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現実味を帯びてきた、日本が米中「代理戦争」に利用される日

過去にグルジアやウクライナをけしかけ、事実上の「代理戦争」を仕掛けたとされるアメリカ。「日本もいつか同じように利用されるのでは…」と思ってしまうのも無理はありません。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者の北野幸伯さんが、そんな不安を抱く読者からの質問にシャープに答えています。

アメリカは、日本を北朝鮮、中国征伐に利用するか?

読者のMさまから、興味深いメールをいただきました。

北野幸伯 様

 

初めてメールをしたためております。いつもRPEジャーナルを深い興味とともに感嘆をもって拝読させて頂いています。

 

私は全くの素人で政治にも疎く、メルマガなどで読む程度の知識しかありませんが、今日いつものように拝読していてさらにいつも以上の危惧を感じてしまい、不安にも駆られて宜しければ聞いて頂けるだけでもと、こうしてキーを叩いております。

 

いきなりですが、トランプ氏の3つの発言について、あれはこの先、日本と中国もしくは北朝鮮とを(代理)戦争を実際にさせることを目指しているのではないんでしょうか。

 

相手が北朝鮮となったとしても、当然中国もそのバックに着きますし、そうやって中国の国力を弱まらせる、あるいは世界他国から非難させるなどに向かわせるため、日本が彼らと戦争しやすく、しかもそうなってももう、アメリカが直接関わらなくて済む体制を整えてアメリカが何のダメージもなく中国を弱体化させるシナリオとなっているような気がします。

 

(中略)

 

どうでしょう。アメリカがそうと決めて、この先その方に進ませれば、日本なんてあっという間に手のひらで転がされて、リアルの戦争にまっしぐら、なんてなりそうな気がします。
(以下略)

全文は、「おたよりコーナー」で掲載させていただきます。Mさんが7年間アメリカに住んで感じたことなどが書かれていて興味深いです。是非ご一読ください。

さて、

日本と中国もしくは北朝鮮とを(代理)戦争を実際にさせることを目指しているのではないんでしょうか。

アメリカが直接関わらなくて済む体制を整えてアメリカが何のダメージもなく中国を弱体化させるシナリオ

とのことです。つまり、「アメリカは直接戦わず日本を中国北朝鮮にぶつける」というのです。これ、「善悪論」は抜きにして、「大いにありえる」と言えるでしょう。アメリカが悪い国だからではありません。「そういうもの」なのです。

「バランシング」と「バックパッシング」とは?

ここにA国がいます。B国が経済力と軍事力を増し、大いなる脅威になってきました。A国は、「B国を叩こう」と決意していますが、この時大きく2つの方法があります。

1つは、「バランシング」(直接均衡)と呼ばれる方法。これは、A国が主導権を持ってB国を叩くのです。国内では軍事力を増強し、国際社会では「反B国同盟」「B国包囲網」形成を主導します。

もう1つは、「バックパッシング」(責任転嫁)と呼ばれる方法。これは、自分で戦いを主導せず、「他の国とB国を戦わせる」のです。たとえば、A国がB国をつぶすために、C国やD国を使ってB国を叩かせる。

Mさんが心配されている、「アメリカは、日本を中国や北朝鮮と戦わせるのではないか?」というのは、「アメリカは日本をバックパッシングするのではないか?」と言い換えることができます。

ところで、大国は、自分が中心になって戦う「バランシング」と、他国に戦わせる「バックパッシング」、どちらを好むのでしょうか?これ、他国に戦わせるバックパッシングを好むのです。世界でもっとも尊敬されているリアリストの権威ミアシャイマー・シカゴ大学教授は、なんと言っているか?

事実、大国はバランシングよりも、バック・パッシングの方を好む。なぜなら責任転嫁の方が、一般的に国防を「安上り」にできるからだ。
(大国政治の悲劇 p229)

どうですか、これ?

「日本はもっと金をだせ!」
「韓国はもっと金をだせ!」
「NATOはもっと金をだせ!」

と叫んでいるトランプさん好みのセオリーではありませんか? 「大国は、バックパッシングの方が好き。なぜなら、そっちの方が『安い』から」(!)だと。

これを、アメリカ、中国とアジア諸国の関係に当てはめてみましょう。「アメリカは、直接中国や北朝鮮と対峙する(バランシング)より、日本、韓国をぶつける(バックパッシングの方を好む。なぜなら、そっちの方が『安上り』だからだ」となるでしょう。つまり、Mさんの懸念は、「常識的にありえる」のです。

繰り返しますが、これは「アメリカが悪い国だから」ではありません。「どこの国もやっていること」なのです。

アメリカに利用された国1~グルジア

最近の例を2つ挙げておきましょう。皆さん、もう忘れていると思いますが、08年8月、ロシアとグルジア(ジョージア)の戦争がありました。これ、プロパガンダで、「ロシアが小国グルジアを攻めた!」と思っているでしょう? 実を言うと、グルジアがロシア軍を先に攻撃したのです。証拠をお見せしましょう。熟読してください。

グルジアの南オセチヤ進攻に対抗、ロシアも戦車部隊投入

 

【モスクワ=瀬口利一】タス通信などによると、グルジア軍が7日夜から8日にかけて、同国からの分離独立を求める南オセチヤ自治州の州都ツヒンバリに進攻し、同自治州で平和維持活動を行うロシア軍司令部や兵舎などを空爆、戦車による砲撃も行った。

 

ロイター通信などによると、これに対抗して、ロシア軍がトビリシ郊外のグルジア空軍基地を報復空爆し、戦車部隊など地上軍もツヒンバリに向かっている。
(読売新聞2008年8月8日)

グルジア軍が、ロシア軍を攻撃した。それで、「これに対抗して」ロシアが「報復」したと、はっきり書いてあります。なぜ小国グルジアは、核大国ロシア軍を攻撃したのでしょうか?

当時、グルジアの大統領は親米のサアカシビリさんでした。03年の「バラ革命」で政権についた人で、「アメリカの傀儡だった」といわれています。つまり、「アメリカにそそのかされて」あるいは、「アメリカに命令されて」「ロシア軍を攻撃したのではないか?」と常識的に想像できます。でなければ、「なぜ無謀な戦いを挑んだのか?」説明できません。

いずれにしても、この戦争でグルジアは、「南オセチア」と「アプハジア」を失いました。この2つの自治体は、事実上「独立」してしまった。まったくグルジアにとって、「破滅的な戦争」でした。

アメリカに利用された国2~ウクライナ

もうひとつの例は、ウクライナです。皆さんご存知のように、2014年2月、ウクライナではクーデターが起こりました。親ロシアのヤヌコビッチ大統領はロシアに亡命し、親欧米新政権が誕生したのです。この新政権は、クリミアからロシア黒海艦隊を追い出し、かわりにロシアの宿敵NATO軍を入れると宣言していた。

プーチンは、2014年3月、「クリミア併合」を断行。つづいて、ロシア系住民が比較的多いウクライナ東部ドネツク州、ルガンスク州は、「独立宣言」した。

親欧米ウクライナ新政府は、軍隊を東部に送り、内戦が勃発しました。結局、親欧米新政府軍vs東部親ロシア派の「米ロ代理戦争」と化してしまった。ルガンスク、ドネツクは現在、「事実上の独立状態」にあります。そしてウクライナ国は、「国家破産状態」にある。大国に利用された小国の運命は悲惨です。

日本が気をつけるべきこと

というわけで、「バックパッシング」は「日常茶飯事」で行われています。ですから日本は、「めちゃくちゃ用心深く進む」必要があります。具体的に、どんなことに気をつけるべきなのでしょうか?

まず、私たちが目指すのは、「アメリカを中心とする対中バランシング同盟を結成強化すること」。この目標を忘れて、「日本を中心とする対中バランシング同盟」を結成しようとすれば、日中戦争になり、アメリカは、「梯子をはずす」かもしれません。

そして、注意点がいくつかあります。

1.米中を天秤にかけるような、「二股外交」は控えること

安倍総理は2015年4月、「希望の同盟演説」で日米関係を劇的に改善させました。ところが翌月、中国に3,000人の訪中団を送り、日中関係改善にも動いた。この時、米中関係は「南シナ海埋め立て問題」でかなり緊張していたにも関わらずです。

この「不誠実」な動き。世界的常識では、「日本はアメリカと中国を戦わせるつもりだ!」と見られます。つまり、「日本はアメリカを対中国で利用しているだけだ!」と。

日本は、韓国の「二股外交」を批判します。しかし、「自分たちも同じことをしている」現実もしっかり認識した方がいい。日本政府は、アメリカ、中国との関係において、「いつもアメリカの味方であると思われる言動を続ける必要があります。

2.日本は、中国を過度に非難したり挑発してはいけない

これは「バックパッシング」を避けるためです。では、中国との関係は、どう距離を取るべきなのでしょうか?

日本は戦略的に、「アメリカのオウム」になるべきです。アメリカが「南シナ海の埋め立ては国際社会の脅威だ!」といえば、「そうだ!そうだ!脅威だ!」という。アメリカ以上の激しさで中国を批判するべきではありません

これ、なんとも「なさけない」話ですが、「いつもアメリカに主導権を握らせること」が大事なのです。日本が中国バッシングの主人公になると、「梯子をはずされる」可能性が出てきます。

3.アメリカの許可を得て、「自主防衛能力」を高める

ところで、アメリカの行動を見て、「なんと狡猾な!」と思いましたか? 実をいうと、アメリカ側も日本について、「狡猾な!」と考えていること、知っておく必要があります。

世界3大戦略家ルトワックさんの『中国4.0』に面白い記述があります。

過去6年間の日本の政策の主軸は、「チャイナ2.0」への対抗にあった。「チャイナ2.0」は日本にとって大きな挑戦であった。

 

これが、日本の領土の保全に対する挑戦でありながら、日本は国家安全保障面でアメリカから独立していないからだ。

 

だからこそ、中国からのあらゆる圧力は、アメリカ側にそのまま受け渡される形となった。いわば、アメリカへの「バックパッシング」、つまり「責任転嫁」である。
(p148)

ここでルトワックさんは、「日本はアメリカをバックパッシングしている!」と指摘しています。言われてみれば、確かにそのとおりですね。もちろん日本としては、「そういう状態にしたのは、あんた(アメリカ)だろう!」と主張できます。

しかし、戦後70年が経って、アメリカも弱ってきた。アメリカは、「日本も自国の防衛にもっと責任を持て!」と態度を変えてきている。ですから、感謝して「自主防衛能力」を高めていったらいいのです。

以上、注意点を挙げました。日本は、中国から尖閣、沖縄を侵略されないように、アメリカからバックパッシングされ中国と戦争にならないように、きわめて用心深く、慎重に進んでいく必要があるのです。

image by: 首相官邸

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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