テレビ・雑誌などのメディアで活躍するマーケティング・コンサルタントの安部徹也さんによる、無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』。最新号は、危機的状況が続くマクドナルドの再建がテーマ。……あなたなら、どう立て直しますか?
未曾有の危機に瀕するマクドナルド
現在、マクドナルドは未曽有の危機に瀕しています。
昨年7月には中国の契約企業で期限切れの鶏肉が使用されている問題が発覚。
この問題に対して7月21日には、当該企業から仕入れた鶏肉を使用したメニューの販売休止を即座に決定しましたが、変色した鶏肉が混ぜ合わされる内部告発の生々しい映像が、インターネット上で拡散すると、食の安全に細心の注意を払う顧客の足が遠のいていきます。
結果、7月の既存店の売上高は前年同月比マイナス17.4%と大きな落ち込みを記録してしまいます。
さらに追い打ちをかけるような事件が、マクドナルドを襲います。
今年の1月には小さなビニール片やプラスチック片などの異物混入騒ぎが巻き起こって、ネット上で大騒ぎとなりました。
これをマスメディアがこぞって取り上げると、マクドナルドのイメージは大きく傷つき、さらに顧客に敬遠されるようになったのです。
これら異物混入事件は、ようやく消費期限切れ鶏肉の使用問題から立ち直りかけていたマクドナルドの業績に大きな影を落とします。
そして、1月の既存店売上高は前年同月比38.6%減と、未だかつてない落ち込みを記録し、マクドナルドは経営の危機に直面したのです。
これらの不祥事が重なり、2014年12月期の決算では、直営店とフランチャイズ店を合わせた全店売上高が11.5%減の4,463億円、日本マクドナルドホールディングスとしての最終利益は、218億円の赤字に転落することになります。
今年度、逆風はさらに厳しくなり、2015年12月期の業績予測では、全店売上高が14.4%減の3,820億円、最終利益で380億円の赤字と、悪化の一途を辿ることが見込まれています。
マクドナルドが掲げる再生プランとは?
マクドナルドはこのような危機的な状況に際して、4月16日に『ビジネスリカバリープラン』を発表します。
その骨子は以下の4つのポイントとなります。
1.よりお客様にフォーカスしたアクションを心掛ける
2.店舗改装を含めた店舗投資を加速させる
3.地域に特化したビジネスモデルを確立する
4.コストと資源効率を改善する
ここでは、再生プランのひとつひとつを細かくお伝えしていくことは省きますが、今後マクドナルドが復活を果たすためには、かなりの困難が待ち受けていることは、誰の目にも明らかといえるでしょう。
ここで、もしあなたがマクドナルドの経営者であれば、どのような戦略で危機的状況から脱出するでしょうか?
是非とも今一度、読み進めることをストップして考えてみて下さいね。
>>次ページ どうすればマクドナルドは危機から脱出することができるのか?
どうすればマクドナルドは危機から脱出することができるのか?
恐らくマクドナルドは、今後これまでの延長線上で事業を展開するなら、数年のうちに深刻な危機を迎えることは間違いないでしょう。
というのも、今期は最終利益で380億円の赤字を見込んでいますが、前期末の連結貸借対照表を分析すると、キャッシュはわずか286億円ほどしかありません。
今後も同じ規模で赤字が続くようであれば、現金の持ち出しが相次ぎ、キャッシュが底を付くことさえ考えられない話ではないのです。
この水準では、借入や増資、もしくは資産の売却などで資金を捻出しなければ、今年の末までにはキャッシュがショートする計算です。
私自身は、このような危機的状況から抜け出すために、マクドナルドにとって重要なことは、数年前の絶頂期を目指そうとしないことなのではないかと考えます。
つまり、過去の成功体験を捨て去り、環境変化に応じた経営を心掛けることが危機脱出の鍵を握るというわけです。
原田泳幸氏がマクドナルドの社長を務めていた時代は、デフレの波に乗り、無料のコーヒーキャンペーンや100円マックなど、低価格商品の品揃えを充実させ、ハンバーガー業界のみならず、牛丼業界やファミリーレストラン、コンビニなど異業種から顧客を奪う“全方位戦略”で、成功を収めてきました。
ところが、消費者を取り巻く環境は大きく変わり、安さだけでは顧客の心を引き留めることが難しくなり、デフレ時代にインパクトのあるキャンペーンの実施などで獲得した、多くの“にわか顧客”の心は離れてしまったのです。
このような心の離れてしまった顧客を、再び取り戻すことは難しいことを考えれば、かつて大きな成功を収めた全方位戦略で、規模をどんどん拡大していく方向を目指すのではなく、“にわか顧客”の取り込みを諦めて、どんなことがあっても離れなかったコアなファンだけを対象に、ビジネスを展開していくべきなのです。
マクドナルドの顧客離れは深刻ですが、それでもどんなにマクドナルドが非難されようとも、変わらず利用し続けるコアなファンが、たくさん存在するのも事実です。
今後は、規模は小さくなりますが、このようなファン客を中心にしたビジネスを展開すべきなのです。
ただ、もしマクドナルドが今後縮小均衡を目指すのであれば、損益分岐点売上高が高すぎるという問題に直面することになるでしょう。
日本マクドナルドホールディングスの連結決算では、2013年12月期の売上高が2,600億円で100億円の経常黒字、そして2014年12月期の売上高が2,200億円で80億円の経常赤字ということを踏まえれば、恐らく現状は2,400億円前後が損益分岐点売上高になるはずです。
今後も売上減少が見込まれるのであれば、この損益分岐点をドラスティックに引き下げていかなければならないというわけです。
>>次ページ 損益分岐点を劇的に引き下げるための鍵になる戦略とは?
損益分岐点を劇的に引き下げるための鍵になる戦略とは?
それでは、マクドナルドはどうすれば、損益分岐点売上高を引き下げることができるのでしょうか?
その重要な鍵を握るのが、『固定費の変動費化』といえるでしょう。
つまり、人件費や店舗の賃料など売上に関わらずかかっている経費を、売上に応じて変わる変動費に転換する必要があるというわけです。
そのために今マクドナルドが世界レベルで推し進めているのが、フランチャイズ店の促進です。
アメリカのマクドナルド本社では、業績不振に陥った再建策として、世界レベルでのフランチャイズ化を推し進め、現状の81%から、2018年末までに90%まで引き上げることを計画しています。
このフランチャイズ化により、マクドナルド本体の経費はドラスティックに引き下げられ、収益の大幅な改善が見込めるようになるのです。
日本マクドナルドに関していえば、2014年12月末現在では全3,164店舗中、フランチャイズは2,151店に留まり68%と、世界標準からは大きくかけ離れています。
今後は不採算の直営店を大幅に削減するなどして、米国本社が目指すフランチャイズ率90%へと、近づけていかなければならないでしょう。
また日本マクドナルドにおいては、フランチャイズの促進とともに、“ローカライズ”の強化が業績復活の鍵を握るといえるでしょう。
今や消費者は“十把一絡げ”では、捉えにくくなっています。
その意味では各店舗ごとに来店顧客の特徴は大きく変わり、それゆえ商品やサービスも顧客に合わせて提供する必要があるというわけです。
そこで、各店舗にある程度の経営の自由度を持たせることにより、フランチャイズオーナーが独自に考えて、顧客を満足させる施策を取ることが可能になってきます。
そうして、地域密着型でコアなファン顧客の来店頻度を高めていけば、無理にクーポンやキャンペーンを実施して、ファンでもない顧客を集める必要がなくなってくるのです。
このようにマクドナルドは、どんなことがあろうとも変わらず応援してくれるコアなファン顧客と、マクドナルドの掲げるビジョンに共感して、共に道を歩んでいこうと決意した熱意あるフランチャイズオーナーを強い味方にして、今一度ビジネスの基礎を固めて、着実に利益の上がる体質に改善していくことで、現在の真っ暗闇の状況の中に、一筋の光明を見い出すことができるのではないでしょうか。
※マクドナルドの『ビジネスリカバリープラン』や決算関係資料は、日本マクドナルドホールディングスのホームページでダウンロードいただけます。
image by: Wikipedia
『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』
テレビ東京『WBS』への出演など、マスメディアで活躍するMBAホルダー・安部徹也が、経営戦略やマーケティングなどビジネススクールで学ぶ最先端の理論を、わかり易く解説する無料のMBAメルマガ。
<<登録はこちら>>