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米国に「正義」はあるのか? 日本人も振り回された大国の大いなるウソ

自他ともが「世界のリーダー」と認めるアメリカ。その大国は、正義の名の下に各地の紛争などの解決にこれまで積極的に動いてきました。しかし、その「正義」にウソがあったとしたら? 無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、アメリカはこれまで世界にいくつものウソをついてきたと断言しています。

情報戦争と巨大なウソ

慰安婦問題などで日本が抱えているフラストレーションは、「完全な証拠を提示しても日本側の主張をほとんどきいてもらえないこと」です。たとえば、

・アメリカ政府が7年かけて調査したが、強制連行のケースは一件もなかった。

マイケル・ヨン氏の記事
IWG報告書2007年

もちろん、日本政府がこの証拠を積極的に使っていないこともありますが…。この「事実真実をスルーされる状況」はなぜ起こるのでしょうか?

日本人は、「事実、真実だと理解してもらえれば、相手の態度は変わるはずだ」と信じています。これが通用するのは、「相手が事実、真実を求めている場合」に限られます。もし相手が「確信犯ウソをついていたら「事実、真実」を話しても、「スルー」されることでしょう。

実際、日本人は、「情報戦」についてナイーブすぎます。この世界では、「ウソと知りながらウソを拡散し、場合によっては戦争までしてしまうケース」があふれている。「中韓がウソをついている」といったら、「普遍的なケース」にあてはまらないでしょう。「いや、ウソをつくのは中韓だけですよ」と。

では、私たちが「正義の味方」と信じているアメリカはウソをつかないのでしょうか? いくつか「絶対的な証拠」がある、「衝撃的」と言っていいケースをあげておきましょう。

イラク戦争、開戦時のウソ

アメリカは03年、イラク戦争を開始しました。理由は、

  1. フセイン・イラクは大量兵器を保有している
  2. フセイン・イラクは、アルカイダを支援している

でした。この2つ、両方ともウソ」だったこと、皆さんご存知でしたか?

米上院報告書、イラク開戦前の機密情報を全面否定

 

[ワシントン=貞広貴志]米上院情報特別委員会は8日、イラク戦争の開戦前に米政府が持っていたフセイン政権の大量破壊兵器計画や、国際テロ組織アル・カーイダとの関係についての情報を検証した報告書を発表した。
(読売新聞2006年9月9日)

報告書は「フセイン政権が(アル・カーイダ指導者)ウサマ・ビンラーディンと関係を築こうとした証拠はない」と断定、大量破壊兵器計画についても、少なくとも一九九六年以降、存在しなかったと結論付けた。
(同前)

このウソで、イラクでは10万人以上の人が亡くなったといいます。

ロシア─グルジア戦争、先に攻めたのはどっち?

08年8月、ロシアーグルジア戦争が起こりました。グルジアは当時、親米傀儡のサアカシビリ大統領。03年のバラ革命で、政権についた人です。

この戦争、日本ではほぼ100%の人が、「大国ロシアが、哀れな小国グルジアを先に攻撃した」と信じているでしょう。しかしこれ、事実として先に攻めたのはグルジアだったのです。こちら、熟読してください。

グルジアの南オセチヤ進攻に対抗、ロシアも戦車部隊投入

 

【モスクワ=瀬口利一】タス通信などによると、グルジア軍が7日夜から8日にかけて、同国からの分離独立を求める南オセチヤ自治州の州都ツヒンバリに進攻し、同自治州で平和維持活動を行うロシア軍司令部や兵舎などを空爆、戦車による砲撃も行った。

 

ロイター通信などによると、これに対抗して、ロシア軍がトビリシ郊外のグルジア空軍基地を報復空爆し、戦車部隊など地上軍もツヒンバリに向かっている。
(読売新聞2008年8月8日)

グルジア軍がロシア軍を攻撃した。それで、「これに対抗して」ロシアが報復」したと、はっきり書いてあります。

03年のクーデター(バラ革命)で、サアカシビリ大統領(当時)に失脚させられたシェワルナゼ元大統領は、この戦争について何と言っているでしょうか?

─今回、グルジア紛争が起きた原因をどうみるか

 

「南オセチア自治州でロシアより先に一か八かの軍事行動を起こしたグルジアのサーカシビリ大統領の誤りだ。この紛争は起こすべきではなかった」

 

─その前にロシアの挑発行為はなかったのか

 

「南オセチア自治州やロシア側にグルジアに対する挑発行為はなかった。われわれのミスだ。グルジア側が南オセチア自治州に侵攻するという最初の間違いを犯した。
(産経新聞08年8月24日)

ところで、なぜコーカサスの小国グルジアは、大国ロシアを攻撃したのでしょうか? わかりません。しかし、常識的に考えれば、「アメリカがそそのかしたのではないか?」と思えますね。この戦争の結果、グルジアは、「南オセチア」「アプハジア」、2つの自治体を失いました。ロシアがこの2つを「国家承認」したからです。日本も、アメリカにそそのかされて中国と破滅的な戦争をしないよう、気をつける必要があります。

イラン、「核兵器開発問題」のウソ

アメリカは02年頃から、イランが「核兵器を開発している!」と非難しつづけてきました。それで、経済制裁も課していた。しかし、アメリカ政府は、「イランは核兵器を開発していない」と、何年も前に結論づけていたこと、ご存知でしたか?

〈イラン核〉米が機密報告の一部公表 「脅威」を下方修正

 

[ワシントン笠原敏彦]マコネル米国家情報長官は3日、イラン核開発に関する最新の機密報告書「国家情報評価」(NIE)の一部を公表し、イランが03年秋に核兵器開発計画を停止させたとの分析結果を明らかにした。
(毎日新聞2007年12月4日)

どうですか、これ? NIEは、「イランは2003年秋に核兵器開発計画を停止させた」と分析していた。アメリカだけではありません。世界の原子力、核エネルギーを管理、監視、監督する国際機関といえば、IAEA(国際原子力機関)。そこのトップ、日本人・天野之弥(あまのゆきや)氏は、09年12月就任直前になんと言っていたか?

イランが核開発目指している証拠ない=IAEA次期事務局長

 

[ウィーン 3日 ロイター] 国際原子力機関(IAEA)の天野之弥次期事務局長は3日、イランが核兵器開発能力の取得を目指していることを示す確固たる証拠はみられないとの見解を示した。ロイターに対して述べた。

 

天野氏は、イランが核兵器開発能力を持とうとしていると確信しているかとの問いに対し「IAEAの公的文書にはいかなる証拠もみられない」と答えた。
(ロイター2009年7月4日)

どうですか、これ? 09年半ば時点で、IAEAの次期トップが「イランは核兵器開発を目指していない」と断言しているのです。アメリカは、07年時点で「イランは核兵器開発していない」と発表していました。ところが、制裁が解除されたのは2016年です。

シリア、「化学兵器」を使ったのは誰だ?!

長くなってきたので、最後の例にしましょう。オバマは2013年8月、「アサド軍が化学兵器を使った」ことを理由に、「シリアを攻撃する!」と宣言しました。

「アサド軍が化学兵器を使った」

日本ではほぼ100%の人が信じているでしょう? では、国連は「誰が化学兵器を使ったか?」について、どんな報告をしていたのでしょうか? 一字一字、熟読してください。

シリア反体制派がサリン使用か、国連調査官

AFP=時事5月5日(月)配信

 

[AFP=時事]シリア問題に関する国連(UN)調査委員会のカーラ・デルポンテ調査官は5日夜、シリアの反体制派が致死性の神経ガス「サリン」を使った可能性があると述べた。

 

スイスのラジオ番組のインタビューでデルポンテ氏は、「われわれが収集した証言によると、反体制派が化学兵器を、サリンガスを使用した」とし、「新たな目撃証言を通じて調査をさらに掘り下げ、検証し、確証をえる必要があるが、これまでに確立されたところによれば、サリンガスを使っているのは反体制派だ」と述べた。

どうですか、これ? 国連が調査した結果化学兵器を使っていたのは、「アサド派」ではなく、「反アサド派だ!」と。

そろそろうんざりしてきましたね。私は何がいいたいのか? これらの例でもわかるように、

「情報戦では、『ウソをつくのが日常茶飯事

だから、日本が、「真実であることを証明できれば、すべてうまくいく」と信じているのは、「あまい!」ということ。

フセインは、「イラクには大量破壊兵器はない!」と真実を語っていました。しかし、彼は処刑された。イランは、「核兵器開発などしていない!」と真実を語っていました。しかし、アメリカはそれを知りながらイランを非難し続けたアサドは、「化学兵器を使ったのは反体制派だ!」といっていました。しかし、いまだに欧米は、「アサドを追放せよ!」と主張しています。

こんな世界で、「真実であることを証明できれば、すべてうまくいく」というのは、ナイーブすぎるのです(もちろん、真実、事実を拡散しつづけるのは、とても大事です。ここでは、「それだけでは不十分」という話をしています)。

image by: Everett Collection / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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