安倍議会演説は、対米「再・属国化」宣言に聞こえる

 

安倍が填りかねない落し穴

結局のところこの駄文は、一昨年12月の靖国参拝で米政府から「失望」という異例の言葉を突き付けられた安倍が、米国に対して精一杯の愛想を振りまいて汚名挽回を図り、その上で、軍事(集団的自衛権)と経済(TPP)の両面で日米が手を携えて中国に立ち向かうことを世界に宣言することを狙いとしたものである。その根底には、「自由」と「民主主義」という「共通の価値」を「世界に広める」という、岸信介由来の「西側の一員」意識が横たわっているのだけれども、残念ながら21世紀の今日では「西側」という概念そのものが存在せず、その名残のようなものはあったが、それも欧州主要国や豪州が雪崩を打って中国が提唱する「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に参加表明したことで雲散霧消してしまい、米国と日本だけが途方に暮れて取り残されている。

AIIB問題の本質は、20世紀後半を彩った米国主導のブレトンウッズ体制とその申し子である世界銀行・国際通貨基金(IMF)を基軸とする国際金融秩序が老朽化し硬直化して、21世紀の新しい現実に適合できなくなっている中で、米国自身が思い切ったイニシアティブを発揮して、中国、インド、ロシア、イスラム世界などユーラシア諸勢力のパワーを包摂できるよう旧秩序の改革を成し遂げることができるのか、それが出来ない時には中国はじめユーラシア諸勢力は自分たちのイニシアティブで新秩序の形成に踏み出さざるを得なくなって、米国は受け身の対応を迫られることになるのか、ということである。

オバマ大統領自身はたぶんこの構図をよく理解しており、軍事面での米国の「アジア重視」は「決して中国包囲網を意図するものではない」と昨年11月に北京で表明しているし、AIIBについても「米国は反対していない」と明言している。ところが、米議会の多数を占める共和党にはこれらの問題を冷戦思考そのままの「米中対決」論で捉える人たちが多く、だから安倍の演説は度々のスタンディング・オベーションで迎えられたのだが、オバマがそれと同じだけの拍手を送ったのかどうかは分からない。むしろオバマは、安倍の余りの反中国への凝り固まりに辟易したのではないか。安倍は、共和党右派的な米中対決論が米国の主流だと思い込んでいるが、ホワイトハウスはそうではない。そこに安倍が陥りかねない落し穴がある。

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『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.184より一部抜粋

【Vol.184の目次】
1.《INSIDER No.783》
対米「再・属国化」を宣言した安倍議会演説
──日米一緒なら「対中包囲網」も怖くない?

2.《CONFAB No.183》
閑中忙話(2015年04月12日~18日)

3.《SHASIN No.160》付属写真館(続ミャンマー&バングラの旅)

4.《SHASIN No.161》付属写真館(通常版)

著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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