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超エリートだけどまるで中2。トランプ候補の“神レベル”話術とは

「教育水準の低い人たちが大好きだ!」と叫んで注目の的となったトランプ氏。これ以外にも過激な発言は数知れずあり、日本人に比べてオープンなアメリカ人でさえタジタジに見えます。メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の著者で米国在住の作家・冷泉彰彦さんは、これらの問題発言や言葉遣い、そしてそれに対する反応まで見通したうえでトランプ氏は動いており、アメリカ国民は手のひらで踊らされているに過ぎないと推測しています。

マイナスの感情を操る天才、トランプ候補

依然として絶好調なトランプ候補について、少し考えておきたいと思います。トランプ候補に関しては、特に2月20日(土)のネバダ党員集会と23日(火)のサウス・カロライナでの勝利は大きかったです。これで、南部でもヒスパニック票の多い州でも強さを見せることができているからです。

そのネバダでは勝利演説で「教育水準の低い人達が自分を押し上げてくれた。自分は教育水準が低い人達が大好きだ」と叫び、喝采を浴びていました。

このエピソードに関しては、トランプ支持者の中からは「他の候補なら言われたほうが怒るのにトランプの場合は親近感が伝わってくる」という反応がある一方で、「そんなことを言うトランプと、言われて喜ぶ支持者」に対して激しい嫌悪を表明する人もいます。ですが、この発言が「受ける」こと自体が現時点でのトランプの勢いを象徴しているのは間違いないでしょう。

では、その「」にあるのは何なのでしょうか?

それは「庶民性レトリック」とでもいうものだと思います。そう言うと、かなり突き放した言い方になりますが、端的に言えば「心にマイナスの感情を抱えた人間に寄り添う」ということです。

この「教育水準」の問題が正にそうです。アメリカは人間の平等ということがタテマエとして貫かれている社会です。ですから「学歴によって人の価値は変わらない」ということは、相当強いタテマエとして存在します。口に出して学歴差別をするような人は、激しく糾弾されますし、そもそもそんなことをいう人はいません。

ですが、そのウラには厳しい「学歴社会」があるわけです。学歴やコネクションの有無によって得られる職というのは大きく左右されますし、それも「実力のうち」ということになっています。

これに加えて「高学歴の人向けのカルチャー」というのが歴然として存在します。『ニューヨーク・タイムス』や『ワシントン・ポスト』のような高級紙、アート系の映画、オーガニック食品や日本食、そして「アップル製品」などがそうです。

また、教育に関しては「機会は万人に向けて開かれている」ことになっており、30代でも40代でもヤル気と資金のある人間は、大学や大学院に入り直してキャリアの方向転換を果たすこともできる社会だということがあります。

ですが、中高年になってのキャリアの転換というのは、万人にとって可能な選択ではありません。反対に、学歴を得られなかった中で、職を失ったり、収入減に苦しんだりしている人は沢山いるわけです。

そうした人に「自分は教育水準の低い人が大好きだ」というトランプのメッセージは届いてしまうのです。トランプ自身は「ペンシルベニア大学(Uペン)」というアイビーリーグの名門を卒業していますが、中学生レベルの語彙しか使わない彼の話法にはそうしたエリート臭は見事に消されています。

また多くのアンチの人々は、「Uペンの学位だって、カネで買ったものだろう」的な悪口を言うのですが、そういう悪口を言うことで、批判者は「トランプもトランプの支持者もバカだ」と言って勝手に納得している一方で、そのようなバッシングは、心に「マイナスを抱えた」支持者には逆効果なのだということがあります。

今回は、トランプが「KKK(ク・クルックス・クラン=暴力的な白人至上主義者の団体、非合法)」の元指導者から支持を受けているという問題が、スキャンダルとして取り上げられています。

トランプは、CNNのジャック・タッパーのインタビューで、そのことを問われて「そんなの知らない」と突っぱねていました。つまり「KKK」とか、その指導者のことを「知らない」と言って、支持を受けたことなどを「否定」あるいは「拒絶」するのを避けたのです。

さすがに、これは問題となって週明けには「そうした支持に関しては拒絶する」ということを表明し、同時に「CNNのインタビュー時には、イヤホンが不調でタッパーの言うことがよく聞こえなかった」といういい加減な弁明をしています。

このやり取りですが、批判者からは「トランプも血迷ったのか」的なバッシングが出ているのですが、もしかしたらトランプは計算してやっているのかもしれません。というのは、南部の白人の中には「大きな声では言えないが、黒人が大統領になって偉そうにしているというのは、北軍が南部に入って乱暴狼藉をした南北戦争後の状況に似ている」とか「それに対して黒人へのリンチなどをやったKKKについては、屈折した見方しかできない、とてもキレイに全否定などできない」という心理を持っているのかもしれないのです。

これも一種の「マイナスの心情」ですが、そこを「自分はそうした感情を否定しないよという隠されたメッセージとして出しているのかもしれません。

 

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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