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島ごとアートで人気の「直島」が、世界の富裕層をしらけさせるワケ

ホテルとミュージアムを併せ持つベネッセハウスを擁し、年間35万人もの観光客が訪れるまでになった瀬戸内海に浮かぶ直島。一見成功したように見えるこの島ですが、高城剛さんはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」』の中で、「よろしくない観光地」の代表例と手厳しい指摘をしています。

よろしくない観光地、直島

今週は、瀬戸内海の直島にいます。

近年、アートの島として世界的な評価をうけている直島を、僕は事あるごとに「よろしくない観光地」の代表例として名をあげています。

一般的にビジネスシーンにおいて、成功例は頻繁に取りあげられますが、観光地も例外ではなく、成功例は数多くあっても、失敗例が取り上げられて検証されるようなことは滅多にありません。

しかし、問題を冷静に検証しなければ、別のプロジェクトでも同じことが起きてしまいます。

ですので、一見良いと言われていても実は大きな問題がある(もしくはこれから起きる)ことを早めに見抜くことができなければ、今日の日本の家電業界のように、気がつくと手遅れになってしまいます。

そこで、各所で観光関連のお話をする際に、僕は必ず直島の名前をあげています。それは過去3回ほど来島したことがあるのですが、そのうち2回は同行者が大激怒するまでに至った「問題ある場所」だからです。

かつては、公害で有名な三菱マテリアルの精錬所だけしかなかった瀬戸内海の小さな島がターニングポイントを迎えたのは、80年代後半に近隣の岡山に本社を構える福武書店(現ベネッセ)のオーナーが、「人と文化を育てる場所として創生」することを目的に、大開発を行ったことからはじまりました。

90年代前半には、ホテルミュージアムを持つベネッセハウスを開業し少しづつ拡張し、そして2005年にオープンした地中美術館がヒットし、それまで年間5万人程度だった観光客数は、現在35万人近くまで膨れ上がることになりました(瀬戸内芸術祭の年は100万人を超えています)。

では一体、一見成功したように見える「アートの島」は、なぜ人を怒らせる島なのでしょうか?

まず、日本の観光業において、しっかりケア、もしくはビジネス的に捕まえなくてはいけないのは、外国人観光客富裕層、そしてハンディキャッパーです。

国内の一般観光客は、大河ドラマなどに代表されるプロモーション強化で一時的に繁栄させることはできるのですが、わざわざその場所を選んで、金銭的にも身体的にも時間的にも高いハードルを越えてくる「本物の観光客」をどのように捕まえているのかで、その観光地の行く末が推察できるのです。

なぜなら彼らの動向と対応こそがその地の懐の深さ(可能性)を図るもので、結果、流行に左右されない本物の観光地になれる成否を握っているからです。

直島は本州と結ばれていない島ですので、船で島に渡る必要があります。岡山から行く場合は宇野までいき、そこから港に向かって船で直島に渡るのですが、この間に英語の案内はほとんどありません。

今週、途中の乗り換え駅で「紙」に手書きした急ごしらえのポスターを見ましたので、少しづつよくはなっているのかもしれませんが、港は相変わらずで、チケットを買うのも大変です。

島唯一の大型ホテルであるベネッセハウスの観光客50%以上は海外からのゲストで、今年の4月には90%が海外ゲストだったのにもかかわらず、ほとんど英語のサインボードがないのは、異国情緒の混乱を体験する「アート」だと理解するとしても、富裕層とハンディキャッパーへの対応の悪さは、世界有数だと言わざるを得ません。

年間100万人を超える悪名名高いギリシャのサントリーニ島のタクシーは39台しか走っていませんが、年間35万人に近い観光客を抱える直島のタクシーは、驚くべきことに1台しかないのです。しかも、貸切になってしまうことが頻繁で、世界的な富裕層(時には国賓待遇)が来島しても、公共バスで島を回るしかありません。

また、もしベネッセハウスにお昼につき、ランチを食べようとしても、館内に食事の提供はなく、ルームサービスもありません。街に出ようとしてもタクシーはなく、運が悪くバスが行ったばかりであれば1時間以上次のバスを待つ必要があり、ランチの時間内にはたどり着けません。

僕がかつて同行したことがある方は、「いくらでも払うから食事を出せ!」と早々に怒り出した挙句、夕食は1万円を超えるフレンチのフルコース以外の選択はなく、時差ぼけによる体調不良で軽く食べたいと思っても他に選択肢がないのです。

そして、世界に誇る建築と美術館で、これほど酷いハンディキャッパーへの対応の場所を、僕は知りません。

直島のひとつひとつのプロジェクトやアートそのものは素晴らしいのですが(特にモネ関連とタレル全般)、結果的に大切なゲストを憤慨させる世界的にも珍しい場所だと思います。

近年、DJIのファントムやアップルのiPhoneの内部部品のほとんどが良質な日本製であるのにもかかわらず、トータルで良い製品を作ることができない日本企業の問題と直島は、とてもよく似ていると感じます。

今回の来島で3度めですが、年々良くなっている点と、さらに悪くなっている点があるのは、いまだに誰も俯瞰的に見る人がいないことの証です。ですので、僕は日本の観光業の方にお会いするたびに、まるでリトマス試験紙のように直島の評価を尋ねることにしているのです。

きっとこの島では、今後大きな問題が起きるでしょう。それは、「教育」をビジネスにしているベネッセという企業そのものの問題、そして日本の教育システムそのものの問題なのかもしれません。

『高城未来研究所「Future Report」』より一部抜粋

著者/高城剛(作家/クリエイティブ・ディレクター)
1964年生まれ。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。毎週2通に渡るメルマガは、注目ガジェットや海外移住のヒント、マクロビの始め方や読者の質問に懇切丁寧に答えるQ&Aコーナーなど「今知りたいこと」を網羅する。
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