以前だったら「遺言書」というものは、名家や大富豪など特別な人が書くというイメージがありました。しかしこれからの時代、遺された家族の無駄な争いを避けるためにも、目に見える形で自分の感謝を本当に伝えたい相手に遺すためにも、「遺言書」がとても大切になってきます。メルマガ『こころをつなぐ、相続のハナシ』では、著者で行政書士の山田和美さんが、遺言書があったために判決が大きく変わった事例を、わかりやすく解説して下さっています。
最新ニュースから。遺言書について考える
先日ニュースで、遺言書にまつわる話が出ていました。簡単に要約すると、
「ある方が亡くなって、その方の相続人は娘2人。しかしその方は『長年お世話になった家政婦さんに全財産を遺贈する』旨の遺言書をのこしていた。
それを不服に思った娘2人は遺産を勝手に持ち出したうえ、『遺言は、家政婦が騙して作成させたものなので無効だ』『家政婦はお金を着服していた』等と主張。
結局裁判では、家政婦の女性が全面勝訴。遺産を持ち去った娘側に返還を求めるよう命じた」
という内容。事実関係については裁判で決着がついている以上私が云々言う内容ではないので、記載内容が事実という前提でお伝えします。
まず感じたのは、似たようなケースでも、遺言書のないケースはまだとても多いんだろうな、ということ。
遺言書を作成するためには、自分が亡くなった後のことを真剣に考える必要があります。お世話になった方を思い返して、財産の洗い出しをして、書き方も、専門家に頼むか自分で調べるかして…。慣れていないことが通常だと思うので、結構大変なことです。
そういった気持ち以上に
「遺された家族に困ってほしくない」
「お世話になった方に財産を渡したい」
「相続でトラブルになってほしくない」
等の気持ちが勝ってようやく、遺言書の作成に着手できるのです。ここで頓挫してしまう方が非常に多い。
「とは言っても、まだもめると決まったわけじゃないし」
「自分はまだ元気だから大丈夫」
「なくても、何とかなるでしょう」
「やっぱりうちくらいの財産額で遺言を書くのはおかしいのでは…」
等々。個人的には、遺言書はぜひ全員に書いてほしいと思っています。
このケースでは遺言書があったので良かったですが、もし遺言書がなければ、(記事によると)長年お金を無心していた娘ふたりが全財産を相続する権利を持ち、長年献身的に支えてきた家政婦には一銭の相続権さえ与えられない。
裁判を経ることになってしまったのは財産をのこした方にとっては想定外だったかもしれませんが、それでも本当にお世話になった方に財産をのこせた、というのは、やはり遺言書があったからです。
ちなみに、日本の法律では、今回のケースでは娘2人にはそれぞれ「遺留分」という最低限の権利は保障されています。遺留分は、本来の相続分の2分の1。つまり、この場合は1人につき「相続財産総額の4分の1」ですね。
家政婦の女性に全財産を遺贈するとの遺言書は有効ですが、この「相続財産総額の4分の1」ずつは請求されたら支払う必要があります。遺言書の中に、遺留分についての記載があったどうかも気になるところです。
遺言書はとても強い効力をもつ書類です。そのため、確かに多少面倒なところはあります。しかし、自分が築き上げてきた財産、守ってきた財産です。その行先を流れに任せてしまうのではなく、
誰にのこしたいのか。
どうのこしたいのか。
しっかりと自分の意思で決めていこうと考えていただくきっかけになれば幸いです。
image by: Shutterstock
『こころをつなぐ、相続のハナシ』
行政書士山田和美が、相続・遺言について情報を発信するメールマガジン。「相続人って誰のこと?」という基本的な事から、「相続が起きると銀行口座どうなるの?」等のより実務的な疑問まで幅広くお伝えして参ります。
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