ブラジル・ロシアなども悲鳴
ただ、サウジの増産の原油価格下落はアラブ産油国だけでなく、ロシア、メキシコ、ブラジルなど非OPEC産油国も苦しませた。このため、サウジ以外の国々は、サウジが減産に転換し市場をタイトにして原油価格が上昇するようにと、何度も働きかけた。
それでもサウジはなかなか妥協しなかったが、輸出の8割を原油に頼るサウジも1年半で8割以上の暴落となっては、経常収支が赤字に転落、財政収支の赤字幅も国内総生産(GDP)比で2割弱となって音をあげ始め7,000億ドルを超えていた外貨準備(中国、日本に次ぎ3位)も急速に減少してきてさすがに慌てだしたようだ。
そこへロシア、ベネズエラ、カタール、サウジの4ヵ国が2月16日に話し合い、他の「産油国も同意することを条件に原油の増産を凍結することで合意」し1月の水準まで減産することにしている。OPECの枠を越えて産油国が減産に合意したわけで、ついにサウジも背に腹をかえられなくなり妥協したと見られた。
今後のカギを握るイラン
ところが、他の大産油国、イランとイラクが減産に同調するかどうかで価格上昇の成否が決まるものの、イラクはイスラム国やクルド族との戦争で資金が欲しい状況だ。また、イランはアメリカなど西側の経済制裁が解除されたばかりなので、原油を売って40年近くにわたり疲弊していた経済を立て直すため、増産して西側諸国と次々新プロジェクトを結んでいる最中である。
しかも、サウジが年初めにサウジ国内のシーア派教徒をテロ容疑で処刑したため、シーア派のイランはイラン国内のサウジ大使館などを襲撃したばかりなのだ。いま両国は国交断絶という最悪の状態に至っている。サウジの産油量は日量1,000万バレルで世界一の輸出国。イランの産油量は日量300万バレルだが、西側との核合意で今後生産が拡大すればイランは中東ではイラク、アラブ首長国連邦と並ぶ大産油国となる。
今後の原油価格と世界経済は、これまでのサウジの減産問題よりも、制裁を解かれたイランが、原油を武器に国内のインフラ整備、経済力の強化などに走り出すテンポによって左右されてくるだろう。と同時にシーア派のイランが再び大産油国になり存在感を増してくれば、人口約8,000万人の大国イランが、中東の危機の行方を握ってこよう。
IS(イスラミックステート)の存在、イラン・サウジの断交、シリアの内戦、ロシアとトルコの対立、クルド族の独立の動きを──と、中東は石油価格の問題だけでなく、世界の最大のホットスポットとして火をふきかねず、依然、世界は目を離せない。とりわけイランの今後の動きには要注意だろう。
(TSR情報 2016年2月26日)
image by: Shutterstock
『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
<<登録はこちら>>