「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるように、人間の最後を飾る葬儀にも一人ひとりのドラマがあります。今回のメルマガ『瑠璃の葬送日記&葬儀ナレーション例文』では、香具師で酒飲みで怠け者という一人の男性の葬儀の忘れられない一コマをご紹介いたします。不器用だった彼は、天国で何を思っているのでしょうか?
ある日の施行風景
私が担当させていただいた施行の中から印象に残った風景を切り取ってご紹介するコーナーです。
これから葬儀司会者をめざす方や葬儀司会者見習いの方などに実際の現場の様子として少しでもご参考になれば幸いです。
個人情報保護の観点からフィクションとして執筆しております。また個人名土地名の表記は控えさせていただきますことをご了承下さい。
故人様は享年76の男性。
奥様は数年前から介護施設に入所されていて、このたびは不参加。
お子様はいらっしゃらない。
喪主をつとめられるのは甥御さんで、この葬儀に呼ぶような人がいないので、ということで、結果的に近いお身内だけで見送られる家族葬となった。
「お仕事は、香具師といいますか、まあ、そういったことです。まともなことではありませんよ」
…香具師(こうぐし・やし・てきや)とは、縁日や祭りなど人出の多いところで見世物を興行したり、品物を売ることを生業とする人のこと。映画「男はつらいよ」の寅さんのような感じでしょうか。
お通夜は行われずご葬儀のみ。そこで、「どうせなら」と喪主様。
あの伯父らしく自由に送ってやりたいと読経前に皆がそれぞれのお別れの手紙を読もうということになりました。
私の地方で弔辞がよまれるタイミングというわけです。
葬儀担当者様、喪主様、お寺様と相談させていただき、このたびのナレーションは閉式後、お別れの時だけとさせていただくようにしました。
想いはあふれるのだけれど自分でうまく書き表せないという喪主様の奥様から代筆を頼まれ、取材した内容をもとに瑠璃がお別れのお手紙用に原稿をお作りし、さらにご要望を受け、より辛口に。
リクエスト通りに仕上げて奥様がご葬儀で読んでくださったお手紙の原稿と、この時に読ませていただいたナレーション原稿を紹介したいと思います。
毎度申しておりますが、私の担当させていただく施行では多くの場合、
【1】お通夜の前ナレ
【2】ご葬儀の前ナレ
【3】お別れ(支度中~お花入れ)ナレーション
この3箇所が、ナレーションを入れさせていただく候補となります。3つとも作る場合もありますし、どこか1つだけ、という場合もあります。お聞かせいただいたお話のボリュームによって変えたり、喪主様、葬儀担当者様と相談させていただき、調整するようにしています。
あと、ナレーションは主役ではありません。最重要なことでもありませんので私の場合はなるべく短く。そっと添える程度にと考えています。
…これ、あくまでも瑠璃の場合のこと。
もちろんご当家からの希望でたっぷり喋ってほしいという場合や無宗教でのお別れ会など、それを求められる場面ではそのように対応しますが通常の施行であれば、宗教儀礼であるということに重きを置く方針です。
主役の座を奪わないこと。たかが司会者が出しゃばらないこと。ま、人それぞれでしょうし、地域柄っていうのもあるんでしょうね。特にご葬儀っていうのは地域柄がとても大事なんですよ。いろいろな要素によって成り立っていることですので「こういうときはこれが正解」っていうのがない世界です。
当メルマガで紹介するナレーション原稿は読者の皆様にご自由にお使いいただいて構いません。
どこかでお役に立てたら私も嬉しいです。
ちなみに私が担当させていただいている地域はいわゆる後火葬。ご葬儀ー出棺ー火葬ー収骨という流れが主流です。
読者の皆様の中で、先火葬(骨葬)という地域も少なくないはずです。
ここでご紹介するナレーション例文は後火葬という前提で書いておりますので適宜アレンジしてお使いいただければと思います。
ピックアップ★お別れの手紙
○○伯父さん、黒いリボンに縁取られた遺影の伯父さんは慣れないネクタイを締めてどこか窮屈そうですね。
本当はまた、ふらりとどこかへ出かけたいのではありませんか。
伯父さんには何度かお目にかかっただけなのにどこか繋がっているような気がするのはあの指輪のせいかもしれませんね。
30年前、夫と私は結婚の報告のため夫の母の姉である伯母の家を訪ねました。
そこで伯父さんに会ったのです。
伯父さんは「あんたが○○ちゃんの嫁さんか」とだけ言って手品師のような手つきで私の手のひらにガラス玉の指輪を乗せました。
私はとても驚き、同時に懐かしい気持ちにもなりました。
脳裏に、子どもの頃に見た縁日の光景が広がったのです。
お面に綿菓子、水風船、そして指輪も売っていました。
私はその指輪がほしいと親に駄々をこねたのですが当時、買ってはもらえませんでした。
…その指輪が、不意に目の前に現れたのです。
夫は「伯父は香具師で酒飲みで怠け者。家にも帰らず伯母が気の毒だ。こんな指輪はどうせ余り物だろう」と語気を強めました。
その口ぶりから私は伯父さんが周りの人たちに受け入れられていないことを察したのでした。
あの日、伯父さんが指輪を下さったのは、夫が言うように単に気まぐれだったのかもしれませんし私も何度かもう処分しようと思ったこともありますが指輪を見ると、人目を気にしたり従順なイエスマンであろうとしたり本当の自分になれない自分を見るようで切なくなるのでした。
かといって私は伯父さんのように生きられません。
伯父さんだって決して生きやすい人生ではなかったことでしょう。
生きていくって、誰にとっても大変なことなのですね。
伯父さん、どうぞ安らかにお眠り下さい。
一句、「冬の日のダイヤに勝るガラス玉」
合掌
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『瑠璃の葬送日記&葬儀ナレーション例文』
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