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尖閣に中国、ロシア軍艦が同時に出現。日本は何を試されてるのか?

先日、中国とロシアの軍艦が尖閣諸島周辺の接続水域に侵入した問題で、外務省はすぐさま中国側に厳重抗議をする一方、ロシアに対しては抗議を行いませんでした。そもそも、なぜロシアは一見何のメリットも無いように感じられるこのような行動を取ったのでしょうか。そして日本政府の対応は正しかったのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんが、複雑な日米中ロ関係をわかりやすく解説してくださっています。

中国、ロシア軍艦が尖閣接続水域に。何が起こっているのか?

皆さんご存知のように、ロシア軍艦と中国軍艦が8~9日、相次いで尖閣諸島周辺の接続水域に入りました。今回は、この問題について考えてみましょう。

中国は、「戦略的」行動

まず、中国について考えてみましょう。中国の動きには、一貫性があります。1968年、国連の調査で、尖閣周辺に石油資源があると発表された。1970年代はじめ、中国は、突然「尖閣はわが国固有の領土」と主張しはじめた。しかし、中国は当時、経済発展のために日本の協力を必要としていた。それで、大きな問題にはなりませんでした。

08年、リーマンショックから「100年に1度の大不況」が起こります。これで中国は、「アメリカは沈んだわが国はもっと自由に行動できる!と確信します。10年9月、「尖閣中国漁船衝突事件」勃発。明らかに中国が悪いにもかかわらず、彼らは「逆ギレ」。レアアースの禁輸など、過酷な制裁を日本に課し、世界を驚かせました。この頃から中国は、「尖閣はわが国固有の領土であり、『核心的利益』である!』と世界中で公言するようになっていきます。2012年9月、日本政府、尖閣を「国有化」。これで日中関係は、「戦後最悪」になってしまいます。

2012年11月、中国は、ロシアと韓国に、「反日統一共同戦線」構築を呼びかけた。この戦略の骨子は、

(必読、完全証拠はこちら。→●反日統一共同戦線を呼びかける中国

これ以降、中国は、領海侵犯領空侵犯を常態化させ、2013年11月には尖閣も含む防空識別圏を設定し、その行動を、徐々に徐々に、エスカレートさせている。彼らの言動には一貫性があるので、「戦略的行動」と見るべきなのです。目標は、当然「尖閣を奪うこと」。そして、日本が譲歩すれば、中国自身が宣言しているように「沖縄」も安心できなくなります。

中国は、まず言葉で宣言し、行動でも言葉のとおりに動いている。にもかかわらず、「いまの時代に尖閣侵略なんてありませんよ、あんた」というのは、究極の「平和ボケ」(あるいは買収されている)です。中国軍艦が接続水域に入ったこと。彼らの行動には一貫性があるので、正直驚くに値しません。

中国よりロシア軍艦が先に

問題は、中国の軍艦より前にロシア軍艦が接続水域に入ったことでしょう。産経新聞6月10日から。

防衛省などによると、9日午前0時50分ごろ、中国海軍のジャンカイI級フリゲート艦1隻が久場島北東の接続水域に入ったのを海上自衛隊護衛艦「せとぎり」が確認。フリゲート艦は約2時間20分にわたって航行し、午前3時10分ごろ、大正島北北西から接続水域を離れた。

これに先立ち、8日午後9時50分ごろ、ロシア海軍のウダロイ級駆逐艦など3隻が尖閣の久場島と大正島の間を南から北に向かって航行しているのを海自護衛艦「はたかぜ」が確認した。9日午前3時5分ごろに接続水域を離れた。

これは、なんなのでしょうか?

アメリカは、「中国とロシアが、日米をけん制している」と見ています。つまり、「中国とロシアは一体化して動いている」と。

尖閣接続水域侵入 米政府、日米同盟揺さぶりに警戒 自衛隊と連携し監視
産経新聞6月10日(金)7時55分配信

【ワシントン=青木伸行】米政府は8日、中国、ロシア海軍の艦船が尖閣諸島周辺の接続水域に一時入った事態について、日本と日米同盟への牽制(けんせい)と受け止め、自衛隊と緊密に連携し警戒監視活動に当たっている。

政府は、「状況について報告を受けており、日本政府と連絡を取っている」(国務省東アジア・太平洋局)と強調している。

なんなのでしょう、この事態?

中ロ関係の今

つい最近安倍さんとプーチンがソチで会談し、「劇的に関係が改善されたのでは?」と思っていましたが…。自然に考えたら、「やはりプーチンは信用ならん奴だ!」となります。どうなんでしょう?

まず、ロシアについて、日本人は、勝手にこんな風に考えています。

「ロシアは、本音では反中。結局、分裂する」

これは、世界一の大戦略家ルトワックさんに言わせれば、「発明」ですね。「日本にとって都合のいい」ロシアを、勝手に「発明」したのです。

確かにロシアは、本音では反中」です。しかし、「反〇」でも、同盟関係になったり、共に敵と戦うことすらあります。たとえば、2次大戦でアメリカは、最大の仮想敵ソ連と組んでドイツ、日本と戦いました。当時の日本の専門家が、「反ソのアメリカが、ソ連と引っ付くなどありえない!」と分析していれば、大間違いだったことになります。そう、中国とロシアがお互い軽蔑し合っていたとしても、利害が一致すれば引っ付くのです。

では、両国を結び付けている「利害」とは何でしょうか? そう、「アメリカ打倒」です。ロシアは、2014年3月の「クリミア併合」後、過酷な制裁を課され、経済的にとても苦しくなっている。そんな中、中国は制裁に加わらず、はっきりとロシアの味方についた。孤立したロシアにとって、中国は事実上の同盟国」なのです。私たちは、このことをはっきり自覚しておく必要があります。

安倍総理は、確かに親プーチンですが、それでも制裁に加わっている。ロシアから見ると、中国より、やり方が狡猾に見えるのです。ですから、今回のロシア軍艦の動きも、中国が頼んでロシアが応じたのでしょう。ロシアにとっては、一見何のメリットもない行動ですから。

米ロ関係の今

ここまで読んで、昔からの読者さんは、疑問に思うでしょう。

「ええ?!北野さん。『AIIB事件』で目覚めたアメリカは、中国を打倒するために、ロシアと和解しているのでは?」

そうなんです。アメリカとロシアは、AIIB事件後、共同で

を解決し、以前より関係が良好になっています。実際、ケリー国務長官とロシアのラブロフ外相は、付き合い始めたばかりの彼氏彼女のように頻繁に電話し、会っている。

ところが、普段は複雑になるので書かない事実がある。実をいうと、アメリカの対ロシア戦略は分裂しているのです。オバマ国務省は、「ロシアと和解し中国を打倒する」というリアリズム路線。一方、国防総省は、「中国もロシアも両方叩け!」という、「単独覇権路線」なのです。そして、ペンタゴンは、NATOのさらなる強化と東方拡大を進めています。

なぜ、国防総省は、「反プーチン」なのか?アメリカを中心とする有志連合軍は、1年ISを空爆し、ほとんど戦果をあげられなかった。ところが、ロシア軍が2015年9月30日に参戦。ロシアは、ISの石油インフラに、容赦ない空爆を繰り返し、「資金源」を断つことに成功。結果、ISは、アッという間に弱体化し、ロシア軍はわずか半年で撤退をはじめた。

要するに、米国防総省は、「ロシア軍はかなり強いことに気がついた。それで、「NATO強化と東方拡大政策」をますます熱心に推進している。これがプーチンを苛立たせ、中国との関係を切れないでいるのです(国内で、「対〇国政策」が分裂していることは、よくあります。たとえば、アメリカ財務省は親中国。国防総省は、はっきり反中国です)。

日本とロシアの関係

プーチンは、安倍総理が親プーチンであることを知っています。しかし、安倍総理の微笑みの裏に、「島返せよ!という意図があることも、もちろん知っている。総理が、「経済協力8項目」を提案した裏に、「島返せよ!」という意志があることを知っている。それでも、現在の苦境を脱するために、日本との関係を改善させたい。

しかし、一方で、「安倍は、結局アメリカに逆らえない」という思いもある。ソチで、安倍総理と仲よく話して、日ロ関係がよくなった。しばらくするとオバマさんが来て、広島を訪問。安倍さんの訪ロで少し悪くなっていた日米関係が、また良好になってしまった。そして、G7諸国は、「対ロシア制裁継続で一体化している。これが、またプーチンを苛立たせます。

つまりロシアから日本を見ると、「安倍総理は、確かに親ロシアだが、アメリカから行動を制限されていて限界がある」。そのアメリカは、欧州ではNATOを強化し、「反ロシア包囲網」を築いている(米国防総省主導)。ですから、プーチンは、思い切って日米の方に来られないのですね。

日本は、どうするべきか?

この質問に答えるためには、「原点」に戻る必要があります。原点は、中国の「反日統一共同戦線」戦略です。中国は、アメリカ、ロシア、韓国と「反日統一共同戦線」をつくろうとしている。上策は、「敵の戦略を無力化すること」。となると、日本は中国と逆のことをすればいい

  1. アメリカとの関係をますます強固にする
  2. ロシアとの関係をますます強固にする
  3. 韓国を中立化させる

こういう視点から今回の事件を見ると、日本政府の対応はパーフェクトでした。

菅義偉(すがよしひで)官房長官は9日の記者会見で「中国が尖閣諸島に関する独自の主張を行い、これまで公船による領海侵入などを行う中、緊張を一方的に高める行為で深刻に懸念をしている」と強い不快感を示した。

その上で中国だけに厳重抗議した理由について「ロシアはそうした事情がなく、同様の対応は行っていない。ロシアに対しても必要な注意喚起は行った」と述べた。

つまり、「中国は尖閣の領有権を主張している」、「ロシアは尖閣の領有権を主張していない」。だから、中国にだけ厳重抗議した」というのです。正しいですね。

読み返してみて、現在の日米中ロ関係はとても複雑だなと思います。今の世界情勢は、1930年代並に移り変わりが激しい。1930年代、日本は、中国に見事に孤立させられ、敗戦への道を歩きはじめました。今回は、賢明に、米ロを味方につけ中国を孤立させ戦争を回避しましょう。

image by: Gennady Dolgov / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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