アメリカではトランプ氏が大統領選挙共和党候補に選出され、フランスでは極右政党が台頭、イギリスではEU離脱を巡る国民投票が行われるなど、新自由主義の限界が世界に不安定な空気を蔓延させています。メルマガ『国際戦略コラム有料版』の著者・津田慶治さんは、他国に例を見ない礼儀正しき民族の国・日本こそが世界の模範となるべきとし、そのためにこの国が今後進むべき針路を提示しています。
日本の時代が来る
日本の価値は、江戸時代に論語を多くの国民に初等教育で教えたことで、礼儀正しい民族にしたことである。今後の世界の模範となることで、日本が再評価されることになる。その検討。
ハーバードで教える日本の価値
『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(佐藤智恵著、PHP新書)にハーバード大学のMBAで教える日本の素晴らしい価値が書いてある。
トヨタアメリカで、現在幹部の米国人が初めて幹部として入社したとき、張米国社長から言われたことが、「あなたが優秀であることはわかっているので、誇れるところを言うのではなく、うまくいっていないことを報告してください。それを皆で考えましょう。」と言われて、今までの米国の会社とは違い、ビックリしたという。米国の会社では、失敗していることを報告することはなく、失敗したらクビになるため、どう失敗を隠すかを考えたという。
「JR東日本テクノハートTESSEI」(以下テッセイ)の奇跡が載っている。従業員のやる気を引き出すために、幹部が現場を見て、従業員からの改善の提案を採用して、新幹線の折り返し時間7分間で清掃を終えることができるようになったという話。従業員のやる気を引き出す方法として、学生は賃金を上げるとか、優秀な従業員を褒めるとかの方法を提案するが、そうではなく提案を採用するということでビックリするという。
(参考)●奇跡の7分間。新幹線の清掃員が世界中から賞賛される理由
福島第二原発を救った「チーム増田」には、強力なリーダーシップ論があり、増田さんが知っている情報をすべて白板に書いて、全ての作業員に知らせて、危機のアイデアを作業員から集めて、危機を乗り切ったという。トップダウンではなく、危機時には両方向が必要なのであるということであるが、これも日本では普通に行われている。
というように、従業員とトップの関係が近いか、相互信頼ができていることが重要なのである。
フランクリンの十三徳
米国在住のりばてぃさんが、ベンジャミン・フランクリンが理想とする人間の生き方や美徳をまとめた「フランクリンの十三徳」が、日本の武士道と同じ事を言っているという。
- 節度を持て。食べすぎ、飲みすぎに注意。
- 寡黙であれ。誰かのためや、自分のためにならないことを話すな。無駄口をたたくな。
- 秩序を保て。整理整頓。時間厳守。
- 覚悟を持て。やると決めたら必ず実行しろ。
- 倹約しろ。誰かのためや、自分のためにならないことに金を使うな。浪費するな。
- 勤勉であれ。時間を無駄にするな。常に有益なことに努めろ。不要な行いを排除しろ。
- 誠実であれ。人を害する嘘をつくな。私心を捨て、公正に考え、発言しろ。
- 正義を貫け。人を傷つけたり、人へ与える恩恵を怠るな。
- 偏るな(中庸であれ)。極端を避けろ。怒っても当然と思える時でも感情に任せて怒るな。
- 身を清めよ。身体、衣服、住まいの不潔を黙認するな。
- 平静を保て。小事や日常的に起こる出来事に騒ぐな。
- 貞操を守れ。性交は健康維持や子づくりのためのみとし、性欲に溺れて自他の平安や信用を傷つけるな。
- 謙虚であれ。イエス及びソクラテスに見習うべし。
で、イエス及びソクラテスに見習うべしは日本の武士道にはないが、ほかの項目はすべてが日本の武士道や石門心学や論語で書かれていることである。しかし、米国では、この「フランクリンの十三徳」を体現している人はいずに、理想的な人として見られているのみである。
しかし、日本人の中では、この「フランクリンの十三徳」を体現している人が多くいることにビックリするようである。
(参考)●【日本再評価】「ベンジャミン・フランクリンの13の美徳」は日本文化では当たり前
なぜ、日本人だけが体現できるのか
倫理は、衣食足りて礼節を守るというほど、極端な格差社会ではなく、最低でも衣食が足りた時代にしか、多くの人が体現できないが、この衣食が足りている人が日本は多かった。総中流社会という社会を実現できたことによると見る。
もう1つが、教育である。江戸時代、寺子屋での教科書は、論語をベースとしていたことで、国民の大多数が教育を受けたことで、論語的な素養が一般的になり、その上に商売人の倫理を説いた石門心学や二宮尊徳のビジネス哲学、渋沢栄一の合本資本主義、近江商人の三両一両得などの倫理と経営が一体になった経営哲学が生まれたのである。その影響を受けて、松下幸之助の水道哲学なども出た。
従業員を一番守るべき人と見て、その従業員が独り立ちすることを応援し、お客と地域社会の役に立つことが重要という哲学を古くからある企業は持っている。上下の信頼、社会との信頼により企業は成り立つという哲学を持っている。このため、日本人、日本企業は、困っている人を助けるという行動に出るのである。
論語は中国で生まれたが、論語は大夫の学問であり、大夫とは科挙の試験に合格した官僚のことである。上流階級の学問であり、民衆には関係ない学問であった。このため、今でも民衆に浸透していない。
中国は、近代以降、国が戦乱になり、共産党は論語を弾圧したので、国民に論語を教えることはなかったのである。やっと、習近平政権で、論語を認めて、学習し始めるようであるが、今の中国の状況では、どこまで定着するかわからない。それは、もう1つの衣食足りて礼節を守るができるかどうかにかかるようだ。格差社会を変革できるかどうかである。
その他社会では、論語というような倫理体系を確立した学問がないので、体系的に教えることができないのである。その代わり、宗教が存在して、宗教哲学として存在するが、宗教を信じる必要があり、信仰の自由で国として強制ができないことになる。
もう1つが、格差の少ない社会が西欧の一部と日本にしかないことである。
現在の社会現象
米英など西欧では新自由主義という政策で、あまりにも格差社会が行き過ぎたため、ポピュリズムが台頭してきた。米国の場合、ドナルド・トランプというデマゴーグ(扇動家)が共和党の指名候補になり、いままでないがしろにされてきた白人低所得者層の反撃だと言われている。
また英国では6月23日にEU離脱を巡る国民投票が実施されるが、離脱シナリオでは英国経済は混乱し、結果として損するのは庶民だということは最低限の経済観念を持っている人なら誰にでもわかることだが、移民に職を奪われていると考える英国の低所得者層の排他主義や「エスタブリッシュメントにイッパツ喰らわす」というリベンジ心理が、離脱という、自分で自分を痛めつける方向へ英国の有権者を向かわせている。
フランスでも極右政党が台頭しているし、ドイツでも難民受け入れを拒否する極右政党が出てきた。このように貧富の差が限界を超えると、社会は新自由主義を否定して、独裁国家に逆戻りしてしまうことになる。自由経済が富の配分に失敗したとき、万人に安定を約束する独裁者が登場するのである。
日本の進むべき道
日本も新自由主義を掲げて、改革を主導した竹中さんがいるが、このような新自由主義の行き着くところが米英の最近の政治状況からわかり、日本では、早期に破棄するべきなのである。
理想は、中庸である。社会主義でもなく、新自由主義でもなく、平等な社会でもなく、格差を広げないような施策と少数でも衣食が足りなくなることがないような社会保障制度がある社会なのだ。
このためには、累進課税制度と消費税増税などを通じて、財政の持続可能な安定を図ることである。富者が貧者に対する寄付を行うことを奨励することも必要である。
経済成長ではなく、安定した社会システムを目指した国民の生活を守る経済であるとみるがどうであろうか?
そして、日本人の安定した社会や秩序を世界の規範とする必要がある。規範になったら、それを世界に広げるべく、日本人は世界に出ていくべきである。
さあ、どうなりますか?
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『国際戦略コラム有料版』より一部抜粋
著者/津田慶治
国際的、国内的な動向をリアリスト(現実主義)の観点から、予測したり、評論したりする。読者の疑問点にもお答えする。日本文化を掘り下げて解析して、今後企業が海外に出て行くときの助けになることができればと思う。
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