東電元トップらを強制起訴。「東電裁判」を新聞各紙はどう報じたか?

 

立証は困難だが指定弁護士は腕自慢

【読売】は3面の解説記事「スキャナー」とそのすぐ横に社説を掲げている。見出しは次の通り。

・巨大津波の予見可能性 焦点
・東電元会長ら強制起訴
・原発事故 責任立証 高い壁
・補充捜査に限界 有罪確定2件
・証拠に照らした公正な審理を(社説)

uttiiの眼

《読売》もリードで「自然災害に伴う事故の過失責任を問うハードルは高く、立証は困難が予想される」としているが、記事の中身では、検察官役(指定弁護士)の意気込みにも触れた後、有罪判決を得ることの困難さについて、詳細に書いている。

まず、指定弁護士には、ロッキード事件などの弁護を担当した石田省三郎弁護士、さらに東電女性社員殺害事件でネパール人男性の再審無罪を勝ち取った神山啓史弁護士など、「強制起訴事件では過去最多の5人で臨む」とする。弁護士たちは起訴議決から7か月、第一原発の視察、東電下請け社員らへの事情聴取など新証拠の収集に努め、石田弁護士は「この事件はいける」と周囲に自信を語っているという。

このあと、《読売》記事は「困難性に目を向ける。まず、巨大地震の想定と津波試算については、当時、地震本部の長期評価以外に巨大地震と津波発生の具体的な予測はなく、長期評価自身が「裏付けのデータが乏しい」との見方もあったこと。さらに、試算結果に「すぐに対策を取る必要があると考えるほどの信頼性があったかどうか」で公判は大きく左右されるという。また予見可能性は、「具体的に予見できたか」が問われることになるとも。さらに、元会長らに試算結果がどう報告されたか、さらに犯罪の成立には、対策を講じていれば事故を防げたという「結果回避可能性」の立証も必要になると。

加えて、検察側の困難として、強制起訴のケースに伴う困難が語られる。《朝日》が指摘しているように、過去の強制起訴事件で有罪が確定したのは8件中2件に過ぎないこと。小沢一郎議員を強制起訴した指定弁護士が振り返るのは、補充捜査が難しい点。今回の件については「事故の先例がなく、証拠の量も膨大なはずだ。東電のどこかに問題があったとしても、巨大組織の最高幹部の過失責任にまでつなげるのは大変な作業だ」とみているという。

この「スキャナー」は極めて冷静に、この強制起訴事件の入り口に立って、今の段階で言えることをうまく整理した記事だと言える。この事件が、裁判史上も非常に意義深い一件であることが浮かんでくる。

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