MAG2 NEWS MENU

甘利氏「涙のサプライズ辞任」を美談にしたがる異常事態

週刊文春の記事に端を発した甘利前経済再生相の辞任劇。会見で甘利氏は涙を見せつつ自らの政治家としての美学を語りましたが、メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』はその言を「三文芝居」とバッサリ切り捨て、さらに「カネを受け取っておきながら被害者ツラは許されない」と厳しく糾弾しています。

強欲に悪乗りし墓穴を掘った甘利明

どうやら、甘利明とその秘書たちは、怪しげな人物が持ち込んだ「儲け話」に加担した挙句、お粗末にも寝首をかかれてしまったようである。

安倍政権中枢4人組の1人、甘利にカネを出して、利をはかろうとする企業は、電力業界をはじめ、数多い。なにも危ない橋を渡らなくてもよさそうなものだが、政治錬金術は、しばしば見さかいなく対象を選ぶ。

甘利の金銭授受疑惑は、週刊文春(1月28日号)の記事で発覚した。一色武なる人物が「甘利大臣に賄賂1,200万円を渡した」と、録音テープや膨大な証拠資料まで添えて売り込んだ「自白ネタ」だ。それをもとにした週刊文春のスクープ記事。録音データの存在は、甘利大臣の脳天を一撃した。

甘利は否定も肯定もせず、「調査したい」という理由で「1週間」の期限を区切り、時間を稼いだ。次週号がどう報じるかを見極める目的もあったが、なにより、身に覚えのあることゆえに、危機管理の対策を立てる時間が欲しかったのである。

その結果出てきたのが、涙のサプライズ辞任。演出力と目くらましの手際は、さすが安倍晋三のお友達というほかない。

甘利が被害者ヅラするために、詰め腹を切らされ、やむなく辞表を提出したのが、甘利から信頼されていた2人の秘書たちだ。多忙な大物国会議員に代わって政治の裏側の実務を担ってきた連中である。

秘書といっても、国費で給料を支払う公設秘書(身分は国家公務員特別職)と、各議員の事務所から給料が支払われる私設秘書がいる。文春の記事によると、今回の「賄賂疑惑」に主としてかかわったのは、公設第一秘書清島健一だ。甘利の信頼が厚く、神奈川県大和市の甘利事務所長でもあったという。

この記事について、自民党の幹部や、一部メディアから「罠だ」「嵌められた」など、甘利をかばい、悪を情報提供者に転嫁する意見が続出した。それに呼応し文春の記事にケチをつけるように週刊新潮2月4日号では「甘利大臣を落とし穴にハメた怪しすぎる情報源の正体」なる記事が掲載された。

この疑惑の特殊性は、ほぼすべての情報が、もっぱら一色武の証拠資料と証言にもとづくものであり、甘利側がそれにほとんど反論できず、自ら辞任の道を選んだことである。それをもって、文春の記事が事実と大きくは変わらないであろうと推定できる。だからこそ、安倍政権を守りたい人たちや、ライバルのスクープ価値を落としたいメディアは、情報提供者の「怪しさに照準をあてるしかないのだ。

たしかに一色武がいかなる人物かは気になるところである。「怪しすぎる」という見立ての新潮の記事では当然、ネガティブな側面が強調される。

一色は、千葉県白井市の建設会社「薩摩興業株式会社」の総務担当という肩書の名刺を持って活動している。しかし、単なる社員ではない。薩摩興業が隣接する土地で道路建設をはじめたUR(独立行政法人都市再生機構)とトラブルを起こし、URから損害賠償や立ち退き料を名目にカネを取ろうと画策したところに目を付けて、社内に入り込んだというのが実態だろう。カネの匂いを嗅ぎまわっている連中はゴロゴロいる。

薩摩興業は八王子の右翼団体Aと神奈川の右翼団体Bに計3,000万円を出して協力を依頼した。右翼団体Bの会長は大臣経験のある元国会議員と親しい。ところがこれらの団体の交渉が上手くいかず、激怒した薩摩興業の社長は2団体に1,000万円を返すよう求めた。むろん右翼団体はカネを支払う気などない。薩摩興業に右翼団体の構成員だった一色が入り込むのはこの頃らしい。

新潮の記事の一部を引用する。

「薩摩の社長には、私の部下と一色が交渉を続け、きちんと経過報告もすることで納得してもらった。そして、部下と一色はこれを機に薩摩興業の名刺を持つようになったのです」(右翼団体B元幹部)

 

…元国会議員を使ってもうまくいかなかったURとの交渉。そこで、一色氏が目をつけたのが、現役閣僚の甘利氏だった。

一色が甘利事務所に清島秘書を訪ねたのは2013年5月9日のこと。その数か月前、知人の紹介で知り合い、URへの口利きを依頼する目的で、あらためて会う約束を取りつけたのだ。一色の話を聞いた清島は、「私が間に入ってシャンシャンしましよう」と請け合った。

その後、URに内容証明を送り、甘利事務所の別の秘書がUR本社に赴くなどして、交渉を進めた結果、同年8月、薩摩興業はまんまとURから約2億2,000万円の補償金をせしめたのである。これだけのカネが手に入ると、政治家の口利きがいかにボロい利益につながるかを実感できる。一色や薩摩の社長はそういう気分だっただろう。

清島は清島で、2億円以上も不労所得があったのだから、分け前を寄こせ、となる。同年8月20日、清島は一色から500万円を受け取った。事件が発覚してから甘利側が調べたところでは、清島はこの件についてこう語っている。

「500万円を受領して…300万円については、その後、本来、自腹でしなければならない支出、支払いなどに使った」

つまり、200万円は政治資金として処理したが、300万円は自分のフトコロに入れたというわけである。

もちろん、最大の問題は甘利自身がどこまで関与していたかということだ。

清島が500万円を受け取った後の、11月14日、一色は清島に案内されて甘利の大臣室へ通された。そこで、甘利が50万円入りの封筒を受け取ったこと。それは甘利自身が認めている。ただ、スーツのポケットに封筒をしまったと文春が報じているのに対し、甘利本人は「そんな品格を問われるような行為はしていない」と言っている。

その後も、清島は一色とともに、URからの国家資金収奪にのめりこんでいく。URの道路工事によって薩摩興業の敷地に亀裂が入り、補修のためにはその下に埋まっている産廃の撤去をしなければならないとして、薩摩とURとの間で30億円規模の補償交渉がはじまった。一色は当然のごとく甘利事務所に口利きを依頼した。清島にしてみれば、錬金術の新たなタネが転がり込んできたようなものだ。

翌2014年2月1日、一色は大和事務所の応接室で甘利大臣と会い、URとのトラブルの状況を説明する資料を手渡した。そのさいも、甘利は50万円入りの封筒を受け取っており、これについても甘利は事実と認めている

ただし、2回にわたって甘利が受け取った50万円ずつ、計100万円のカネは、2件合わせて14年2月4日、甘利が代表をつとめる自民党神奈川県第13選挙区支部で寄付として適正に入金処理したと、甘利は主張している。しかし、13年11月14日の献金を14年2月4日として収支報告書に記載するのは、いわゆる「期ズレ」であり、「期ズレ」だけで東京地検特捜部に痛めつけられた小沢一郎事務所のことを考えると、少なくとも適正とはいえないだろう。

しかも、文春の記事には14年2月1日の大和事務所における非常に重要なシーンが描かれている。

(一色の発言)「10時半を過ぎたころ大臣が現れ、挨拶をすませると、所長(清島)が、『この資料を見てください』と言って、私のファイルを大臣に手渡したのです。真剣に目を通していただき、…大臣は『一色さん、ちゃんとやってるんだね。わかりました』と言い、所長に『これ(資料)、東京の河野君(現・大臣秘書官の河野一郎氏)に預けなさい』と指示しました」

URとの補償交渉資料を甘利に見せ、甘利は「わかりました」と言い、大臣秘書官に渡すよう指示、そのうえで現金50万円を受け取っているのである。この時の甘利の声が録音データに記録されているとすれば、政府内における影響力からして、あっせん利得処罰法違反の疑いが濃くなるのではないだろうか。

秘書はURの担当者と12回も会っている。黒塗りだらけの12回分の記録を公開してURは「口利きはなかった」と言っているが、オモテに出ている会話ですら、甘利事務所からURへの圧力が感じられる。たとえば「少しイロを付けてでも地区外に出ていってもらう方がいいのではないか」という秘書の発言は、もっと立ち退き料を払ってやれよ、という意味に受け取るのが自然だろう。

甘利は大臣辞任表明を次のような言葉で締めくくり、涙をにじませた。

「閣僚のポストは、重い。しかし、政治家としてのけじめをつけること、自分を律することはもっと重い。政治家は結果責任であり、国民の信頼の上にある。たとえ、私自身は全く関与していなかった、あるいは知らなかった、従って、何ら国民に恥じることをしていなくても、私の監督下にある事務所が招いた国民の政治不信を、秘書のせいと責任転嫁するようなことはできません。それは、私の政治家としての美学、生きざまに反します」

なんとカッコつけた言い草だろう。三文芝居のセリフじゃあるまいし。

情に訴える言い訳の前に、「現金を受け取ってしまったことが恥ずかしい」と、なぜ「自分を律する」ことができないのか。政治家としての「美学」がその程度なら、自己正当化の権化、安倍晋三とはやっぱり似た者同志というほかない。

image by: Wikimedia Commons

 

国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋

著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
<<無料サンプルはこちら>>

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け