうなる」シリーズも今回で4回目。これまでにアメリカ・中国・欧州を主役に世界情勢を見てきましたが、今回の主役はロシア。常に世界に存在感を出し続けているロシアから見た2016年を分析します。

2016年、世界はどうなる?~ロシアはどうなる?

「2016年世界はどうなる?」シリーズ4回目です。新規読者の皆さんは、まずこちらからご一読ください。

世界に再び吹き荒れるナショナリズム。斜陽の米国はどこへ行く?

世界はチャイナマネーにひれ伏すのか?米中覇権争いは歴史的分岐点に

英国は2度裏切る。米国と中国の間で揺れる「欧州」に不穏な動き

さて、今回はロシアの話です。

「100年に1度の大不況」までのロシア

まず、去年までを簡単に振り返ってみましょう。

ソ連が崩壊したのは、1991年12月。1992年から2000年、つまりエリツィン大統領の時代、ロシアは、今の日本同様、「アメリカの属国」のような状況でした。金が全然なく、欧米日、国際金融機関からの借金なしでは、経済がまわらない状態だった。

しかし、2000年にプーチンが大統領になると、状況は一変します。彼の1期目、2期目、つまり2000~08年、ロシア経済は年平均7%の成長を果たし、再び「世界の大国と認識されるようになりました。

「せっかく冷戦で勝利したのに、ロシアはまた復活してきやがった!」

アメリカとロシアの対立は、2014年のクリミア併合ではじまったのではありません。02年にはじまったのです。米ロは、02年から、

・02~03年、イラク問題(ロシアは、イラク攻撃反対)
・03年、ユコス問題
・03年、グルジア・バラ革命問題
・04年、ウクライナ・オレンジ革命問題
・05年、キルギス・チューリップ革命問題

などなどで、対立をつづけました。上記3つの革命は、アメリカが野党を支援し、結果「親米反ロ傀儡政権を樹立したのです。

はじめての読者さんは「トンデモ系」と思うかもしれません。しかし、山盛り証拠がそろっています。気になる方は、是非こちらをご一読ください。知らない方はひっくり返らないようご注意ください。

「プーチン最後の聖戦」 集英社インターナショナル 北野幸伯著

米ロの対立は、ますます激化し、08年には「熱い戦争が勃発します。それが08年8月に起きた、「ロシアーグルジア戦争」。これは、アメリカの傀儡国家グルジアとロシアが戦ったのです。

しかし、幸い戦争は長つづきしませんでした。翌08年9月、「リーマンショック」から「100年に1度の大不況」に突入していった。米ロとも、戦争どころではなくなった。両国は和解し、「再起動の時代がはじまります。

この時、プーチンは既に大統領ではなく首相。大統領は、アメリカ好きのメドベージェフになっていました。

クリミア併合とロシアの苦難

09~11年、米ロ関係は、「とても良好」でした。しかし、12年プーチンが大統領に返り咲きます。13年、プーチンは、アメリカが企画した「シリア攻撃」を止めました。裏話はいろいろあるのですが、表向きは、「プーチンがシリアのアサド大統領を説得し、化学兵器破棄に同意させたから」となっています。

14年2月ウクライナで革命が起こり、親ロシア・ヤヌコビッチ政権が崩壊。アメリカは、この革命を支援しました。これも知らなかったら「トンデモ系」みたいですが、証拠があります。

昨年2月ウクライナの首都キエフで起きたクーデターの内幕について、オバマ大統領がついに真実を口にした。恐らく、もう恥じる事は何もないと考える時期が来たのだろう。CNNのインタビューの中で、オバマ大統領は「米国は、ウクライナにおける権力の移行をやり遂げた」と認めた。別の言い方をすれば、彼は、ウクライナを極めて困難な状況に導き、多くの犠牲者を生んだ昨年2月の国家クーデターが、米国が直接、組織的技術的に関与した中で実行された事を確認したわけである。これによりオバマ大統領は、今までなされた米国の政治家や外交官の全ての発言、声明を否定した形になった。これまで所謂「ユーロマイダン」は、汚職に満ちたヤヌコヴィチ体制に反対する幅広い一般大衆の抗議行動を基盤とした、ウクライナ内部から生まれたものだと美しく説明されてきたからだ。米国務省のヌーランド報道官は、すでに1年前「米国は、ウクライナにおける民主主義発展のため50億ドル出した」と述べている。(「ロシアの声」2015年2月3日より)

2014年3月ロシアはクリミアを併合しました。その理由は、革命で誕生したウクライナ新政権が、「クリミアのロシア黒海艦隊を追い出す」「その後NATO軍を入れる」意向を示していたことです。

これを、ロシアは容認することができなかった。ロシア人は、プーチンのこの決定を圧倒的に支持しました。なぜかというと、クリミアは、1783~1954年までロシア領だった。1954年、ソ連書記長だったフルシチョフが、「明日からクリミアは、ウクライナのものにする」と、「鶴の一声」で勝手に移してしまった。全ロシア国民は、フルシチョフの気まぐれな決定を「不当」と信じている。「クリミアはロシア領」というのが、国民的コンセンサスなのです。

そして、クリミア住民の6割はロシア系」。結果、まったく抵抗にあうことなく、ロシアは併合に成功したのです(クリミアの住民投票では、97%がロシア編入を支持したとされる)。これで「歴史的英雄」になったプーチンの支持率は86%まであがりました。

しかし、これがロシアにとって苦難のはじまりでもあった。アメリカが、日本欧州を巻き込んで、「経済制裁」を課したからです。2014年、日本では、「プーチンは世界の孤児」という表現が使われていました。

しかし、皆さんご存知のように、ロシアは、「AIIB事件で救われます。これで、中国がアメリカ最大の敵になり、アメリカはロシアとの和解に動きはじめた。

2015年5月、アメリカは、「南シナ海埋め立て問題」をバッシングしていました。日本の新聞にも、「米中軍事衝突か!?」と記事が出るほど、両国関係は悪化していた。

同じ5月、ケリー国務長官はロシアを訪問。「制裁解除もあり得る」と発言し、世界の人々を仰天させました。同7月、米ロは共同で、「イラン核問題」を解決します。同9月、ロシアは、シリア「イスラム国」の空爆を開始。欧米は、「ロシアはISだけでなく、「反アサド派」を空爆している!」と批判しています。しかし、ロシアの空爆でISが弱体化していることは誰も否定できません。その理由は、ロシアがISの資金源である石油インフラを遠慮なく破壊していることです。

12月、ケリーは再度ロシアを訪問し、プーチンと4時間会談を行いました。2014年、欧米の指導者は、誰もプーチンに会おうとしなかった。しかし2015年、欧米の指導者がプーチンに会うことは、もはやタブーではなくなっています。そう、プーチンは、「クリミア併合からはじまった危機を約1年で切り抜けることに成功したのです。しかし…。

一難去って、また一難

しかし、プーチンの苦難はつづきます。問題は、経済です。ロシアは現在、

経済制裁
ルーブル暴落(1ドル35ルーブルから70ルーブルまで下落)
原油暴落(バレル115ドルが40ドル以下に)

で苦しんでいます。今最大の問題は、「原油価格の暴落」でしょう。08年夏はバレル140ドルだったのが、今では40ドル以下である。しかも、「シェール革命による供給過剰が主因。つまり、原油価格低迷は、「長期化」する可能性が高い。いまのところ、原油価格が上がる可能性は、前号でも触れたサウジとイランの対立が大きな戦争に発展していくこと。

いずれにしても、プーチンにとっては、「厳しい年」になりそうです。

ちなみに、モスクワ在住筆者から見ると、一番実感しているのは、「インフレ」です。ルーブル暴落で、輸入品が高くなり、インフレが進んでいる。公式発表では、「2015年は約16%のインフレ」とのことですが。食料品は1年で倍になった」ぐらいの感覚で、庶民は嘆いています。

米中覇権争奪戦におけるロシア

最後に、「米中覇権争奪戦」におけるロシアのポジションについて触れておきましょう。

既述のように、アメリカは、中国との戦いに集中するために、ロシアとの和解に動いています。しかし、その中国とロシアは、05年以降「事実上の同盟関係」にある。それで私は07年、「中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日」(草思社)という本を出版したくらいです。

中国とロシアは、「アメリカの一極世界をぶち壊す」ことで心をひとつにしています。そうなのですが、いつもアメリカと戦っているのはプーチンなのですね。中国はこれまで、「チャイナロビー」によって、アメリカのバッシングを回避することに成功してきた。

その一方で、「チャイナロビー」を使って、アメリカの対ロシアバッシングをやめさせようとした形跡はありません。つまり、賢い中国は、「アメリカとロシアを戦わせて漁夫の利をえることに成功していた。

これは、ロシアにとって「損」です。ですから、ロシアはアメリカの接近を歓迎することでしょう。

米中を戦わせてロシアが漁夫の利を得る」というのは、リアリズムの視点から、ナイスなポジションです。要するに、米中覇権争奪戦におけるポジションは、ロシアは、中国の事実上の同盟国だが、アメリカとも和解したい。できれば、「自分で戦いたくない」ということなのです。

これを、「バックパッシング」(責任転嫁)といいます。狡猾に思えるかもしれませんが、実はみんなやっていることです。たとえば、アメリカは、グルジア(ジョージア)やウクライナをロシアと戦わせた。日本だって、「中国が攻めてきたらアメリカに戦わせよう」とあたりまえに思っている。これは、「バックパッシングしよう」ということ。

逆にいえば、アメリカが「日本を使って中国と戦わせよう」というのも、当然あり得ます。日本は、グルジアやウクライナのような立場にならないよう、細心の注意が必要なのです。

ロシアをまとめましょう

・AIIB事件以降、アメリカの主敵は中国になったので、ロシアバッシングは下火になる
・しかし、原油価格は低迷し、ロシア経済は苦しい(サウジとイランの戦争が起これば、原油価格は上がるが)
・米中覇権争奪戦において、ロシアは中国寄り

しかし、米中が戦うとロシアは漁夫の利を得ることができるので、アメリカとの和解は歓迎

となります。

2013年は、シリア。2014年は、クリミア。2015年は、シリア・IS空爆。毎年世界を驚かしつづけるプーチンは、今年どう動くのか?目が離せませんね。

image by: Wikimedia Commons

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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