東電元トップらを強制起訴。「東電裁判」を新聞各紙はどう報じたか?

 

強制起訴制度の問題

【東京】は1面トップに大きな記事。さらに3面の解説記事「核心」も充てている。以下、まずは見出しを。

・巨大津波予測 最大の争点
・東電元トップら強制起訴
・福島事故 「検察役」最多5人
・過失立証 ハードル高く
・非公開資料 法廷提出も

1面記事で提出されている裁判上の論点について。まず主なものとして、他紙のところで書いた「大地震の予測と津波の試算」について書いている。試算結果に従って対策を取るはずだったのが武藤氏の提案で方針を転換したこと、勝俣会長は関与を否定していること、そして東電も、津波は想定された発生源とは比較にならないほどの広範囲で発生し、予測できない状況にあったとしている点。他に、「津波対策を取っていれば事故を防ぐことができたか」や「原発事業者の経営トップとしてより高度な注意義務を負うか否か」について双方の主張がぶつかるとみている。

3面記事では、冒頭、なぜ原発事故の刑事責任追及が困難なのかと問いを立て、「それは、刑法が原則、個人の責任追及を目的とし、福島第一原発事故のような自然災害に伴う大規模事故で個人の過失責任を問うには、そもそも限界があるからだ」と言い切っている。

また業務上過失致死傷に問うのであれば、有罪判決が出た薬害エイズ事件のケースや渋谷の温泉施設爆発事故の設計担当者のように、当事者に明らかな過失があったり、悪質性を示す証拠が見つかったりする必要があると、実質的な論点に踏み込んでいる。そして、だからこそ非公開の東電資料が新証拠として提出されることが期待されるということになる。「期待される新証拠」として《東京》が挙げるのは、「地震対応打ち合わせ」の際に被告3人に配布された資料と、津波が最大15.7メートルになるとの試算を元副社長に報告した際の説明資料などだ。

《東京》は、《読売》と同じく元検事の高井弁護士の話を載せていて、「組織の業務だった原発の事故の責任を東電ではなく、元役員個人に追わせようとするのは間違いだ」、「強制起訴の対象は、検察が起訴猶予にしたケースのみにするべきだ」と言わせている。

uttiiの眼

小沢一郎議員に対する強制起訴事件もあったからか、検察審査会による強制起訴決定に対して、《東京》は批判的ないし慎重な姿勢を取っているように見える。「核心」の後半には、「検察官による起訴のあり方をチェックする仕組みは必要だ」というそもそも論を展開している。現在の制度のあり方は完全ではないという含意だろう。高井弁護士の主張のように、起訴猶予のケースのみを強制起訴の対象とするか、明石市の歩道橋事故で指定弁護士を務めた安原弁護士の言うように「審査段階で当事者に陳述する権利を与えるべき」なのか。とくに結論は出していない

 

 

uttiiの電子版ウォッチ』2016/3/1号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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