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社員に「俺を刺し殺せ」。京セラ稲盛氏がそこまでして伝えた熱意

本田宗一郎氏、松下幸之助氏、稲盛和夫氏などのカリスマ経営者には、創業当時から大企業に成長するまでの過程で数多くのエピソードを残しています。彼らが成功を押し上げた要因のひとつに「危機的状況」というものがあります。この状況を、どのようにして乗り越え、成長に導いたのでしょうか? メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』の著者である浅井良一さんが、現代にも通じるカリスマの名エピソードの数々を紹介してくれています。

「創造」のための手法

「発明王」と言われたエジソンは、1000件以上の特許を取っています。ところが意外だったのは、エジソン1人の作業ではなく研究所を設立して、スタッフとともにシステマチックに創造を行っていたということです。

これに対して、本田宗一郎さんは1人で作業をしていたようですが、本田さんが去った後の「技術」を誰が担うのかは、企業にとって大きな課題でした。本田宗一郎ひとりに頼る危うさを予測して、打開策を考えたのが、相棒であり、経営全般を任されていた藤沢武夫さんでした。

その結果、誕生したのが「本田技術研究所」でした。凡人でも知恵を結集すれば、天才1人に匹敵するのは可能だと考えて生まれた「システム」です。このフラットな組織のなかでは、上下を超えた自由な研究が求められました。

ホンダ独特の「技術を超えた創造性」には、フラットな組織のほか、もう1つの側面があります。これこそが「ホンダの強み」の源泉になるもので、「3つの喜び」や「人間尊重」などのフィロソフィー経営哲学)とチャレンジ精神です。創業時、本田さんと藤沢さんが時間の経つのも忘れて語り合った「夢」と情熱の中から生まれた精神で、やがて直弟子たちの中に染み込んで行きました。

ホンダには、「技術研究所」とならんで独創的なシステムがありました。それは「役員大部屋制」で、ここでは個室はもちろん自分の机もなく、役員が一堂に会して、藤沢さんの助言から生れた“ワイガヤ”が行われていました。「ワイガヤ(自由な話し合い)」は、ホンダにおけるトップレベルの戦略課題が練られ、その上で「考えが共有される場でした。但し、元社長の川本氏により、今は廃止されています。

「ワイガヤ」の創造性について考察してみましょう。スティーブ・ジョブズは、「まだ存在しないものへの消費者ニーズは消費者に聞いても分からない」と、「創造」の困難性について語っています。模倣できないことや定かでないことを探るためには、脳みそをぎりぎりまで絞った議論を通して、「真実のささやきがようやく宿るのだと思います。

「創造」というと、天才の一瞬の「ヒラメキ」のように格好よいものと思われますが、その実は継続的な、地道な試行錯誤の中でもたらされる「真実のささやき」です。iPS細胞の研究で知られる山中伸弥さんや、2015年のノーベル物理学賞受賞者の梶田隆章さん、ノーベル生理学・医学賞を受けた大村智さんの業績を見てみると、いずれも地味な作業の連続から生まれているようです。「創造」には、壮大なビジョンと、障害を乗り越える忍耐強さが必要です。

「創造的な革新」により、零細企業が一代にして大手中堅企業に成長することは稀なことではなく、「パナソニック」「ソニー」「ホンダ」「京セラ」と、数えあげればきりがありません。一般的には、製品の革新性だけに目が行きがちですが、開発の内側には、もっと本質的な経営マネジメント)の、「創造的な革新に至るまでの人間ドラマがあります。

京セラ」の稲盛和夫さんが、「創造的な革新」に至った「その時」を見てみましょう。稲盛さんが大学を卒業して就職したのは、京都の碍子製造会社、松風工業です。稲盛さんはここで、ファインセラミックスの将来性を予感することになります。しかし、新任の技術部長と意見が合わず、元上司らの応援もあって「京都セラミックを創業することになります。

そして創業2年目、思わぬ事態に見舞われました。11名の高卒従業員が、過酷な作業状況に対して不満と不安をつのらせ、将来の保証を求めて団体交渉を起こしました。「その時」に稲盛さんが考えたことと経験が、のちの京セラの「強みの源泉」となる、普遍性を持った「考え方」と、独自の「経営システム」を生む契機となりました。

「だまされたと思ったら、俺を刺し殺してもいい」という言葉まで飛び出した三日三晩の話し合いを通し、熱意が通じて、交渉はようやく決着しました。稲盛さんはこの過程で、「会社とはどういうものでなければならないか」を考え続けました。やっとたどり着いた考えが、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類社会の進歩発展に貢献すること」という経営理念です。

企業が成果を発揮するには、「創造性」と「生産性」を人々の働きを通していかに実現させるかにかかっています。「京セラ」創業当初、経営者が深く思い至り、「全従業員の幸福を目指す会社へと生まれ変わる」約束をした「覚悟」と「ヒラメキ」は、企業の精神的な強みとなりました。京セラは「この時」、会社経営の確固たる基盤を据えることになりました。

創造的な革新のアイディアは、危機的状況の中で痛みを覚えた「その時」に、経営者が覚悟とともに生み出す、「真実の瞬間の産物なのです。また、「二度と同じ痛みを味わわないぞ!」という、「恐れを知る者」が持つことのできる知恵です。松下幸之助さんは、「楽観よし悲観よし。悲観の中にも道があり、楽観の中にも道がある」と、悲観の中にあっても、楽天的に道を求めていくことの大切さを述べています。

蛇足で付け加えると、短期間でゆるぎない優良企業へと成長した企業を見ると、「トヨタ」にしても「ホンダ」にしても、強い危機感を持ちながら、「逆作用」として起こる崩壊と発展の変動を通して、「摂理」と「知恵」を学んでいます。GEのジャック・ウェルチや松下さん、サントリーの佐治敬三さんは、高収益の時にわざわざ危機的状況をつくり、「創造的改革」を断行しています。

 

 

戦略経営の「よもやま話」
著者/浅井良一
戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。
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