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なぜNYとシンガポールを歩くだけで「売れる広告」の法則が分かるのか

限られた予算の中で、絶大な効果を出す「広告」を作るには一体どうしたらいいのでしょうか?今回のメルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』では、著者でコンサルタントの理央 周(めぐる)さんが、ニューヨークとシンガポールを歩いてわかった「売れる広告の作り方」について、マーケティング目線でわかりやすく解説しています。

海外に学ぶ広告の創り方~シンガポール編

一昨年のニューヨークに引き続き、昨年2月にシンガポール広告の視察をしてきました。

ボクにとって25年ぶりのシンガポールは、町の様子が大きく変わっていて、衝撃を受けました。

今号ではシンガポールとニューヨークを比較した広告の創り方」を紹介し、そこから発展させてマーケティング目線での広告媒体の選び方や、日本で成功した広告表現の事例をもとに、「売れる広告の創り方を解説していきます。

ファインカントリーの制約をクリアする 工夫を凝らした広告が印象的

シンガポールは人口約500万人で、人口密度が世界第3位。国家の面積が狭いので、家は上に伸びていって、高層マンションが多いのが特徴です。

シンガポールには「ガーデンシティ」と「ファインカントリー」というあだ名があります。「ガーデンシティ」というのは、読んで字のごとく「箱庭」という意味で、街中にも緑が多くとてもリラックスできる街並でした。空いている場所があったら、樹を植えなくてはいけないという条例があるそうです。

「ファイン」は「素晴らしい」(=I’m fine, thank you. のファイン)と「罰金」という2つの意味をかけています。

街なかでゴミを捨てるだけで罰金が取られるというのは有名な話ですよね。

一昨年の3月にニューヨークに行った時に大きな刺激を受けたので、今回のシンガポールでは、ニューヨークと似ているようで違う点を比較しながら、中小企業が広告を考える際のヒントについて説明したいと思います。

ニューヨークにはタイムズスクエアという、1日に何万人が訪れるかわからないくらいの賑わいを見せる有名な場所があります。広告主はできる限り多くの人に広告を見てもらうため、多くの人が見てくれそうな場所に広告を出したいと考えるので、タイムズスクエアのような場所では、広告がたくさんあって競争が激しくなるのです。だから、数限りなくある広告の中で自社が一番目立つように工夫します。

シンガポールも同じように人が多いのですが、「ファインカントリー」であるがゆえに規制が厳しくて、街に看板などの広告を出せる場所が少ない。だから限られた場所でいかに目立たせるかという工夫をするのです。このようにニューヨークとシンガポールはどちらも「工夫したい」という気持ちは同じですが、「なぜ工夫したいか、どうやって工夫すべきか」が違っていると思われます。

そこで「クロスメディア」「お客様価値」「広告表現」という3つの視点からシンガポールとアメリカの広告を見ていきたいと思います。

クロスメディア」とは、媒体を組み合わせると相乗効果が出る、という意味です。1つだけの媒体よりも、3つ4つの媒体を並行して出すと効果が倍増します。

次に「お客様価値」とは、プロダクト(製品やサービス)の価値だけではなく、お客様がその商品を使ったときに感じる価値のことを指します。最後に「広告表現」とは、お客様へのメッセージのこと。限られた場所のなかで他の広告より目立つためにどう工夫するかということです。

例えばアイスクリームの広告では、広告全面がアイスクリームでした。これはすごいシズル感食べたくなります。これを「広告表現」といいます。対照的に、もう1つは、笑顔の男の子と女の子のイラストが大きくて、アイスクリームは小さい。これは「食べる楽しさ」を表現しているのですね。お客様が本当に欲しいのはアイスクリーム自体ではなく、食べているときの楽しさでしょう。これは「お客様価値」に焦点を当てた広告だといえます。

シンガポールはすごくキレイな地下鉄が走っているのですが、ここにも広告があります。

日本の地下鉄の窓ガラスに貼ってある広告は真四角なものが多いのですが、少し変わった形のもので、女の子の左右が透明のフィルムになり、手の先だけ上にはみ出しているものがありました。

広告は四角でなければいけないという固定観念にとらわれない、非常にクリエイティブな「広告表現」だと思います。

スペースにクリエイティブさを感じる広告は他にもたくさんありました。例えば、ルイヴィトンとかプラダがある街角にて、人の形をしたオブジェが何体もあって非常に目を引いていました。

印刷物からWebへの誘導 「クロスメディア」で広告効果を倍増させる

また、メインストリートには、何台も並ぶミニクーパー。最初は「ミニクーパーの宣伝かな」と思ったのですが、そうではなかったようです。車のフロントガラスに人の顔くらいのQRコードが貼られていました

読み込んでみると、ファッションのアパレルサイトに飛びました。QRコードはとても重要で、広告を見る人の中の何割かが、商品に興味を持ったとします。しかし目で見るだけではすぐに購買には至りません。

しかしQRコードが貼ってあれば、その場でホームページに飛んで商品を買ってくれるかもしれないですよね。このように、QRコードにはさらなる購買チャンスを獲得と機会損失を防ぐ役割があるのです。これは一種の「クロスメディア」といえます。日本でボクは「印刷物にはQRコードを付けてください」といつも勉強会で言っていますが、シンガポールでも行われているとても参考になる事例ですね。

固定観念を外して街を見渡せば、広告スペースになり得る場所が見つかる。広告を出すスペースにも特徴が見られました。日本であまり見かけませんが、ホテルのタクシー乗り場の看板。エスカレーターを降りるとき正面に見える壁や横の壁などは、しっかりと工夫がされていて広告スペースになっています。

バス停にもデジタルサイネージでくるくる変わる広告がありました。また、変わっているなと思ったのが、非常に曲面になっている壁。日本だとこんなに曲面になっていると広告媒体としての価値がないと思われがちですが、シンガポールではこの曲面を上手く使った広告表現をしていて感心しました。やはり広告を出せる場所が限られているからか、工夫が凝らされているのですね。

電柱の広告も日本とはひと味違っていました。電柱に巻く形のものではなく電柱に垂れ幕のように付いているのが印象的でした。条例があるのか、景観を損なわないデザインが多いようにも思われます。

また、シンガポールは地下鉄の広告も進化していて、時刻表がモニターなのです。次は何時に電車が来るのか、電車を利用する人のほとんどがこのモニターを一度は見るでしょう。ここにもしっかり広告のシールが貼ってあり、時刻が表示されないときは広告の動画が流れるようになっていました。それだけでなく、地下鉄の電子改札でカードをピッとするときに必ず見える場所は広告で埋まっていましたし、電車とホームの間の扉も広告スペースになっていたのです。

私たちが媒体だと思っていないところも人の目に多く触れるところであればお客様にとっては優良な媒体になる可能性を秘めているということを感じました。

莫大な数の広告がひしめくタイムズスクエアでは 通行人の目をとめるクリエイティブな仕掛けで勝負

一方でニューヨークですが、中心街のタイムズスクエアにはとてもたくさんの広告がありました。シンガポールのような規制がないのですごい数です。そして、見る人が多いだけあり、広告費が膨大でした。動かない看板の広告費は高いものだと1年間の契約で30万ドル、動画は1年で300万ドルくらいするものもあるとのことです。高い広告費を払っているから、費用対効果を考えると、膨大な人数の通行人に商品やサービスを買ってもらわないと広告料が見合わない。そこで、通行人が広告に目を止めてくれるように、クリエイティブを工夫するのです。

広告表現」という点では、例えば車の看板。

「RULES」の商品名の文字の間がパリンと分かれていて、看板の向こう側が見えていました。通行人は「あれ?割れてる?」と、思わず目を止めてしまうのです。

目を止めるといえば、交差点のテレビモニターの広告。

対面の通りに向かってカメラがついていて、通行人が自分の目の前にあるモニターに映るようになっています。自分が映し出されていたら、つい立ち止まってみてしまうのが人の心理。数秒で広告の動画に切り替わって通行人はそのまま広告を見るという仕掛けになっているのです。また、「クロスメディア」としては、ニューヨークの市立図書館の広告が画期的でした。拡張現実AR」を利用して、蔵書の一部を試し読みできるようになっているのです。「気になる続きは図書館で」と、図書館へ誘導しているところが素晴らしいと感じました。

このように、それぞれの国の広告事情によって、広告媒体や表現に特徴がみられるのが、とても面白いですね。海外の事例から我々が広告を創る際に参考にできるところがたくさんあると思いました。

海外の事例をもとに日本の広告について考察してみる

さて、シンガポールとニューヨークの事例をもとに日本の広告について考察してみようと思います。まずは、広告の目的を定義する。広告主にはそれぞれ「プロダクト」があります。製品だったり、サービスだったり、私の場合は情報だったり。

これを市場にいる方々に伝えること、買ってもらうことが広告の目的と言えます。

「伝えること」が重要だとわかったところで、総務省のデータに平成13年と平成21年の、情報流通量情報消費量という統計があります。

世の中にどれだけの情報が流通していて、私たちはどれだけの情報を消費できたかという統計です。

この8年間で、情報量は2倍になっていることがわかります。

一方で、情報の消費量はほぼ横ばいで9%しか増えていない

情報がいくら増えて便利になっても、消費する私たちの能力がコンピュータのように進化するわけでないので、全ての情報を消費するのは不可能ということがわかります。

つまり、発信する内容が生活者に選ばれる情報かどうかが、重要になってきたということです。

ここで重要なのが「表現」です。

私がシンガポールを視察したとき、シンガポールの広告は、表現でいうとシンプルで、凝ったことはしていませんでしたが、自由な発想をしていて、日本の広告も見習うべきだと感じました。

しかし「表現」を考える前に、然るべきステップを踏まないと、全く生活者に届かない広告になってしまいます。まず「何を」「だれに」を明確に定義すべきなのです。「何を」は自社の強みのことです。

それが分かったら、次は「だれに」です。お客様となるターゲットの決め、「どうやって」伝えるか媒体や表現を考えるのです。今回は「だれに」に重点を置いて話を進めましょう。

ターゲットの「インサイト」を探るコツは 「仮説」に基づいた行動観察にあり

だれに」となるお客様の「ターゲットの設定方法です。

これを決めるまで、「どうやって」に分類されるキャッチコピーなどは考えなくていいと思います。

「ターゲット」は性別年齢職業地位を決めることから始めます。

男性・20代・銀行員・新入社員といったように、具体的に考えます。

でもそれだけだと該当者は非常に多い。

そこで、次に決めないといけないのは、心理的な部分です。

どういう行動を大切にするか、や商品に対する深層心理を想像してみます。

このことをマーケティングでは「インサイト」(本音)といいます。

「インサイト」は聞きなれない言葉かもしれませんが、今、マーケティングの世界ではとても重要視されていて、書籍もたくさん出ているので興味のある方は読んでみることをお勧めします。

それではどうやって「インサイト」を探るかを考えましょう。「インサイト」を探るには、「仮説をもとにした定点観測」が有効です。

まずはターゲットとなるお客様の属性を規定して、行動を想像します。

そして、そういう人がいそうなところに出向き、徹底的に観察するのです。ここで注意ですが、他の条件が同じであるひとつのポイントをずっと観察しなくてはいけません。例えば、ターゲットは「六本木にいる20代男性」と仮定したら、お昼休みや会社が終わったあとなど、2ヶ月ほどずっと六本木でそのような人たちを観察します。そうしてターゲットのライフスタイル価値観をつかむことで、「インサイト」が見えてくるのです。

私がもう1つシンガポールから学んだことは、「媒体の使い方です。制約のあるなか、隙間を狙って新たな広告スペースを生み出しています。また、「媒体」を選ぶときは、組み合わせが鍵となります。前述のニューヨークでは、印刷物とインターネットのテクノロジーを併用していたのでしょう。「媒体」といっても街頭の看板からテレビCM、雑誌、今ならブログやFacebookなど様々で、分類方法も数多く存在します。

今回は盛りだくさんの内容でしたが、この中からまずは「何か一つでもやってみることが大事です。

何事も行動をしないと、何も変わりません。

明日野郎はバカ野郎、Now&Never。

たった一つでもいいので、メルマガに書いたことを実践してみてください。

行動だけが結果につながります

image by: shutterstock

 

理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】

著者/理央 周(めぐる)

あのヒット商品はなぜ「ヒット」したのか?あのレストランの予約は、なぜいつも取れないのか?世の中で「売れているモノや人気者」はなぜヒットするのでしょうか?毎号実際の店舗や広告を取り上げ、その背景には、どんな「仕掛け」と「思考の枠組み」があるのかを、MBAのフレームワークとマーケティングの理論を使って解説していきます。1.「中小企業経営者・個人事業主」が売り上げを上げる 2.「広告マン・士業」クライアントを説得する 3.「営業マン」が売れない病から脱するためのメルマガです。
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