プーチン、電撃のシリア撤退。ロシアはどんな「目標」を達成したのか?

 

ウクライナ和平まで

プーチンの速さは、シリアに限ったことではありません。2014年2月、ウクライナで革命が起こった。親ロシア派ヤヌコビッチ政権が倒れ、親欧米新政権が誕生します。親欧米新政権は、「クリミアからロシア黒海艦隊を追い出し、NATO軍を入れる」と宣言していた。戦略上の超重要拠点を失うことを恐れたプーチンは2014年3月、「クリミア併合」を断行します。

2014年4月、ロシア系住民の多いウクライナ東部ドネツク州、ルガンスク州などが、「独立宣言」。ウクライナ新政権はこれを認めず、内戦が勃発しました。世界中が「プーチンは、ウクライナ東部も併合する。その後ウクライナも併合し、バルト3国、東欧を全部併合する」と大騒ぎになりました。

しかし、RPEは、

  • 民族構成の違い
    クリミアは、ロシア系が6割。ドネツクは、ロシア系4割。
  • 歴史的経緯の違い
    クリミアは、1783~1954年、ロシアに属していた。しかし、独立を宣言した東部州は、ソ連時代常にウクライナに属していた。
  • 経済的理由
    独立を宣言している東部州を併合すると、ロシアの人口は一気に700万人増える。年金受給者も150万人増え、ロシアの財政負担が重くなる。経済的にメリットがないどころか、デメリットが大きすぎる。
  • 安全保障上の理由
    クリミアには「黒海艦隊」があるが、ウクライナ東部州には安全保障上の拠点がない。

というわけで、ロシアは、「東部を併合しないと予測していました。実際そうなっています

ウクライナで内戦が始まる 欧米vsロシア“代理戦争”の行方

さて、2014年4月にはじまったウクライナ内戦。ロシアは、「東部親ロシア派」を支援。欧米は、「親欧米ウクライナ新政権」を支援しました。しかし、2015年2月、ロシア、ドイツ、フランス、ウクライナで「停戦合意」が成立します。これも、シリアとほとんど同じパターンで停戦にいたっています。つまり、ロシアの支援で東部勢力が、ウクライナ軍を圧倒していた。

「このままでは負けてしまう! そうなれば、俺たちの支配は、たった1年で終わってしまう!」と、ウクライナ新政権と支援する欧米を恐怖させ、交渉テーブルに引きずり出した。結果、大騒ぎされたウクライナ内戦は、たった10か月で停戦に至ったのです。

こう見るとプーチン、ウクライナは10か月で、シリアは半年で「停戦」にこぎつけています。そして、目標を達成したら、さっさと引き上げる。

3連勝のダークサイドとトランプ

こう見ると、プーチンは2013年から、いくつかの「戦術的勝利」を重ねています。

  • 2013年9月、オバマを説得し、シリア戦争を回避した。
  • 2014年3月、クリミアを併合した。
  • 2015年2月、ウクライナ内戦停戦を実現した。
  • 2016年2月、シリア内戦停戦を実現した。

こうみると「連戦連勝」に見えます。しかし、「大戦略レベル」では大きな問題を抱えています。ロシア経済は現在、「経済制裁」「原油安」「ルーブル安でひどい状況になっている。「制裁」に関していえば、つまり、欧米日本との関係が良くない(アメリカとの関係は、2015年3月以降改善されていますが、「制裁解除」には至っていません)。

さらに、昨年11月トルコがロシア軍機を撃墜したことで、ロシア―トルコ関係が最悪になっている。これは、ロシアにとっても大きな打撃なのです(ロシアとトルコは、ガスパイプライン建設プロジェクトを計画していた)。

ロシア最大の味方は中国ですが、中国経済がボロボロになってきている。つまり「頼りにならない(事実上の)同盟国」になりつつある。

こう見ると、プーチンは「シリアでの勝利」を長く喜んでいられない状況なのでしょう。

明るい兆しはアメリカに見えます。共和党トップを独走するトランプは、「プーチンとの和解と協力の必要性を公言している。彼が大統領になれば、制裁は解除されるかもしれません。それで、ロシアメディアも、「トランプ支持」一色になっています。

image by: Evgeny Sribnyjj / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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