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あのプーチンが喜んだ。安倍総理はロシアへのアプローチをどう変えたのか?

先日ロシアで開かれた首脳会談において、「手応えを感じた」という安倍総理。これまで修復不可能とも言われていた日ロ関係が急速に改善されたのにはハッキリとした訳があると、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは分析しています。

プーチン年内訪日決定?~迎える際のポイント

安倍総理が6日、ロシアのソチでプーチンと会談した件。ロシア側はかなり喜んでいるようです。その後も、何度も何度もメディアで報じられています。日本政府のアプローチが変わったことが原因です。

いままで日本政府高官は、ロシア政府の高官に会うと、開口一番、「島返せこら!と言っていた。4島返還は、ロシアにとって、まったく「大損」な話。「経済制裁」「原油価格暴落」「ルーブル暴落」でとても苦しい。それなのに日本人は会うたび会うたび、「大損な話」しかしない。それでロシア政府もうんざりし、副首相が、「日本人はハラキリしておとなしくしてろ!」とブチ切れるほど、両国関係は悪化していた。

ところが今回の安倍総理は違い、ロシアが望む経済協力を前面に出した。ロシア側も、「お! 今回日本は違う感じだぞ!」と歓喜したのです。

テレビ・ツェントルの保守系政治分析番組「ポストスクリプトン」を観ていると、「ロシアは、ドイツのメルケル首相に、西側諸国との和解仲介を期待したが、メルケルはアメリカに従属する道を選んだ。これからは安倍がロシアと西側諸国の仲介役になりそうだ」と絶賛していました。

そして、「プーチン年内訪日決定」という情報も出てきています。

ロシアのプーチン大統領、年末に来日へ=側近

ロイター 5月17日(火)22時51分配信

 

[モスクワ 17日 ロイター] – ロシアのプーチン大統領は、年末に日本を訪問し、安倍晋三首相と会談する予定だ。側近が17日、記者団に明らかにした。

というわけで今回は、プーチンが訪日すると仮定して迎える際のポイントをまとめておきましょう。

日ロ関係改善「真の意義」をはっきり認識すること

今日本政府は、「経済協力促進により、経済危機にあるロシアを助け、島を返してもらおう!」という作戦でやっています。これ、直接的に一言目から「島返しやがれ!」というより、かなりマシですね。

しかし、日ロ関係を改善させる真の意義は、「対中国」なのです。昔からの読者さんは、うんざりだと思いますが、新しい読者さんも多いので、また触れさせていただきます。

2012年11月、中国の代表団は、モスクワで「反日統一共同戦線」戦略を明らかにしました。3つ重要ポイントがあります。

  1. 中国、ロシア、韓国で、「反日統一共同戦線」をつくろう!
  2. 中国、ロシア、韓国で、日本の領土要求を断念させよう。北方4島は、ロシア領。竹島は、韓国領。そして、日本には、尖閣だけでなく「沖縄」の領有権もない!
  3. 「アメリカ」を「反日統一共同戦線」に入れよう!

完全証拠はこちら。

反日統一共同戦線を呼びかける中国

孫子によると、「上兵は謀を伐つ」。つまり「最上の戦い方は相手の戦略を無力化させる」。私たちは、中国の戦略を知っている。であるなら、それを「無力化」させればいい。どうやって?

中国は、アメリカ、韓国、ロシアと「反日統一共同戦線」をつくろうとしている。だから日本がこの戦略を「無力化」させるためには、

  1. アメリカとの関係を、ますます強固にしていく
  2. 韓国と和解する
  3. ロシアと和解し、関係をますます発展させていく

こうなります。日本がロシアと和解する主な理由は、「安全保障」「尖閣沖縄を中国に奪わせないため」なのです。この「日ロ関係の『大戦略的意義』」を、少なくとも安倍総理と側近の皆さんは、はっきりくっきり自覚、認識している必要があります。

北方領土問題でプーチンに恥をかかせない

プーチンが訪日したとしましょう。安倍総理に会ったら、「プーチンさん、いつ島を返してくれますか?」と言われた。記者会見をしたら、記者から、「プーチンさん、いつ島を返してくれますか?」と4回質問された。町に出れば、「プーチン、北方領土を返せ~! 北方領土を返せ~!」と大規模デモがあちこちで起こっていた。

これ、わかるんですが、「返せ!」と言い続ければ、返す気になりますか? むしろプーチンは、日本で大恥をかかされ、「絶対返すか!と決意を固めることでしょう。

WIN-WINの経済協力を進める

昔、薩摩藩と長州藩は、「犬猿の仲」でした。坂本龍馬は、「この2藩を同盟させれば、幕府に勝てるぜよ!」と考えた。で、どうしたか?

当時幕府戦に備えていた長州は、武器を必要としていた。ところが、幕府は外国勢力に、「反逆者長州」との取引を禁じていた(つまり、長州は、外国企業から直接武器を買えない)。それで龍馬は、「薩摩名義」で武器を買い、長州に与えた。

一方で、薩摩はその時、コメ不作で悩んでいた。龍馬は、長州から薩摩にコメをプレゼントさせた。こうして、龍馬の仲介で、薩摩と長州がお互い助け合っているうちに、なんとなく両藩関係がよくなってきた

こういうのは、現代でも同じですね。自分の目的を達成したければまず相手の望むものを与える。そして、ロシアは、「制裁」「原油安」「ルーブル安」で経済がとても苦しい。ですから、「経済的に大きなメリットのある話」を中心にするのがいいでしょう。(たとえば、日ロを直接結ぶガスパイプライン建設など)。

こう書くと、必ず産経新聞さんが、「だまされるぞ!」と警告します。その懸念、もっともです。ですから、経済協力でも「両国にメリットがある案件」である必要がある。そして、具体的な交渉でも、なるべく商社のベテランなどに入ってもらい、「日本が一方的に損をしない」状況をつくる必要があります。

中国を批判しない

「そうか、日ロ関係の本質は、『対中国』なんですね!では、プーチンさんに、中国の非道さをプロパガンダしましょう!」

これは、大きな間違いです。ロシアは、クリミア併合以降、日欧米から制裁されています。しかし、中国は、制裁に加わらなかっただけでなく、はっきりとロシアに味方した。中ロ関係は、「対アメリカ」でそこそこ良好な関係にある。そして、最大のお得意欧州との関係が悪化しているので、中国との経済関係はロシアにとって重要なのです。

ところで、私たちは「中国とロシアを分裂させたい」のですが、その際、「中国の悪口をいう」必要は全然ないのです。たとえば、中ロ関係は、05年頃から現在に至るまで、概して良好です。しかし、08~11年、メドベージェフが大統領だった時代、中ロ関係は停滞していました。なぜでしょうか?

メドベージェフは、「再起動」といい、アメリカとの関係を改善させたからです。アメリカとの関係が改善すると、自然と中国との関係が悪化した。そういうものなのです。

日本がロシアとの関係を深めていけば中ロ関係は自然と弱くなっていくことでしょう。

ポイントをまとめましょう。

  1. 日ロ関係が重要なのは、「対中国」であることを、はっきり認識すること。
  2. 北方領土問題でプーチンに恥をかかせない(そうすると、態度が硬化し、逆効果)。
  3. WIN-WINの経済協力で、両国関係を改善する。
  4. 日ロ関係の本質は、「対中国」だが、中国を批判してはいけない。

というわけで、日ロ関係が大きく動き始めました。総理は、中国の戦略を無力化することで、「戦わずして勝つ」を実践していただきたいと思います。

image by: 首相官邸

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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