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トヨタが突然、全工場の生産を全面停止。一体、何が起きたのか?

1月に起きた関連会社の爆発事故等の影響で部品不足に陥ったとして、国内全16工場の組立ラインを6日間に渡り停止すると発表したトヨタ自動車。日本が誇る大メーカーの信じ難い事態を、新聞各紙はどう伝えたのでしょうか。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』で詳しく紹介・分析されています。

各紙は、トヨタ自動車の生産停止をどう報じたか

今日のテーマは…各紙(《毎日》を除く)は、トヨタ自動車の生産停止をどう報じたか、です。

基本的な報道内容

トヨタ自動車は1日、今月8日から13日までの6日間、完成車の組み立てラインがある国内の全16工場を停止すると発表した。グループの愛知製鋼で起きた爆発事故により、エンジンなどに使う特殊鋼の確保が難しくなったためで、全工場が生産停止に追い込まれるのは2011年の東日本大震災以来となる。

適正な在庫量とは?

【朝日】は6面の経済面にやや分析的な内容を含む、この問題についての記事を置いている。見出しは「トヨタ 現場に悲鳴」「下請け『1週間 仕事ない』」。

リードには、愛知製鋼の爆発事故を他社の代替生産で乗り切ろうとしたが、大雪などで輸送が遅れ、部品不足に陥ったとしていて、「泣きっ面に蜂」的な状況が説明されている。

品質が不十分な車をつくるわけにはいかない。生産停止はやむをえない」というトヨタ幹部の発言。トヨタ関連の部品メーカーは2万社を越え、納入先ははトヨタだけという小さな会社も多いという。その1つを取材すると、1週間仕事がなくなるので、社員20人には急遽、有給休暇をとってもらうつもりだと社長が言っていたという。トヨタは今後2週間で特殊鋼部品の在庫をため、15日にライ
ンでの組み立てを再開する方針。愛知製鋼も3月末の生産再開を目指すという。

記事の最後のブロックには「代替生産 見込み外れ」という中見出しが付いている。神戸製鋼所など他メーカーに代替生産を頼み、生産は継続できると踏んでいたのだが、特殊鋼はノウハウの塊」であり、材料は愛知製鋼から船で九州や北海道に運ばなければならず、また大雪の影響で想定以上に時間がかかってしまったのだという。

《朝日》は最後にまとめとして、「今回の事態は、『万が一への備え』と『効率的なクルマづくり』の間でメーカーが抱えるジレンマをあらためて浮き彫りにした」という。また、これまでもあった大規模生産停止の対策として、仕入れ先の分散や緊急時の代替生産先の確保などに務めてきたが、手元の在庫を増やすことには後ろ向きだったという。その理由は「コストがかさむ上、部品の不具合が生じたときに原因を突き止めにくくなるといったマイナスが大きいとみている」からだという。

uttiiの眼

《朝日》がこの記事で表現しているのは、次の3つくらいにまとめられるだろう。1つは、トヨタはちゃんとしたクルマしかつくらない「真面目な生産者」であるというアピール、次に生産停止は、爆発事故と大雪という不運が2つ重なったことによる、気の毒な結果であること、さらに、在庫を増やせば問題は小さくなることが分かっていながら、基本的にはコストが増大することを嫌い、手を付けないできていること。

この記事、約めて言えば、こんな感じだろうか。

「真面目なトヨタがアンラッキーの連続によってこんなことになった。気の毒なトヨタ。下請けも可哀想だが、コストを上げるわけにはいかないから仕方がないですね」

正面からトヨタを批判せよなどと言うつもりもないけれど、記事の中に「トヨタ生産方式」や「ジャストインタイム方式」、あるいは「リーン生産方式」というような基本的なタームを書き込まないのはなぜだろうか。批判的なトーンを抑えようという慮りでなければよいのだが。それに、記者は「メーカーが抱えるジレンマ」などという、手垢の付いた言葉で状況を表現しているが、要は、大災害や事故のリスクを読み込んだ在庫量の最適解を見いだせないでいるということなのではないか。さらに、勘案すべきリスクの中には、膨大な下請け業者の仕事を維持するということも含まれているはずだ。《朝日》は折角、見出しで「トヨタ 現場に悲鳴」「下請け『1週間 仕事ない』」と打ったのだから、その見出しに相応しい記事にすべきだった。

一応、記事の中身に沿って以上のような感想を持ったが、実は、納得できないことがある。トヨタがラインを停止した本当の理由は何だろうか。大雪で輸送が遅れた?九州や北海道に運ぶのが大変だった? いずれも俄には信じることのできない言い訳だ。「ノウハウの塊」のような特殊鋼製造技術を、愛知製鋼は他社に提供したのだろうか。そんなことは到底信じられない。

リスキーな「トヨタ生産方式」

【東京】は、解説記事「核心」をこのテーマに充てている。ライン停止の理由の中に「大雪」をカウントしていない。見出しは「『在庫最少』リスクと裏腹」。リードは「自動車メーカーは震災の教訓から、複数の部品メーカーに発注するなどの危機対策を進めてきたが、生産停止を避けることはできなかった」としている。

本文の書き出しは、トヨタに部品を提供しているメーカーの社長の言から。「大変なことになった。これから急いで対応を考えないと」。今回の事態がどう「大変」なのか。1つには新年度を控えた1~3月が年間を通して最も新車販売が忙しい時期、まして、新型プリウスの好調で、停止による減産は8万台に上ってしまう。つまり、とにかくたくさんクルマを作らなければならないときに、ラインを留めざるを得ないということだ。

愛知製鋼はエンジン本体や変速機に使われる特殊鋼を月に7万トン造り、半分をトヨタとグループ企業に供給していたという。特殊鋼は素材の配合の違いや形状によって数千種類もある。愛知製鋼は他のメーカーに代替生産を依頼したが、一部の部品で納期に間に合わない事態となったという。約3万点の部品のうち1つでも欠ければクルマは作れない。そこで全工場停止となったと。

記事は、震災で生産の本格再開まで半年もかかった教訓から、自動車各社が発注先の複数化や在庫の一定量確保などの対策を進めたこと、それでも、今回は特殊鋼が部品メーカーの製品のどこに使われているか確認するのに時間がかかってしまい、代替品を安定的に生産ラインに投入する筋道を作り上げる前に、在庫が底をついてしまったという。特殊鋼の在庫は、他の一般的な部品と比べて格段に多い平均1ヵ月分あったにも関わらず、だった。

記事は最後に、部品の在庫を極力持たず、必要なときに必要な分だけ調達する「トヨタ生産方式」に触れる。災害や今回のような事故が起きれば、生産停止と隣り合わせ。しかし、トヨタ系部品メーカーの幹部は、無駄を省いた競争力の維持するためには、不測の事故によるこうした影響は避けられなかったという。

uttiiの眼

在庫が少ない→事故で供給途絶→ライン停止という図式を誰しも思い浮かべるが、そこまで単純ではないということのようだ。結局、クルマの生産とは、3万点の部品を日本各地、場合によっては世界各地の部品工場から組み立て工場に集めてきて、必要なときに必要な場所に、必要なだけ、その部品が用意されているという状態を作り出すことに他ならないのだろう。愛知製鋼の特殊鋼は様々な部品に使われているというから、その各部品メーカーのところに、やはり必要な特殊鋼が必要なだけ運び込まれていることが必要で、今回は、そうした「設計図」が描ききれず、在庫が払底したということかと思う。この事態を無傷で乗り切るためには、特殊鋼の在庫1ヵ月程度ではまだ少ないということになる。トヨタとしては頭の痛いことだろう。今回のことで失ったものと、在庫を増やすこととを天秤に掛けて、どんな答えが出てくるのか

だがどうにも腑に落ちないことがある。「特殊鋼が部品メーカーの製品のどこに使われているか確認するのに時間がかかった」と《東京》の記事は言うのだが、そんなことがあり得るだろうか。やはりここでも、トヨタがラインを留めた本当の理由はハッキリしない。

キラー素材だった?

【読売】は8面の経済面に記事。「トヨタ、9万台生産遅れか」「部品代替難しく」「国内全16工場停止」との見出し。1月8日に愛知製鋼で起きた爆発事故の後、愛知製鋼の別のラインでの増産や神戸製鋼所などに代替生産を委託するなどして対応。当初は残業と休日出勤を取りやめる減産で乗り切る計画だったが、来週の生産に必要な部品の確保が間に合わなかったとみられる、としている。

これにより、9万台以上の生産が遅れる見通し。海外工場の生産は続ける方針だという。

トヨタは過去にも、97年のアイシン精機の火災、07年中越沖地震、11年の東日本大震災などで生産停止に追い込まれている。発注先を複数にするなどの対策をとってきたが、「今回は、愛知製鋼の特殊鋼と同等の強度を保つ鋼材を、別の鋼材で代替するのが難しかったとされる」。

uttiiの眼

それぞれのところの末尾で書いたように、《朝日》と《東京》を見ても、今回、トヨタがなぜライン停止を決断したのか、究極の決断理由がどうもぼやけていると感じていた。《朝日》は遠隔地の輸送が必要となり、また大雪の影響でその輸送が困難になったと書いているが、どうも頭から信じる気になれなかった。《東京》も、特殊鋼がとの部品に使われているかを確認するのに手間取って、その間に在庫が払底したという説明。これも実のところ、分かったようで、よく分からない話だ。トヨタが特殊鋼の使われ方を把握していないなどということは信じられない。

《読売》の短い記事の最後に書いてあることは、その意味で、なるほどと思わせるもの。愛知製鋼の作るものと同じものを他社が作れなかったということだろう。愛知製鋼の特殊鋼はキラー素材ということだ。そのことと、在庫量の問題は、また別なのかもしれない。

image by: Wikimedia Commons

 

uttiiの電子版ウォッチ』2016/2/2号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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