最近発表された、日産と三菱の「電撃」提携は日本中で大きな話題となりました。国内の報道ではその先行きを不安視する声も少なくありませんが、NY在住でメルマガ「ニューヨークの遊び方」の著者・りばてぃさんによると、米国をはじめ海外のメディアは今回の提携をポジティブに捉えており、「うまく行くに決まってる」と見ているようです。果たしてその根拠とは?
日本の企業同士でしょ?
まだ発表されたばかりで、今後、新たに明らかになる情報で、状況が二転三転するかもしれないけど、現時点で、最も気になるポイントを見てみよう。
そもそも日産が三菱を傘下にするのは「良いことなのか?」とか、「うまく行くのか?」という素朴な疑問についての報道。
今のところ日本国内では、
「日本を代表する三菱財閥グループの一社、三菱自動車が、よくもまぁ、こんなに早く日産の傘下に入ることを決断できたよね・・・。ひょっとして、何か裏があるんじゃないの?」
みたいなマスコミ報道も少なくないような印象がある。
まぁ、多くの日本人は、「三菱」財閥が日本国内で、どれだけ大きな存在なのかだいたい分かっているし、その手の話題に興味がある方も多いのだろう。
三菱財閥グループの内情に詳しい(と言われる)専門家が出てきて、
「ゼロ戦を作ったプライドの高い三菱重工がよく許した。」
などと解説してたりもする。
三菱自動車の生産拠点でもある国内有数の規模を誇る岡山県倉敷市の「水島コンビナート」がどうなるのか、単純な話じゃないよ、などと指摘する事情通もいたり。
いろいろ考えていくと、
「やっぱり、難しいんじゃないの」
とか
「良い話ばかりじゃない」
といった悲観論の方がより大きく報じられてるような印象も、ないわけではない。
あと、三菱自動車がスポンサーの浦和レッズと、日産がスポンサーの横浜F・マリノスの2つのプロ・サッカー・チームの運営が、今後、どうなるのか?などとの声も多い。
Jリーグのルールでは、1つの企業が2つのチームのメインスポンサーになれないそうで、スポーツ新聞などでは、サッカー・チームの動向の話題の方が、より大きく取り扱われていたりもする。
それでは、アメリカではどのような報道が行われているのか?
これまでのところ、わりと結構、好意的というか、むしろ、とても良いことという見方が主流になってるような印象だ。
「日産がスキャンダルに襲われた三菱に命綱を投げた」
(Nissan Throws a Lifeline to Scandal-Stricken Mitsubishi)
とか、
「日産が三菱自動車にライフラインする」
(Nissan lifeline for Mitsubishi Motors)
とか、
「驚きの命綱」
(a surprise lifeline)
などと、やたらに「命綱」(lifeline)という単語が名詞としてだけでなく、動詞としても使われてる例を、あちこちの記事で見かけておもしろい。
日本語では、あまり「命綱」のような表現を経済ニュースの真面目な記事では見かけない気がするけど、どうやら英語では、これが、こういう時の定型句なのかも?
窮地に陥った三菱自動車を日産が救世主のように救いにあらわれたという感じの取り上げ方になっていることから、「命綱(lifeline)にはポジティブな意味合いが含まれているのかもしれない。
うーむ。
海外のメディア関係者の方々も、三菱財閥グループが特別な存在であることは、さすがに一応、分かってはいるが、日本国内ほど、その特別さについてこだわりがない、ということか?
また、海外のメディアは、日本国内のメディアよりも、もっとグローバルな視点に立って、今回の日産・三菱の資本提携の一件を分析している気がする。
そう、グローバルな視点。
それが日本国内の報道とは大きく違う。
日産・三菱という、日本の大きな自動車メーカーというか、日本を代表する大企業のお話なので、ついつい、うっかり、日本国内の状況に目を向けがちだけれども、実は、日産も三菱も、すでにかなりのグローバル企業になっている。
実際、近年の自動車産業は、主にアメリカ、ヨーロッパ諸国、日本の大手メーカーが、世界を舞台に競い合っていて、それぞれ外国に大規模な生産拠点を持ってることも珍しくない。
日本車だからといって、全部、日本で作ってるわけじゃないのだ。
重要な部品は日本国内で作っていても、それを組み立てるのは、アメリカ国内でアメリカ人がやってたりする。
そう言えば、2009~10年に、アメリカでは、運転中に発生した急加速事故の原因がトヨタ車にあるということで、大リコール問題が発生し、トヨタ自動車が、アメリカの生産拠点での製造の様子を中心にしたテレビCMを放映したこともある。
〔ご参考〕
●アメリカで放映されてるトヨタ自動車のリコール問題についてのCM
安全を重視してますって主旨のCMだが、トヨタは日本車と言っても、アメリカで50年以上にわたり、アメリカ人の皆さんが、アメリカで作ってるんですよーって感じのメッセージがこめられている。
なんでこんなCMを放送する必要があったかというと、一部の頭のおかしな人々が、「トヨタ=日本車」という理由で、バッシングしたからだ。
例えば、2009年11月には、このリコール問題を理由に、ロスアンゼルス在住の韓国系アメリカ人住民が、トヨタに集団訴訟を起している。
結局、最終的に、この問題の原因を調査していた米運輸省・米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA・NASA)による最終報告によって、トヨタ車に、若干の器械的な不具合はあったものの、当初、問題視された電子制御装置に欠陥はなく、急発進事故のほとんどは「運転手のミス」と2011年になって結論づけられたが、その結論に至るまでの間に、トヨタの豊田章男社長らが、アメリカの国会(下院の公聴会)で情報提供、いわゆる証人尋問まで行うなど、当時、大変な騒ぎになった。
でも、そのお陰で、大手の自動車メーカーは、もはや、グローバルに展開していて、たとえ外国のメーカーでも、アメリカ国内に大規模な生産拠点を持っているということが、世間一般の方々の間にも、以前に増してよく知られるようになったとも言える。
極端な例かもしれないが、日本車の生産拠点があるということで、地域によっては、アメリカ国内でもアメリカ車よりも日本車が売れた方が、地域経済により良い影響が出るということも、さらに広く知られるようになった。
そのくらい大手自動車メーカー同士の競争は、グローバル化していて、激しくなっているということ。
だから、専門家の間では、今後、合併や資本提携などにより再編が進むだろう・・・との見方も、もうずいぶん前から出ていた。
でも、アメリカやヨーロッパも含め、グローバルに展開する大手自動車メーカーが再編されるとき、どんな組み合わせが望ましいのか?
いろいろなパターンが考えられるけど、同じ日本国内で生まれ、発展し、現在もその経営の中心は、文化や価値観などを共有する日本人によって行われてる日産と三菱が組むというのは、外国の専門家から見れば、かなり望ましい、理想的なパートナーに見えるらしい。
日本では、あまり語られることのない発想かもしれないけど、まぁ、そりゃ、そう思うよね。
この点に関して、アメリカの経済専門誌ブルームバーグが、興味深い記事(と言ってもビデオがメイン)を公開している。
アメリカのニュースなのに、わざわざシンガポールの投資会社にいる自動車業界の専門家に聞いているのだ。
〔ご参考〕
●Nissan Buys Stake in Mitsubishi:Is It a Good Move?
別に、アメリカ国内の専門家もだいたい同じような指摘をしてるんだけど、こういう演出をされると、より一層グローバルな視点が強調される。
そう、グローバルな視点。
つまり、この広い世界には、文化や価値観やライフスタイル、勤労意欲や言語など等が異なる国が、多々、存在するってこと。
普通に考えたら、それらが異なる国で生まれ、発展してきた自動車メーカーより、同じ国の自動車メーカー同士が組んだ方が、特に、経営方針など細かい部分での意思疎通がしやすいので、うまくいく可能性は高くなる。
しかも、「日本」のとなると、ますます上手く行きそうって見方が多め。
外国の方々から見ると、やっぱり日本人は、個人よりも集団を重んじる傾向が強く、「調和」や「協調性」を大切にする民族に見えるのだろう。
ハッキリ言葉に出すことはなくても、
「日産と三菱自動車が組むの?日本の企業同士でしょ。すごいね、そんなのうまく行くに決まってるじゃん。」
みたいな受け止め方になってる気がする。
逆に言えば、それだけこの広い世界には、まったく違う文化や価値観などを持つ国が多い、ということ。
日本人の感覚からすると、まずありえない考え方だが、残念ながら、この広い世界の中には、平気で嘘をついたり、人を騙すのも当たり前、騙される方が悪いなどと考える文化や価値観を持つ国もある。
そういう国では、他人を「信頼」しないというか、したくてもなかなかできない。
でも、「信頼」がなければ、国も、地方も、企業も、何もかも成長したり、発展を続けていくことはない。
だから、この広い世界には、ずっと長い間、発展途上のままになってる国があったり、仮に一時期、急激に成長を遂げた新興国が、今度は急に低迷し、衰退に向かっていったりもする。
そのくらい「他人を信頼すること」や、「その信頼に応えること」は大切。
広い世界を見渡すと、極めて珍しい価値観であり、文化なのである。
それが日本には・・・、日本人にはちゃんとある、というのが、今回の件に関わる海外報道の節々から感じられる気がする。
image by: Vytautas Kielaitis / Shutterstock.com
『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』より一部抜粋
著者/りばてぃ
ニューヨークの大学卒業後、現地で就職、独立。マーケティング会社ファウンダー。ニューヨーク在住。読んでハッピーになれるポジティブな情報や、その他ブログで書けないとっておきの情報満載のメルマガは読み応え抜群。