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ドイツも中国に見切り…不要論まで飛び出す強烈な手のひら返し

AIIBで事実上、アメリカを裏切ったドイツ。「ドイツ帝国」と陰口をたたかれるほどEU内の実権を握っていたドイツに裏切られたことは、アメリカにとって寝耳に水であると同時に、とてつもないダメージでした。しかし、今年に入って様子が変わって来ているようです。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者、北野幸伯さんは、中国経済の状況に不安を感じたドイツが中国を見放し始めていることを指摘しています。

ドイツが中国を見捨てはじめた~金の切れ目が縁の切れ目

今回は、EUの覇者ドイツの話です。

2015年は、とても騒がしい年でした。しかし、私が「歴史的転換点だった」と最重要視しているのは、「AIIB事件」です。世界57か国が、中国主導「AIIB」への参加を決めた。その中には、オーストラリア、イスラエル、韓国のような、伝統的親米国家、同盟国もいた。

しかし、一番アメリカに打撃だったのは、「欧州の裏切り」でしょう。先頭をきって裏切ったのは、アメリカと「特別な関係」にあるはずのイギリス。そして、ドイツ。ドイツの裏切りは、「深刻」です。

アメリカが世界GDPに占める割合は、約22%。EUの占める割合は、約23%。経済力で見るとEUは、アメリカ、中国を凌駕する「一大勢力」なのです。

「なにいってやがる EUの中には28か国もいるんだぞ!アメリカより上で当然だろ!?」

こんな批判がでるでしょう。しかし、EUは、「実質ドイツ帝国だ!」という人がいます。たとえば、「ソ連崩壊」「アメリカの没落」などを正確に予測し、「予言者」と呼ばれるフランス人人口学者エマニュエル・トッドさん。彼は、「EUは、実質ドイツに支配されている!」と断言しています。

※ 詳しくは、以下を参照。

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告/エマニュエル・トッド (文春新書)

ちなみに私の元同級生のポーランド人も、ドイツ、特にメルケルさんに対して、「独裁者だ!」と、メチャクチャ憤っています。「EUなんて存在しない! あるのは『ドイツ帝国』だ!」と。

何はともあれ、EU内で最強のパワーをもつドイツがアメリカを裏切って中国についた。これは、世界GDP23%が中国につくかもしれないことを意味する。

「ドイツは、アメリカではなく、中国につく」

これが「常態」なると、アメリカの覇権は完全に終わってしまいます。

なぜ、ドイツはアメリカを裏切って中国についた?

なぜ、ドイツはアメリカを裏切って中国についたのでしょうか? 理由はいろいろあります。

1.ドイツは「多極主義」

ドイツがアメリカを裏切ったのは、今回が初めてではありません。ドイツは02、03年にかけて、アメリカの「イラク戦争」に反対しました。この時首相だったシュレイダーさんは、フランスのシラクさんと組んで「アメリカ一極世界をぶち壊し、多極世界をつくろう!」と考えていた。その方法は2つ。

・EUを東にどんどん拡大していく
・ユーロを、ドルに匹敵する世界通貨にしていく

そして、ドイツ、フランスは、ロシア、中国と組んで「イラク戦争」に反対していた。だから、ロシアや中国は、「多極主義」という思想を共有する同志」でもあるのです。

2.中国は、ドイツにとって「軍事的脅威」ではない

日本にとって、「日本に沖縄の領有権はない!」と宣言している中国は、直接的脅威です。しかし、地理的に離れたドイツにとって、中国は軍事的脅威ではない。東シナ海や南シナ海がどの国のものになろうが、知ったこっちゃない。

3.儲かる

ドイツがアメリカを裏切って中国についた最大の理由がこれ。つまり「AIIB事件」が起こった2015年3月、全世界57か国が、「アメリカを裏切って中国につけば、大儲けできる!」と確信していた。当時から中国経済に問題が多いことは指摘されていました。しかし、「悲観論者」の声は、とてもとても小さかったのです。

ところが、今は状況が一変しています。RPEの読者さんにとっては、「予定どおり」なのですが、全世界の人たちにとっては、「中国経済がこれほど急激にボロボロになったのは、『想定外』だ!」ということなのです。

「金が目的で近づいてきた人は、金がなくなると去っていく

中国経済がボロボロになってきたので、ドイツが態度を変えてきました。これもRPEの読者さんにとっては、「想定内」ですね。

ドイツが中国を見捨てはじめた

ドイツ在住の作家・川口マーン惠美先生が、ドイツ国内の報道が変わってきたことについて、とても興味深い記事を書いておられます。

ドイツがついに中国を見捨てた!? 激変したメディア報道が伝える独中「蜜月時代の終焉」 現代ビジネス 1月15日(金)7時1分配信

題名から面白いですね。

川口先生は、まず、「ドイツは、最近までメチャクチャ親中だった」ことを書かれています。

去年の半ばぐらいまで、ドイツメディアはとにかく中国贔屓で、聞こえてくるのは中国経済が力強く伸びていく話ばかりだった。

 

「中国はあれも買ってくれる、これも買ってくれる」
「それも1,000個ではなく10万個」

 

といった竜宮城のような話だ。日本で報道される中国の姿とのあまりの差に、私はしばしばビックリし、どちらが本当だろうかと考え込むことさえあった。

まあ、ドイツだけじゃないですね。かつての覇権国家イギリスだって中国の金で転んだ」のですから。

いったい、ドイツと中国はいつから仲よくなったのでしょうか?

中国詣でを熱心にやり始めたのはシュレーダー前首相で、10年以上も前のことだが、その後を継いだメルケル首相は、最初の2年ほどはダライ・ラマに会うなどして中国側の機嫌を損ねたものの、それ以後はシュレーダー首相を超えるほどの蜜月外交に徹し始めた。
(同上)

シュレーダーさんのことは、既に触れました。彼は、ロシアとの関係も非常に重視し、フランスと共に「多極主義陣営」構築に尽力した人です。

毎年、大勢の財界のボス達を伴って北京を訪問しては、自動車を売り、エアバスを売り、ヨーロッパでは放棄した超高速鉄道も売って、「中国はドイツにとってアジアで一番重要な国」と言った。

 

主要国サミットのニュースで聞いた、「アジアの代表は日本ではなく中国ではないか」というアナウンサーの言葉を、私は忘れることができない。
(同上)

これが、ドイツの正直な感覚だったのでしょう。

当然のことながらドイツでは、中国に進出しなければ時流に乗り遅れるという機運が熱病のように蔓延し、産業界はずっと前のめりの姿勢が続いた。

 

そしてメディアが、それらをサクセスストーリーとして報道し、同時に、中国と仲良くできない日本を皮肉った。
(同上)

ま、結局正しかったのは日本なのですが、私たちはそれでドイツを皮肉ったりしないでおきましょう。

そんな、「親中」ドイツメディアも、昨年9月ごろから態度が変わったそうです。

ところが、前述のように、中国報道に関しては、その傾向がにわかに変わってきたのだ。

 

最初の兆候は、2015年9月3日、抗日戦勝70周年の記念式典の報道だった。それは巧みなやり方だった。

 

ARDとZDF(第2テレビ)が両方とも、まるで申し合わせたように、天安門での大規模な軍事パレードを見せながら、そこに習近平国家主席の平和演説の訳を重ねた。

 

すると、その言葉と軍事パレードの映像のあまりのミスマッチが、視聴者の脳にそこはかとなく不信感を芽生えさせることになった。
(同上)

ふぉふぉふぉ。ここに「人権重視国家」ドイツの欺瞞」「偽善」が見えますね。中国経済が好調だったとき、つまりドイツが儲かったときは、中国のダークサイドを完全無視していた。ところが、中国の好景気に陰りがみえはじめると、途端に中国の「軍事大国化懸念を報じはじめたのです。

そのあとは続々と、中国の経済停滞、汚職、シャドーバンク、環境破壊などが報道され始めた。

 

批判的報道は、北京の大気汚染で頂点に達した。同じ頃、インドのデリーも、同様か、もっとひどい大気汚染に悩まされていたが、その報道はほとんどなかった。
(同上)

しかし、2015年は大気汚染など、「環境問題」が最重要だったのですね。2016年になると、いよいよドイツメディアの中国バッシングが本格的になります。

一斉に報道され始めた中国経済の実態

 

上海株が、今年の取引の初日の1月4日、開始と同時に暴落した。

 

新設されたばかりの安全装置である「サーキットブレーカー制度」が発動され、取引は15分で停止となった。それが7日にも繰り返され、中国政府が懸命に介入したものの、目立った効果は現れなかった。

 

このときのドイツの報道は、もう容赦なかった。夏の暴落のときのように、状況が過小評価されることもなく、ゴールデンアワーのニュースが大きく取り上げた。
(同上)

こうして、ドイツメディアは、「中国を見捨てることにしました。ドイツにとって、「儲かる独裁国家=『いい国家』」。「儲からない独裁国家=ただの『悪い国家』」ということなのでしょう。

そして、ついに「習政権」や中国の「政治体制全般」まで批判がおよぶようになってきました。

そんなおり、面白い記事を見つけた。ARDの特派員が、上海での4年間の任期を終えるにあたって書いたものだそうだが、内容は、「西側諸国がイスラムテロとの戦いに敗退している最中、中国は静かに世界の頂点に近づいていく。北京の影響が膨張していくところでは、自由が死ぬ」というものだ。

 

香港の民主主義が壊されていく様子、また、アフリカなどの独裁者が、中国の資金で、中国と共にさらに独裁を強めていく様子などが赤裸々に描かれている。
(同上)

「いまさら気づいたんかい!!!???」と一言いってやりたくなりますね。

というわけで、EUを支配するドイツ・メディアの「中国観」がかわってきました。中国経済が悪くなるにつれ、こういう見方は広がり、「国際世論になっていくことでしょう。

アメリカの「リベンジ戦略」は、いまのところ非常にうまくいっているようです。もちろん、中国の脅威に怯える日本にとっては、「追い風」です。

image by: 360b / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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