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社員2000人の賞与に直筆の手紙。カリスマ経営者「やる気」引き出し術

大会社に勤める一社員が、経営者に名前を覚えてもらえることは、とても大きな喜びです。本田宗一郎、松下幸之助、稲盛和夫など、カリスマ経営者と呼ばれていた各氏は、そのことがよくわかっていました。今こそ、「経営の根幹は人の情である」という古来からの事例に学ぶ必要があるのではないでしょうか。メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』の著者である浅井良一さんは、経営者としてとるべき行動のヒントとして、「社員を個人として評価することの大切さ」を説いています。

管理の意味 

モノづくり(サービス業も含みます)勝負どころ」が、ハイレベルの満足を実現させることなり、重点が「労働から知識に移行しました。「知識」経営は多くの人の能動的な協働なくしてなされず、その機軸である「経営者あるべき考え方が鍵になります。

経営学では、人の定義において「経済人モデル」というものがありました。人は知性があり、意思決定および行動は「合理的な判断」に基づいて行われるというものです。そこでの管理の手法は「飴と鞭」が主体になります。しかし、現代経営で「飴と鞭」のみで大成した企業などどこにもありません。

急激に成長した優良企業に「京セラ」や「日本電産」がありますが、この企業の経営者である稲盛さんと永守さんには同じような行動が見られます。それは「あなたのことを知っており、気にかけているという意思表示です。古来人に抜きんでて成功を勝ち得る人には、洋の東西を問わずここの「勘どころ」をきっちりと押さえています。

戦国時代では武将が「旗差し物」という目印を背負っています。だれが手柄を立てたかが一目して軍目付(いくさめつけ)に分かるようにするためのもので、軍功によって地位も富も手に入れることができました。武田信玄などは、合戦のその場で「甲州金のつぶ」を感状(後の恩賞の約束手形)とともに実感できる形で与えています。

働く者にとって、経営者に個人としての存在を知ってもらい評価してもらえるということは何にも替えがたいよろこびです。場合によっては、報酬以上のよろこびを感じることさえあります。稲盛さんは、高熱をおしてまで全ての忘年会に参加しました。永守さんは、2,000人の従業員に賞与とともに本人宛ての手紙を添えました。

人の情が経営の根幹であることは、有能な経営者であれば古来から知りつくされたことです。戦国時代、中国地方を制覇した毛利元就は律儀な性格で、正月の祝いの宴では元日から10日間もの間、酒席をはり末端の配下とまで盃を酌み交わして歓談し親しみの情を示しています(ただし、元就は下戸だということですが)。

経営者に個人として知ってもらえ、良きにつけ悪しきにつけ注目されることは「安心感」と「やる気を引き出します。豊臣秀吉が元気なころは「人たらし」の名人で、他の武将の配下でもこれはとおもう武士には功績を褒め称え自分の配下になるよう誘っています。元首相の田中角栄は、2万人の顔と名前が一致したと言われています。

管理は科学でもありますが、集団の感情を揺さぶる熱意でもあります。永守さんは人材を育てるにはどうしたらよいかを考え、行き着いたのは世間で言われている「褒めて育てるではなく叱ることと看破したそうです。しかし、ここからが工夫のいるところで10分叱ったそのフォローを2~3時間かけたと言っておられます。

このようなフォローについては、松下幸之助さんや本田さんも同じように心遣いを行っています。松下さんは結構口汚く罵倒するそうですが、そのフォローは理性的で「あんたが必要だからそうした」とういうこと懇切に言い聞かせたそうです。直に話すこともあれば、奥さんに電話し間接的に伝える場合もありました。

本田さんの場合は、直情的なので気に入らなければゲンコツはもちろんハンマーなどもとんできたのだそうです。しかし、おもしろいのはその後で必ず後悔するそうで、いつもやりすぎたと思い翌日にはきまり悪そうに冗談を無理に言ったりするので、それがなんとなく可愛げと面白味があり一件落着になったようです。

世界ナンバーワンのシェアを持つ空調メーカー「ダイキン」には、経営の基本としている「人を基軸に置いた経営」という考え方があります。その考え方の実践として、鳥取市青谷町にある宿泊滞在型の研修施設「アレス青谷」で行われる5泊6日の「新入社員研修」があります。その研修には、社長をはじめ役員も参加して実践されます。

この研修は約8割の時間をグループディスカッションに費やすのが特徴で、「どのように働きどう成長したいのか」「最強のチームを作るため何をなすべきかなどをグループ間で議論し自身を見つめ直すことを促します。「人を基軸に」が確信になったのは「タイムカード廃止」が切っ掛けで、管理しなくなったと同じくして定時きっかりに仕事を始めるようになりました。

ユニークなのは、会社役員たちとの円卓を囲んでの対話です。そこで交歓される対話は、まったくのざっくばらんな居酒屋トークです。研修の打ち上げにはキャンプ・ファイアーが行われるのですが、そこでの社長をはじめとする役員の役割は「火の番」などのもてなしです。ここで重視されているのは、職制を超えた人の交わり」です。

image by: Shutterstock

 

 『戦略経営の「よもやま話」

著者/浅井良一
戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。
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