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シャープも買い叩かれた。なぜ日本企業のM&Aは失敗ばかりなのか?

大手家電メーカーのシャープが台湾の電子機器生産大手の鴻海に買収されたことで再び脚光を浴びている「M&A(合併と買収)」。近年、日本でもこのM&Aが相次いでいますが、無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』によれば、「日本企業は買うのも買われるのも慣れていないので失敗が多い」とのこと。それでは今後、M&Aを上手く乗り切るためにはどのような対策を取ればいいのでしょうか。

シャープ買収の行方。日本企業とM&A

最近、シャープの買収が大きな話題に。結局は鴻海(ホンハイ)に買収され、手玉に取られたという印象が強い。そこで今日はM&Aの話をしたい。

過去最高のM&Aブーム

今世界はM&Aブームであり、去年の世界全体の買収総額は4兆6,200億ドル(570兆円)。買収で動いた金額としては「過去最高」。日本企業による昨年の海外企業のM&Aの買収総額は11兆2,585億円。海外と比較すると規模は小さいが、件数、金額とも過去最高である。

日本企業による海外企業の買収は、2014年頃から活況となっている。2014年の買収金額上位3社は以下の通り。

1位 サントリー:158億ドル  アメリカのバーボン最大手「ビーム社」

2位 第一生命:55億ドル アメリカの保険大手(米プロテクティブ生命)

3位 大塚ホールディングス:35億3900万ドル アルツハイマーの薬などにも強いアメリカの製薬会社(米製薬ベンチャーのアバニアファーマシューティカルズ)

買収金額は年々増加だが

2015年になると買収金額は更に増加。

1位 東京海上日動:9,250億円 アメリカの保険会社を買収(HCCインシュアランス・ホールディングス)

2位 日本郵政:7,145億円 オーストラリアの国際物流を買収(トールホールディング)

3位 三井住友海上:6,317億円 イギリスの損保会(アムリン)社を買収

上記の数字のみをみると非常に良いように感じるが、買収をすると人件費も増加する。例えば5年前の従業員数を対比すると住友電工では7万3,000人、ソフトバンクでは5万人増加しており、ソフトバンクの増加率は234%となっている(2015年2月に東洋経済発表した「従業員を増やした」トップ500社ランキングより)。買収すると出て行くお金も多くなる可能性もあり、一概に全て良いということではないという問題もある。

現代とは異なるバブル期のM&A事情

日本企業が海外企業を買収・合併するのは、少子高齢化による国内市場の縮小に伴う市場を求めた拡大ということが言える。海外に進出し、一から工場を作るのはなかなか大変であるから既存の会社を買収するほうが早い。大型買収で目立つのは食品、保険、薬品、サービスといった内需型の企業が多い。これらの業種の企業が海外進出している傾向である。また、現在、低金利でおカネも余っている事にも起因している。カネ余りで海外企業を買うということから、バブル期のビル買収などを思い出した。

懐かしの人気番組にも世相が

1980年代後半から1990年代初頭がバブル時代。同時期に『世界まるごとHOWマッチ』という「このお城や企業をいくらで買うか」という質問に回答者が答えるクイズ番組が人気を博していた。あの当時、NYのロックフェラーセンターを三菱地所が買収したり、アメリカのコロンビア映画をソニーが買収するなど、さまざまな日本企業が海外の企業を買収した。しかし、その多くは売却されている。あの当時日本はバブルで資金が余っておりドンドン買収していたが、あまりよく調べずに買収していたことなどから失敗も多かった。

今起っているM&Aの潮流と当時とは違い、先ほど述べたように少子高齢化で内需が縮小してきたことに起因して外に出ていかざるをえない状況となっている。そういう意味からいうと、追い込まれた買収という側面もあると思う。その一方で量的緩和による低金利でカネがだぶついているということが起因しているということもあるが、必ずしも成功するかということはわからない。

東京を売ると、アメリカが買える

経済記者として企業も数多く取材してきたが、バブルから現在までの印象的な買収劇として失敗例の方が非常に話題になっていたので印象に残っている。いくつか紹介すると古河電気工業が2001年、2,800億円でアメリカの光ファイバー企業(ルーセントテクノロジー)を買収し、光ファイバー市場で世界2位のシェアとなった。しかし、買収直後から売上が激減し最終的に当初の5分の1の売上になった。結局相手の厳しい状況であることを買収前に見抜くことができなかったのである。

その後、天野望・古河電気工業取締役執行役員(当時/現取締役 兼 執行役員常務)は当時の事を振り返り、以下のように答えている。

バブルの最中に「これはバブルだ」と気づくのは難しい。買収した後になって、しみじみとわかりました。

 

資産査定のために渡米した際も、ルーセントの最高財務責任者(CFO)は約束の時間に遅れてやって来た。たしか休日でした。「海水浴に行っていたんだ」なんて、余裕の表情を浮かべていたのが印象的だった。
(2011年12月11日/日経新聞掲載抜粋)

古川電工は2期連続で特別損失を出し、高い勉強代を払ったが2006年にはこのセグメントを黒字化した。

また、NTTコミュニケーションズは2000年に、6,000億円でアメリカのネット会社「ベリオ」を買収したが、瞬く間に8,000億円の巨額損失を出した。当時は大変だったが、その後購入したネットの基幹網が活きてきたので損はしていないといえる。

さらに例を挙げると、コスモワールド(インターナショナルイーシー/2014年倒産)が米「ペブルビーチ」を買収。この会社は土地売買で事業を拡大し大きくなった会社だったが、結局維持できなくなり売却した。この当時、不動産業が圧倒的に儲けていた時代。「東京を売ると、アメリカが買える」と揶揄されるほど不動産業の儲けがあった。

民族の違いに象徴

結局失敗した例がかなり多いのだが、これは何かというとやはり日本人はM&Aに慣れていないといえる。日本人は農耕民族で、コツコツ真面目に稼いで大きくしていくというのが得意技である。それに対してアメリカは狩猟民族。長続きさせるというより、うんと良くなった段階で高値で会社を売り、また次の会社を買うということに慣れている。日本はそういったことに慣れていないのにいきなりM&A時代に入ってしまい、日本もM&Aをしないと伸びしろがないと会社や事業を買い始めたが、結局日本企業は失敗が多かった。これからどうするのかということがカギ。

これからはもっと良く調べてM&Aをやるということが第一。基本中の基本である。おカネがある、周りの評判が良いからといって飛びつくのではなく、技術、人材、企業がきちんとしているのかどうかという事を丁寧に調べる必要がある。

相手に翻弄されない買収交渉に

今回のシャープのように海外企業が日本の企業は良いということで買いに来るケースは今後も起るだろう。その際、日本企業はあっという間に売ることもあるだろうが、日本は買われることに慣れていない

今回、シャープは翻弄され、安く買われ、社長も追い出された。これから日本もM&Aは何かということを研究していく必要がある。日本は農工民族のままではなく、そこから脱却しなくてはならず、厳しい時代になってきたといえる。

※なお、本文中に登場した「世界まるごとHOWマッチ」最終回の動画をブログに掲載しております。ご興味のある方は以下リンクを参照ください。

時代を読む

(TBSラジオ「日本全国8時です」4月5日音源の要約です)

image by: 360b / Shutterstock.com

 

ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
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