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消える魔球は何球までだった?38年前の「野球盤」を遊び倒す

あの頃、俺たちを熱くした「昭和のオモチャ」をオトナ買い(落札)して振り返るシリーズ連載。今回は「消える魔球」でおなじみ、あの対戦型野球盤です。僕らの友情を育て、そしてぶち壊していった昭和の名機。オトナになった今遊ぶと、果たしてどんな思い出が蘇るのか? そこには、遊び倒した者だけがわかる、友情と情熱、そして熱いドラマが詰まっていた。

消える魔球は何投まで? 友情を作り、友情を壊した俺たちの「野球盤」

日本各地で「俺ルール」が制定されたのではないでしょうか。そんなオモチャの話です。

兄弟や友達とは遊びの中で友情を育て、人間関係を広げていきます。現代では携帯型ゲーム機で協力プレイや対戦プレイをしたり、キャラクターを交換したりといった遊びとなりましたが、昔は……というと? ふと自分が育ってきた過程を思い返してみたのですが、遊びの内容こそ違えど、やはり協力して力を合わせたり、対戦で競い合ったりしていたような気がします。

今回の昭和オモチャは「野球盤」

僕らの友情を育て、そしてぶち壊していった対戦型野球ゲームです。野球盤の歴史は古く、同様のボードゲームは戦前まで遡りますが、最もメジャーなのはエポック社の「野球盤」

初代は1958年(昭和33年)に発売。当時は木製で、プレーヤーはこけし人形。盤面は家具職人が作成するといった木工技術の詰まったオモチャでした。

出典「エポック社の野球盤 歴史資料館」

その後「野球盤A-2型」、「野球盤D型」などリニューアル品が登場。1960年台になると鉄腕アトムとコラボした「アトム野球盤F型」、巨人の星とコラボした「巨人の星野球盤C型」など、キャラクター野球盤も登場します。

出典「エポック社の野球盤 歴史資料館」

出典「エポック社の野球盤 歴史資料館」

そして1972年についにあの機能が搭載されます。話題作であり、問題作。「オールスター野球盤BM型 魔球装置付き」が発売されるのです。

出典「エポック社の野球盤 歴史資料館」

現代まで続く野球盤の歴史で、初めて「消える魔球」を搭載しました。この魔球に関しては、勝負に大きな変化をもたらしましたが、同時に争いも生み出したのではないでしょうか。

「ふざけるな」
「1イニング◯回までと言ったじゃないか!」
「昨日使っていなかった貯金を使った」

スタジアムの外で繰り広げられる「リアル場外乱闘」。なんという低レベルな戦い、なんという無常観。しかし、当事者にとっては真剣です。プロ野球は当時、子どもたちの憧れのスポーツであり、勉強ができるよりも野球が上手いことがヒーローの証です。テーブルの上での野球盤でも、全力で勝ちを取りに行かねばならぬ戦いだったのです。

今回入手した野球盤は1978年に発売された「ジャイアンツ野球盤BM型」。エポック社はかつてよりジャイアンツを贔屓にしており、巨人軍コラボの野球盤も幾つか登場していますが、これもそのひとつ。ちょうどいまアラフォーの世代が遊んだ野球盤ではないでしょうか。

野球盤を組み立てる

当時の子どもたちの遊び方を想像すると、かならずプレーヤーフュギュアの2~3体は欠品していて、ボールも無しといったものも多いなか、こちらはほぼ展示品として扱われていたため、付属品がすべて揃っており、程度の良い保存状態。貴重です。

子供はパーツを無くすだろう。といったことも想定済みで、本品には部品申込みカードが付属していました。プレーヤーフィギュアやボールなど、無くなってしまったものを個別に注文できるのです。もちろん、現在では生産終了しているため利用できませんが、こういった心配りは当時からあったのですね。




保存状態は本当に良く、球場自体も付属パーツも新品同様。38年前からタイムスリップしてきたかのようにも思えました。

組みあがりました。1978年の巨人の面々が蘇ってくるようです。当時は第一次長嶋監督時代。1977年に王貞治がハンク・アーロンを抜く756本の本塁打世界記録を樹立、チーム自体も2年連続のリーグ優勝を果たすなど、輝かしい時代が蘇ってきます。

ピッチャーは堀内恒夫。現在は参議院議員として活動しています。

ファースト、王貞治。偉大なるホームラン王。



土井正三、高田繁、河埜和正、張本勲、柴田勲、柳田真宏。そうそうたる面々。キャッチャーのフィギュアがありませんが、当時のキャッチャーは山倉和博です。

思い出と共に野球盤を修理する

程度の良い完動品と思えたこの野球盤ですが、いざプレイしようとしたら不具合が……。

ピッチャー側の操作パネルの動きがぎこちなく、スタジアムを持ち上げたところ操作パネルを抑えているプラ板が外れてしまいました。症状を確認したところ、パネルを止めているネジが1本しかなく、しかもそのネジもネジ穴がヘタレてしまっており、パネルが固定できないようです。

前オーナーが無理やり固定しようとした痕跡でしょうか。操作パネルにネジが貫通した跡もあります。程度が良いと思っていただけに残念ですが、このくらいであればすぐに修理できます。

野球盤のしくみは簡単です。3本のレバーは左から変化球投球消える魔球を操作しています。

変化球はスタジアム下に仕込まれた磁石を操作し、ストレート、左右への変化球を選べます。投球レバーは引っ張って離すとパチンコ球を投げ出せるしくみです。引いてみたところこちらもスカスカだったので、調整が必要なようです。そして3つめの消える魔球レバーはバッターボックス手前の開閉を操作しています。

なぜか手元にちょうど大きさの合うネジが余っていたので、そちらで対処しました。左側のネジはねじ山がヘタれていますが、一応固定はできるようです。

また大問題が発覚します。投球レバーのスプリングを掛けるはずのピンが折れていたのです。

これでは投球ができないので、補修していきます。プラスチックの補修はプラリペアなど、プラスチック専用の補修材を使った方がしっかりと補修できますが、今回はパーツも小さいため、瞬間接着剤を利用して固定しなおします。

補修後、スプリングを掛けて動作をチェック。しっかりと接着でき、遊ぶ分には問題無いようです。

投球・変化球もちゃんと操作できます。若干曲がりすぎで、完全にデッドボールになっていますが、当時の野球盤にはデッドボールの概念は無かった気がしました。

38年ぶりのプレイボール!


今日も満員の後楽園球場。1回表、守備につくのは読売ジャイアンツ(俺)、対するヤクルトスワローズ1番打者はヒルトン(俺)。数十年ぶりにこのスタジアムで野球が始まります!

しかし、最後の最後で重大なミスに気が付きました。

野球盤は2人、もしくは3人で遊ぶゲームです。自分で投球し、それを自分が打ち返すといったこともできなくないのですが、そこに面白みも盛り上がりもなく、対戦相手との友情ではなく自分の中で憂鬱を募らせるだけのゲームでしかありません。

なぜ記念すべき第一回に、一緒に遊んでくれる友達が必要なオモチャを選んでしまったのだろうか。今となっては後の祭りですが、あまりにも煮え切らない結果となりました……。

もしよければ誰か、僕とこの野球盤で友情を育みませんか? 

その際は消える魔球は1イニング1投まで。振らなかった場合はボーク扱いでお願いします。え? ボール扱いじゃないのかって? 残念、「俺ルール」ではこうなんだよなぁ。

2016年、現代の野球盤は?

野球盤は現在進行形で新モデルが登場し続けているロングラン商品です。

最新モデルは「野球盤3Dエース」。消える魔球システムは当然継承、さらには投球や打球が本当に飛ぶというギミックが付いており、変化球もストレート、外角内角、チェンジアップ、スライダー、シュート、カーブ、シンカーなど全9種類。掲示板は電光掲示板となり、実況アナウンスまであるという、ハイテクアナログゲームとなっています。

文/小暮ひさのり

ガジェット類が大好物。雑誌やWebで執筆しているテクニカルライター。群馬県在住で農業が趣味であるため「兼業ライター」と揶揄されることもあるが、本人的には農業1割、執筆9割。

source: エポック社 

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