安倍議会演説は、対米「再・属国化」宣言に聞こえる

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何度もスタンディングオベーションが起きたことを理由に「大成功」と言う人もいれば、歴史認識問題をはぐらかしたことなどから「不合格」とするメディアまで、まさに賛否両論の安倍首相の米議会演説。そんな中にあってジャーナリストの高野孟さんは「中学生が作ったフォークソングか」と手厳しい意見を示しています。

対米「再・属国化」を宣言した安倍議会演説

安倍晋三首相が4月29日に米議会上下両院合同会議で行った日本の首相として初めての演説は、聴くも無惨なものだった。

英語の出来を云々するのは酷というものだろう。一昨年9月の五輪誘致ブエノスアイレス総会の時の猪瀬直樹都知事(当時)よりマシだったかことは確かだが、16日にニューヨークで始まったミュージカル「王様と私」で、日本人俳優としてブロードウェイで初めて主役を張った渡辺謙が「彼の話は分かりにくい時がある」「英語が粗い」「日本語アクセントがきつい」などと米各紙に酷評されたのよりマシだったかどうかは分からない。渡辺は、それでも演技力は高く評価されたし、日々の公演を通じて英語力のブラッシュアップに努力し、評判も改善されてきたたようで、努力賞に該当する。

安倍は、2年間カリフォルニア州に留学し、神戸製鋼時代にはニューヨーク勤務もあったというにしては「日本語アクセント」がきつく、一語一語はっきり発音しようという意図からだろうが、例えば定冠詞のtheや前置詞のatやtoと次の名詞との間にもポーズが入ってしまうので、まことに聞きづらかった。議場を埋めた議員たちは事前に配られたドラフトをめくりながら聴いていたので事なきをえたということだろう。それでも、宿舎で深夜まで練習し、昭恵夫人が「もう、それ、聞き飽きた」と言って別の寝室を用意させるほどだったというから、まあ努力賞としておこう。

それよりも、問題は演説の中身である。

ベタベタの「親米派」ぶり

演説の大半は、歯の浮くようなお世辞や米議員心理をくすぐるような外交儀礼的な無駄口を含む「米国礼賛」で占められていて、つまりは自分は歴史修正主義者、すなわち右翼的な反米愛国派などではなくて、あくまで米国の意向に従う忠実な親米保守派なのだということを認めて貰うことに全力を傾注したということだろう。

読売新聞30日付が紹介した日英両文の「演説案全文」で見ると、全体は12節で、14字×449行あるが、大雑把に言って、そのうち第1~6節と第12節の計229行=51%は米国への礼賛、感謝、おべっか、くすぐりなどで、残りの第7~11節の220行がTPP促進と集団的自衛権自賛である。注目の歴史認識に関しては、第6節の中でわずか8行=2%弱、触れただけで、全世界の注目に肩透かしを食わせることになった。

米議員の拍手喝采を受けやすくための演説テクニックとしては、第1に、「自由」と「民主主義」を連発した。私が数えた限りでは、自由は3回、民主主義は9回で、その2つが折り重なるところでは必ずスタンディング・オベーションが起きた。米議員の頭は割と単純であることが分かる。

第2に、米国人もしくは米議員なら誰でも知っていそうな米国人12人の名前を挙げて親しみやすさを演出した。第1節では議員出身の歴代駐日大使4人と現役でその場に居合わせたキャロラインの名前を挙げて「米国の民主主義の伝統を体現する方」と持ち上げ、また今は亡きダニエル・イノウエ上院議員まで引き合いに出して「日系米人の栄誉を一身に象徴された方」と称揚した。さらに第5節では、第2次大戦の硫黄島激戦に参加したスノーデン海兵隊中将と日本側守備隊司令官の孫の新藤義孝議員をわざわざ予め傍聴席に座らせて1人を紹介し、「かつての敵が今日の友」になったと日米の和解と紐帯を讃美した。他にも、俳優ゲーリー・クーパー(第2節)とか歌手キャロル・キング(第12節)とかの名を散りばめ、「ゲディスバーグ演説」(「人民の、人民による、人民のための政治」という一説で知られるリンカーン大統領の演説)が日本人にとっての民主主義の教科書だというようなことを言って(第3節)、米国人の心をくすぐった。例外は、キャサリン・デル=フランシア夫人(第2節)で、これは誰も知らないのが当たり前で、安倍がカリフォルニア州に2年間留学していた時のイタリア系の下宿のおばさんである。因みにこの留学で、安倍は1年間英語学校に通った後、南カリフォルニア大学の政治学コースに入ったが、1年弱で挫折、中退している。

第3に、「トモダチ」である。3・11後に

米軍は未曾有の規模で救難作戦を展開してくれました。本当にたくさんの米国人の皆さんが、東北の子どもたちに、支援の手を差し伸べてくれました。私たちにはトモダチがいました。被災した人々と、一緒に涙を流してくれた。そしてなにものにもかえられない、大切なものを与えてくれた。──希望です」と言って、結びの言葉「私たちの同盟を『希望の同盟』と呼びましょう。……希望の同盟──。一緒でなら、きっとできます。

余りに感傷的で、気味が悪い。トモダチ作戦は確かに機敏かつ大がかりなものであったけれども、それ自体は人道的な災害救助活動であって日米軍事同盟の本旨とは関係がない。しかも、その動機には、福島原発事故の情報を直接採取しようというドライな一面も含まれていた。それを「一緒に涙を流してくれた」などと極端に美化しておいて一気に「希望の日米同盟」に落とし込み、これは一体何なんだ、歌謡曲か中学生が作ったフォークソングか、「一緒でなら、きっとできます」だって?

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