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【座談会】世の中の仕組みがよりクリアになる、超面白い「法律」の話

東京・池袋に実在する書店「天狼院書店」主催のイベントで最上ランクの体験ができる「天狼院のゼミ」の講義内容を、完全テキスト版でお届けするメルマガ『天狼院プラチナノート』。今回は、最近法律を学んでいるという天狼院書店スタッフの山本さんと、店主であり行政書士資格を持つ三浦さん、顧問弁護士の河野さんの3名による鼎談形式で、法律用語の解説から、実際のケーススタディまで、法律を知らないとどれだけ損をするのかを詳しくレクチャー。法律をかじった経験のある方はもちろん、全く知らない方も勉強になる内容ですよ!

天狼院プラチナノート ~天狼院「法学ゼミ」〜

こんばんは。天狼院スタッフ山本です。今更ながら法律学んでます。

学生の時は授業で取ったりしていたのですが、なんだか難しくてよくわからず
「あー、暗記大変だなー」としか思っていなかったんです。
これが今聞いてみたら、どうしてだろう、めちゃくちゃ面白い!!!

ちゃんと自分ごととして捉えられるようになってきたんです。
そう、これこそが「リーガルマインド」。見える世界が変わりました。
みなさんもリーガルマインド、ちょっと触れてみませんか?
今週もどうぞごゆっくりお楽しみください。

三浦天狼院書店店主の三浦と申します。よろしくお願いします。
僕が何で法律が詳しいかっていうと、行政書士の資格を持ってるんです。それで、ある時期に徹底的にやったんです。めちゃくちゃハマったんです。世の中の仕組みがこれさえ分かればいろんなことが紐解いて見えることがわかった。

例えば国会とか見ても、なんでこうやって動いてるんだろうとか。例えば、衆議院とか参議院の定数の問題は、六法の中に全て書いているんですよね、
ああいう形で読めるようになると下手すると法律はハマります。ちょうど英語を勉強して外国語が分かるのと同じ感覚で、法律を勉強すると世の中の仕組みがよりクリアになる。

あと交渉に有利になる、というところ。相続とか契約の問題で、法律を知っていると相手の対応が変わってくるので。
今回お呼びしたのが、天狼院の法務顧問でもあらせられる弁護士の河野先生でございます。

河野:宜しくお願い致します。

三浦:宜しくお願いします。河野さんの経歴……はい、海鈴、読んでください。

山本:はい。私立麻布高等学校卒業って……

三浦:これ、優秀ですか?

お客様B:超優秀。

山本一橋大学法学部法律学科に入学。

三浦:一橋大学って優秀ですか?

一同:優秀。

河野:ビジネス関係で有名ですね。

山本:そのまま一橋大学法科大学院に入学されました。そして卒業後、法律試験合格の際は、総合15

三浦:司法試験合格総合15位って20人くらいですか。

河野:いや、2000人くらいいますけどね(笑)。

三浦:2000人? 2000人中15位?

河野:まあ上に14人いますからねえ。

三浦:いやいや……(笑)。

会場:(笑)

三浦:じゃあトップ1%以内。すごいな。

「リーガルマインド」を身につければ世界が広がる

三浦:現役の弁護士として活躍されているということで、今日のお題目は?

山本:「リーガルマインドを身につける」ですね。

三浦:リーガルマインドってどういうものですか?

河野:一言で言うと「法律の中身が理解できて、かつそれを実際に起こっている事件に適用していく能力」ですかね。

三浦:難しい。

河野:一番わかりやすく言うと、法律家って「問題を解決できる能力」。

三浦:なるほど。「法的思考」ってやつですよね。

例えば、僕は「ライティング・ゼミ」っていうので教えていて、プロのライターでもあるんですけど、世の中をライターの思考で見るんですよ。何か書くネタはないかなって。

さらに僕は起業家でもあるので、『ストックビジネスの教科書』(ポプラ社)も作っている。世の中を「ストック思考」で見るんですよね。これってもしかして定期的な課金になるビジネスかもしれないって視点で見るんですよね。

それで、「リーガルマインド」を身に着けると、この事例、法的にどうかなって自然に考えられるようになるんですよね。

例えば「ライティング・ゼミ」ではお客様が毎週記事を上げてくれているんですけど、これ著作権的にまずいだろってときがあるんですよね。他にもこれって法律的に大丈夫かなってシグナルが鳴るようになってくる。

河野:情報がパッと出るわけではないけど、たぶん禁止されているんだろうな、みたいな感覚ですかね。

法律が分かれば世の中の仕組みが見えてくる

三浦:そのくらいのマインドは身に着けたいですよね。法律が分かれば世の中の仕組みが見えてくる。これはどういうことでしょうか?

河野:街を歩いているといろんなものが目に付くわけです。例えば道路標識なんていうのもそうですよね。道路交通法って法律があるから置いているんだということがわかる。あるいはお店の同意書や契約書なんていうのもそうですね。法律があるからこういう書類を作っているんだなあっていうのがわかるかな。

三浦:不動産を借りる時でも、何でもいいですよね。

河野:ビジネスをやっている=法律に基づいてやっているといっても過言ではないでしょうね。

三浦:逆に言うと、生きている限り法律からは逃げられない

河野:法律は全ての人に適用されますからね。

三浦:「法律は関係ないよ」って言う人、いませんもんね。英語は関係ないよって言う人はいると思うんです。一生日本で暮らせばいいっていうことですから。「9割は英語は要らない」なんて本も出ているくらいなんですよ。僕は、英語は勉強しないって心に決めているんです(笑)。

ただ、法律は誰でも関係あるもんね。相続だったり契約だったり、クリエイティブなことやっていたら著作権も関係してくる。分からないとやばいって可能性ありますよね。

河野:だいたい相談にいらっしゃる方は、もっと早く相談しに来てくれていればっていうのがほとんどなんですね。

例えば、法律を知っていたらそれはしないだろうっていうものを平気でやってしまっていたり。契約書にサインしてしまっている、とかね。一番あるのは保障かなあ。保障はせざるを得ないところがあるので。

三浦:人間関係としてせざるを得ないところはありますよね。普通に法律を知っていたらやらないかもしれないですね。

法律は最強のディフェンスになる

三浦:僕が思うのは、法律ってある意味ディフェンスになるのかなって思うんですよね。先行して手を打てる可能性がある。契約書に最初から有利になる可能性のある文言を組んでいけばこっちに優位になる可能性がありますよね。あとは知っているかどうかの問題。

河野ルールは作る側が強いですからね。契約書は最終的に自分らの意見が通せれば強いかなあと思いますね。

三浦:うん。なので、善意に見せかけて「あ、大丈夫ですよ、契約書こっちで作りますから!」は危ないですよね。いやいやちょっと待ってくれって。できれば自分のサイドで作った方がいい。だいたい契約を結ぶ場合って作った側に有利にするに決まっているから。

河野:自分でルール作れるならそうしますよ、みんな。

三浦:なので善意と見せかけて「契約書大丈夫です、こっちで作りますから」はやばいですよね。

河野:我々の業界でもあるんですよね、どっちが和解の条文作るかとかね。「こっちが作りますよ」って言った側がだいたい勝ち。だいたいは和解してもらう側がお願いしますって感じなんですよ。

三浦:そうやってやっていくんだ、和解って。

河野:そうやって負けるよりひどいことになるパターンってたまにありますけどね。

法律用語は日本語と違う!?

三浦:法律学び始めて思ったのが、「(法律用語が)日本語と違う」ということ。

かなり日本語と解釈が違う単語が結構あって。「善意の第三者」とかですね。

河野:これパッと見てどういう意味かわかります? 善意っていい人って意味だと思っちゃいますよね。

三浦:「善意」って小説的な意味では「いい人」ですよね。善意で川に飛び込んで助けた、みたいな。

それが法律用語では……?

河野「知らないこと」ですね。

三浦:「善意の第三者には対抗できない」っていう民法に良く出てくる表現あるんですよね、但し書きの後に。それって「そのことについてしらない第三者にはそのことについて権利を主張することができない」って意味ですよね。だから日本語とまるで違う。たまに契約書に使われることもありますよね。

あと、他に衝撃的だったのが「みなす」と「準用する」「推定する」というもの。これってどういう違いなの?

河野:「みなす」っていうのは、「そういうことにすること」。それとは違うっていう主張は通らない

三浦:そうそう、ほぼ確定なんだよね。「推定する」は?

河野:「推定する」は「いちおうそういうことだろう」、としておくこと。そうではないことが証明できれば、そうじゃないことにできる。「反証を許す」かどうかってよく言われるんですけど。

三浦:「反証」ってやつね。だから法律用語では全然意味が違うんですよ。あまり小説用語だとあまり変わらない、レトリックの範疇になるんですけど、まるで違う。

逆に「悪意」、つまり「善意ではない」というのは「知っている」ですもんね。だから「善意の第三者に対抗できない」ってことは、「悪意の第三者」、「知っている第三者には対抗できる」っていうことなんですよね。

河野:民法の基本ですね。民法は知っているかいないかで結論が分かれることが多いんですよね。

僕は小説を読んでいて「善意で川に飛び込んで助けた」なんて言われると、「何も知らずに飛び込んだ」って意味だと思ってしまって、あれ?ってなるんですよね(笑)。

三浦:条文の読み方がポイントを掴めると全然変わってくるんですよね。だから、小説書いていると「善意の第三者」とか書いちゃいそうになるんですよね。法律用語が小説用語に入ってくるっていう……ちょっとやっかいなことになったんで、一時期止めた時があったんですよね。染みついちゃうと「みなす」とか「推定する」とかは自然と出てくるようになる。あと「但し書き」とかもあるよね。

河野「但し書き」っていうのは実はすごく法律の読み方の一番肝なんです。

三浦:ただし、って小説でもよくでてくるじゃないですか。でも「ただし」は気をつけろ、ですよね。「但し書き」っていうのが出てきて、いろいろな条文に但し書きって使われますよね、それってどういう風に使われるんですか?

河野:条文の根本として大事なのは、何が原則で何が例外なのかっていうことなんですよね。「ただし」っていうのは基本的には例外

三浦:なるほどね、そういうことなんですね。

河野:条文っていうのは全部並列して並んでいるでしょ、一条からずっと。だから何が原則で何が例外かっていうのを関連付けて覚えておかないとわけわからなくなっちゃう。その手がかりが「ただし」なんですね。

三浦:本屋としては六法も持ってもらいたいんですけども、重いし持ち歩けない。今はアプリとかもあるらしんですけどね。

河野:僕は「アンド六法」を使ってますね。

三浦:あ、iPhoneでも出た!

河野:無料アプリの中で条文はだいたい引けますね。

大元は法務省の「法令データ提供システム」っていうので、そこにアクセスして条文引っ張ってこれるアプリなんですね。

三浦:連携しているんですね。

河野:アプリは何でもいいんですけども、そういうのを入れているとすぐに見れる。出先でたまに問い合わせが来たときなんかはこれでパッと調べられるので、弁護士も結構使っていると思いますよ。

三浦:たしかにわかりやすいですね。「民法」とか調べただけで出てくる。「事例語順音別」とかいろいろ出てくる。皆さんぜひこれ入れといてもらった方がいいですね。

河野:最終的には六法で調べますけどね。でも出先で緊急の時とか条文の検索はやはり電子の方が速いですからね。

民法94条の例:もし、三浦さんが悪い人だったら

三浦民法の94条、「虚偽表示」っていうものがあるんですね。

「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする」

……これ、「無効」とかも法律用語ですよね。

河野:そうですねえ、「無効」と「取り消しうる」の違いとかね。

三浦:そこ、全然違うんですね。

河野:ところが、だんだん似てきちゃっている場面もあるからややこしいんですよね。

「取り消し」というのは「取り消す」というだけ。所詮、人が取り消せるんだからそれまでは有効

三浦:そうそう、「無効」っていうのは「そもそも効力がない」ってことなんですよね。だから全然日本語の意味と違うよね。もう一回いきましょう。

河野:「取り消し」っていうのは「取り消すまで有効」。有効だから取り消すわけですからね。

三浦:だから前にさかのぼって権利を消失させることはできないってことですよね。

河野:ところがそうやって思うからまたややこしいことになっているんです。

三浦:ああ、そうなんですね。例えばこの94条。相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効とする。これはどういう意味ですか?「相手方と通じてした」っていうのは?

河野:例えば、僕と三浦さんで悪だくみするとします。

このパソコンを、三浦さんに「このパソコンはもらったことにしてください、借金取りに取られそうだから」とか言ったとします。

三浦:「いいよー」って僕が言ったってことですよね。

河野:はい。そしたら、本来二人の間では合意しているんだから、本当に三浦さんがもらったことになるはず。なんだけれども、無効になるんです。あげたことがなかったことになる。もともとない、って言い方もできますけどね。

三浦:「但し書き」っていうのは94条の第2項のもの。「ただし」っていうのと同じ意味ですね。

「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない」

これはどういう意味ですか?「意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない」っていうのは?

河野:例えばパソコンを本当に僕が三浦さんにあげたものだと思っている人がいます。三浦さんが悪い人で、山本さんに10万円で売ってしまった、と。

三浦:これって取引の契約の成立になるんで。

河野:そうなると、僕は当然自分のものなんだから返してくれと山本さんに言うのだけどそれはできない。なぜなら、山本さんは知らなかったから

三浦:嘘、つまり虚偽表示で売ったものだと知らなかったので、今回でいうと河野さんは海鈴に対して「返して」って言えない。なぜなら海鈴は最初から知らなかったから。

……これが、「善意の第三者に対抗することはできない」っていうもので、権利とかを対抗できないんですよ。言うことができない、ということです。

お客様C:それを知らないで返してって言われたら、山本さんは返してしまいますよね。何も知らないから

三浦:普通の人は返しちゃいますよね、おっしゃる通りです。でも、返さなくていい。

お客様C:返さなくていいっていうのは知りようがない、知識がないっていうことですよね。

三浦:そうですね、知らないだけなので。

河野:例えばそれで山本さんが、仮に三浦さんから10万円返してもらえなかったとしたら10万円損する。

三浦:だから、悪くないのに知らない方は損しちゃうってことになるから、そちらを保護しなければならない、というのが法的な作り方なんですね。

お客様C:いつもその説明を誰もしてくれないですよね……。

三浦:そうなんだよね、これを知らないとね。

河野: 基本的には、法律を知らないのが悪いって日本の法律はなっているんです。

三浦:もし「悪意」だったとしたら対抗できるんですよね。

河野:知ってて10万円払ったんだったら自分のせいじゃんって話になりますからね。

三浦:そういうことになってくる。たった2なんだけどこの条文にはリーガルマインド、法的用語で分からなければならないものが入ってますね。

河野:善意と悪意をどうして区別するかっていうと、まさに知らずにお金払っちゃったりすることってあるからなんです。

三浦:うん。それで誰を保護するかって話なんですよね。

河野:この例でいうと僕と山本さんのどちらが悪いかっていったら微妙なところで、一番悪いのは三浦さんって話になるんです。ただ、三浦さんに請求できないとしたらどちらが被るかって話で、この場合でいったらそれは三浦さんと組んでそもそも借金取りから免れようなんてことを考えた僕が悪いだろうと。

三浦:では民法第94条の説明を、もう一回いいですか。

河野:パソコンを僕が三浦さんにあげたことでも売ったことでもどちらでもいいんですけども、三浦さんに一回渡したとします。

三浦:それが偽りだったってことですよね。

河野:ところが、僕が三浦さんと組んでいるのは芝居だった、という話ですね。それなのに三浦さんが山本さんに売っちゃったと。山本さんがそれを知らなかったとしたら僕も三浦さんにある意味騙されたようなものですよね。

三浦:山本が「善意」だったので10万円払っちゃっているから、10万円の損ですよね。だから返してって言っても知らない場合は返さなくていい。これが返してって言った時に対抗できないって意味ですね。

河野:もともと僕と三浦さんとの関係が無効なんだから、この理屈で言ったら三浦さんはこのパソコンについて何の権利も持っていないわけですよ。

そうならば、山本さんだって僕の知らないところで三浦さんがいきなり「僕のパソコンを山本さんにあげるよ」って言ったってそんなの意味あるわけない。だからそれと全く同じことになるはずなんだけど……。

三浦:「誰を保護するか」っていうのが法律の考え方ですよね。

河野:どっちかに決まっていなきゃいけないということが大事なんですね。知らなければ返さなくていいってわかっているから山本さんも買えるって面があるんです。そうじゃないと、三浦さんが本当に前の人(河野さん)からパソコンをもらっているか確認しなきゃいけないわけでしょ。でも確認なんて怖くてできないですからね。

三浦:それは売買できなくなりますもんね。

河野利益衡量っていうのは、僕の権利と山本さんの権利を比べてどっちがより保護に値するかっていう話で、理屈から言ったら本当はどちらも保護されないといけないんです。どっちも三浦さんに騙されたり裏切られたりしているから。

三浦:この例、なんか嫌な立ち位置だったなあ(笑)。

これとの違いを見るために面白い情報がすぐ下にあって、今調べられる人調べてほしいんですけど、民法の第96です。これは、今度は無効じゃなくて取り消すことができるって出ていますよね。

「第96条1項:詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる」。

これを使ってもう一回考えてみましょう。

河野:さっきのケースで、三浦さんが僕に対して「パソコンが中古品で使い物にならないから」といって僕からパソコンをだまし取っていった形にしましょう。上手いこと言って下取りしてあげるよ、とか言って。

三浦:前のケースだと二人が組んでいたけど、今回は僕だけが騙すってことね。

それか、強迫したってパターンもありますよね、僕が。

河野:ちなみに、「きょうはく」って字は「強迫」って書くんです。これも法律用語なんです。

三浦「強迫」と「脅迫」の違いってあるんですか?

河野:違いとしてはあんまりないんですけど、持ってきた条文が違うんですよね、刑法と民法で。いろんな国から日本は法律を輸入したので。

三浦:ジャイアンみたいに強迫して取ったとしたらどうなるんだ。……「詐欺又は強迫による意思表示」、これも法律用語ですよね。

河野:「意思表示」は、契約のことだととりあえず思ってくれば大丈夫です。まあ、約束ですね。

三浦:意思表示は……取り消すことが出来る!

河野:例えばね、三浦さんが仮にパソコンを千円で下取りしますって言ったとしましょう。しかしそのパソコンが本当に壊れていた。千円の価値すらなかったとしましょうか。

こういう時だったら僕はむしろそのままにしておいてよ、って言いたいわけです。千円だって高いくらいですから。そしたら、それを三浦さんが千円は騙しとったものだから無効で、なんて言ったってどう考えたっておかしいでしょ。

だから、取り消すことができる。どうするかは、僕が決めていい。僕が取り消せば返してもらえるし、取り消さばければお金はそのまま持っておける。

三浦:これか。「前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない」。

河野:ここで注意すべきは「詐欺による」ってあるでしょ。で、1項の方では「詐欺又は強迫による」って書いてある。強迫だけ抜けてるんですよね。

三浦詐欺の場合、取り消しは対抗できないけど、強迫の場合は対抗できるって意味ですね。

河野:本当だったら詐欺または強迫って書くはずでしょ。なのにあえて書いていないってことは意味があるんですよ。

三浦:そういうことは……詐欺は騙された方にも若干の責任はある。

河野:はっきり言ってしまえば、仮に善意だったら、山本さんだってある意味騙されているようなものですよ。

三浦:でも、強迫の場合だと……?

河野:それはしょうがないじゃないですか。脅されたらね。これは判断としてはみんなが納得するかっていうとまあ、どうなんですかね、気の弱いのだって本当は優柔不断なのが悪いんじゃないかって人がいるのかもしれない。

三浦:だけれども、強迫の方が河野さんがかわいそうだろうということなんですね。詐欺で騙されたのは油断していたんじゃない、みたいなところがあるんですね。これだと法律用語がいい具合で入って来てる。

河野:これは一番基本で、わかりやすいかなあ、と思います。

「寄与分」には気をつけろ!

三浦:民法ってこういうものの積み重ね。家族法でもこういうのどんどん出てくる。

相続とか重要ですよね。うちは百姓なんですけども、例えばおじいちゃんが死んだとしてもうちのお父さんとお母さんは百姓でおじいちゃんとおばあちゃんとやっていたから、兄弟たちは嫁いで出て行ったんですよね。百姓としての仕事を手伝っているわけではないんです。これに関する情報とかがちゃんとあるんですよね。

河野:相続はけっこう価値観がでるところなんでどっちが正解っていうことはないんですけど、「寄与分」と言って、財産を増やすことに貢献したならその分は特別に認めてあげようよっていうものもあるんです。

三浦知らなかったら三等分しようよってことで終わるんですよ。でも本当は違うんですよ。うちのおじいちゃんね、先代からもらう時に間違って三等分しちゃったんです。本当は「寄与分」があってその財産をその先代と一緒に作った分があった。だから平等に三等分する方が不平等なんだよね。

河野:これは本当に価値観の問題ですよね。もともと相続って不平等なんですよ。

三浦:何で?

河野:だって、金持ちの家に生まれたら、それだけもらえる見込みがあるってことだから。そこまで突き詰めると不平等なんですけどね。

三浦:どちらかといえば、というのが法律ですよね。だから寄与分のやつを多く長男はもらえるんですよね。

河野:長男だとは限りませんけどね。極端な話をすると長男が全部取るってやっていた時代もあるわけじゃないですか。それを分けたことで鎌倉幕府が大失敗してつぶれたっていうのはあるわけで……。

三浦:そうなの?

河野:そうですよ、御家人が土地をどんどん分けて行って細分化したせいでみんな貧乏になっていっちゃって……。

三浦:それで長男に継がせろ、みたいな感じになったのか。

河野:江戸時代はそうなった。だけど今度は、明治でヨーロッパの制度を入れる時に、生まれがたまたま早いか遅いかでそんな取り方に差が出るなんてことにならなくてもいいんじゃないかっていう価値観が入って来て、また法律が変わった。

三浦:なるほどな、そういうのがあったんだ。

河野:そういうのが残っているせいでおかしくなっちゃっていたりするんですよね。

三浦:なるほど。法律ができるには理由があるんですね。

河野:考え方によって法律も変わるんですよ。だから本当は、どっちが正解っていうことではないんですよね。

法体系、一番強いのはどれなのか?

河野:「特別法」と「一般法」という枠があって、特別法が優先なんですよ。民法を見て、これはこうだと思っても、実は借地借家法がありましたってなると、結論が全然変わったりする。

三浦:民法と借地借家法でいうと……?

河野:借地借家法が優先。「特別法は一般法を破る」っていって、実は僕ら弁護士にとっても恐ろしい原則なんですね。

三浦:どういうことなんですか?

河野:僕らは、民法だったらこうなるっていうのは知識として持っているんですけど、実際に事案が来た時に民法よりも特別な法律があったら、そちらが優先になる。

ということは、特別法にあるかないかまで調べないと実は答えが出せない。それを見落としていると僕のミスになってしまう。

三浦:細かいものまで引っ張ってこなきゃダメってことですね。例えば民法でいうところの借地借家法っていうのが特別法にあたる。

河野:民法だと、基本借りたものはすぐ返せって言えるんですけど、借地借家法はそうはなっていないんです。

三浦:住んでいる人に有利になっていますね。普通だったら大家さんとの関係で対等なはずなのに、いきなり大家さんに出ていけっていわれたら出て行くしかないとか。

河野:家の場合はそんなすぐ出ていけって言われたって困るよ、と。

これがパソコンとか普通のものだったら返せっていうならそれでいいじゃないって話になるんですけどね。

三浦:特別法は一般法を破る、ということは法体系見てみないとですね。法体系のなかで最強のものって何ですか?

河野憲法。これは究極の一般法だけど、一番強い。

三浦:え、ちょっと待って。そうなんですか?

河野:これだけは例外。憲法はすごく一般的でしょ。

三浦:一般法だけど最強?

河野:最強。これは法律ではないですからね。憲法だけは例外なんですよ。これは国の一番の原則だから、一般的には定められているんだけど、これに反することはできない。

次回やりますけど、たとえば人の権利は尊重しましょうっていうことが書いてあります。これがないと、他の法律も存在し得ない。法律をどうやってつくるかっていうのもここに書いてあるから。

三浦法律的なDNAの大元ってことですよね。これを真似して作られているってことで、指針がかいてある。それで細かいやつがどんどん派生していって……条文の14条って何でしたっけ。

河野平等権かな。

三浦:14条の「平等」を担保するためにちゃんと民法っていうのがある。

河野:もともとあれは男女の本質的平等を旨としてっていうのが一番最初に書いてある。民法の一条のところから読みましょうか。

「この法律は個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として解釈しなければならない」。

三浦:これって14条を受けて、っていうことでしょうね。

河野男女平等というところを民法は気にしているんですね。

特に結婚についても民法に書いてあるから、ここで例えば「妻は夫の姓を名乗らなければならない」って書くと、平等っていうのに反しちゃうんですよね。だってどっちの姓を名乗るかっていうのは男と女で決まるはずのないことだから。不公平だからどっちを選んでもいいことになっているんです。

三浦:そういうことなんですね。(つづく)

image by: Shutterstock.com

 

天狼院プラチナノート』 より一部抜粋
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