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コメダ珈琲、本日東証1部上場。サンマルクカフェとは何が違うのか?

今回は、喫茶店チェーン「珈琲所コメダ珈琲店」を展開するコメダの事業持株会社、コメダホールディングス<3543>(6/29東証1部新規上場)を、サンマルクホールディングス<3395>と比較してみます。本来、バフェット手法で企業価値を分析する場合、10年間分のデータが必要ですが、新規上場企業であっても、似た業界・業種の企業とROEやEPS成長率を比較することで、今後の業績の伸びをある程度予測することが可能です。(『バフェットの眼(有料版)』八木翼)

コメダHD<3543>をバフェット流12の視点でチェックする

6月29日、東証1部に新規上場

喫茶店チェーン「珈琲所コメダ珈琲店」を展開するコメダの事業持株会社、コメダホールディングス<3543>が6月29日、東証1部に新規上場します。

この企業の特徴は、スタバやドトールのようなコーヒーそのものではなく、そのサイドメニューにあります。なかでも有名なデザートが「シロノワール」ですね。デザートに焦点を当てることで、女性客を狙っています。

私が以前分析した企業に、サンマルクホールディングス<3395>という企業があるのですが、コメダ珈琲はこのサンマルクカフェと業態が非常に似ています。

サンマルクは、焼き立てパンを特徴にのし上がってきたカフェです。最近では目にする人も多いのではないでしょうか?私の現地調査によれば、8割方は女性が利用しているので、もしかすると男性の方はあまりご存知ないかもしれません。

しかし利益率は抜群にいい。安定感もある。自己資本率も高い。過去10年、赤字になったことがない――コメダ珈琲にも、そうなる可能性があるのではないでしょうか?

そこで今回は、サンマルクホールディングスの業績と、コメダホールディングスのIPO情報を比較しながら、バフェット流12の視点で企業価値を検討してみましょう。

Q1:その企業は消費者独占力を持っているか

私は以前、サンマルクカフェで4時間過ごしたことがあるのですが、その際、このカフェの収益率が高い理由をたくさん目にしました。

1. トイレは男女兼用が1つと女性用が1つしかない

女性優位を鮮明に打ち出し、女性に支持されていました。そのため、店内は女性が多く、食べこぼしも少なくて、テーブルを汚す客が明らかに少なかったです。お昼時に行ったのですが、スタッフが掃除しなくても店内はきれいでした。

2. 人が並ばない

焼いたパンを取っていただき、清算するだけですので、待ち時間がありません。また、パンを選ぶ際、焼き立てが出てきたりする偶発的な楽しみもあります(普通、すでに焼いたものを取るように促しそうなものですが、「焼き立てをどうぞ」と言われるのは嬉しかったです)。焼き立てが来ない時もありますが、それがまたいいんですよね、偶発的で。

3. 「小麦」をあつかう

私は小麦が苦手ですが、小麦はファストフードでは欠かせません。マックもモスもミスタードーナッツもサブウェイも、世界中にあるラーメン店も、みんな小麦がメインの商品です。小麦は血糖値の急上昇を促し、食欲をさらに刺激する傾向があるのです。サンマルクカフェではパンをメインにすることで、これを見事に達成していました。

しかもここ、居心地がいいんです。食べながら長居してしまいます。当然、食べた後に血糖値の急低下が起こり、甘いものが欲しくなります。そうなれば、デザートまで売れてしまうんです。おいしいビジネスモデルです。恐ろしいですよね。

4. 「すごくいい立地」ではない

駅中とかにはないんです。そのため、混んでいるというイメージもつきませんし、家賃も安いのでしょう。財務内容が他社より明確にいいのです。

以上のことから、サンマルクには消費者独占力があると考えたのですが、このことは、コメダ珈琲にもほぼ当てはまります。コメダ珈琲はパンを主力商品としていませんが、デザートで血糖値を上げる戦略は明白です。

コメダ珈琲が消費者独占力を持つ可能性は十分あるでしょう。

Q2:その企業を理解しているか

理解しています。いわゆるカフェ事業を主体とししています。

Q3:その企業の製品・サービスは20年後も陳腐化していないか

このチェーン店は、他のどのカフェよりもデザートをメインにしていることが特徴です。小麦や砂糖には中毒性があります。

今後、科学的に砂糖の中毒性や有害性が証明されたとしても、JTのたばこ事業のように、パンの販売が禁止になることはあり得ないと考えます。

20年後も全く問題なく、事業を続けている可能性が高いでしょう。

Q4:その企業はコングロマリットか

カフェ・レストラン事業に専念しており、コングロマリットではありません。

 

Q5:その企業の1株当たり利益(EPS)は安定成長しているか

【コメダHD(IPO情報のみ)】

決算年  EPS(円/株)
2016   94.2
2015   73.5 

年平均EPS成長率:?

【サンマルクHD】

決算年  EPS(円/株)  前年比成長率
2015   185.89   9.2
2014   170.27   7.4
2013   158.52   -0.5
2012   159.31   15.7
2011   137.73   -13.0
2010   158.25   16.7
2009   135.66   0.9
2008   134.43   10.1
2007   122.06   1689.7
2006   6.82

年平均EPS成長率:11.7%

成長率は長期的に見る必要があるので、現段階では判断できませんね。しかし、EPSは伸びています。安定したFC化で集客ができるのであれば、店舗の伸びとともに、売上は着実に上がっていくでしょう。

同じビジネスモデルですので、成長率にそこまで差は生まれにくいです。

Q6:その企業は安定的に高いROE(株主資本利益率)をあげているか

【コメダHD(IPO情報のみ)】

決算年  ROE
2015   9.4 %
2014   4.2 %
2013   2.7 %
2012   12.3%

平均ROE:?

【サンマルクHD】

決算年  ROE
2015  10.9%
2014  10.8%
2013  10.7%
2012  11.7%
2011  10.9%
2010  7.5%
2009  6.6%
2008  6.8%
2007  6.3%

平均ROE:9.1%

サンマルクホールディングスのぶれの少なさを見ると、少し安定しない感じがありますね。上場していないため、当時の正確な原因は不明です。しかし、2013年から2015年のROEでは、徐々に勢いを取り戻しつつあります。上場企業ではなかったので、そこを探ることは困難かもしれません。

Q7:その企業は強固な財務基盤を有しているか

財務基盤を見る際は、自己資本率が良く使われますが、それはバフェット的にはNGです。長期債務に対して、どれだけ稼ぐ力を持っているかが重要と考えています。

【コメダHD】

うーん、正直微妙ですね。全ての返済に7年間かかるというのは、かなりのリスクです。この点は注視しておく必要があります。

今期の長期負債(千円):31,245
今期の税引き後利益(百万):4,125
長期負債/税引後利益(年):7.57
(長期負債を税引き利益で返済するのに必要な年数)

【サンマルクHD】

すぐ返せます。まったく問題ありませんね。

今期の長期負債(円):547,721,000
今期の税引き後利益(百万):4,129,685,000
長期負債/税引後利益(年):0.13
(長期負債を税引き利益で返済するのに必要な年数)

こうして見てみると、財務内容はサンマルクホールディングスに軍配が上がりそうですね。コメダを買うのであれば、サンマルクホールディングスを買った方がお得なのかもしれません。

Q8:その企業は自社株買い戻しに積極的か

今期発行済み株数:0
10年前の発行済み株数:0
過去10年間に減少した株数:0.00
減少した割合:0.00

買い戻しも何も、まだ上場していませんので、このチェック項目は不明です。

Q9:その企業の製品・サービス価格の上昇はインフレ率を上回っているか

インフレ率は上回っているでしょう。私も喫茶店にはよく行くのですが、案外値付けが高いんですよね、こういうお店の商品は。それでもお客が入るのは、モノではなく体験を売りにしているからです。

シロノワールなども、食品を販売している部分ももちろんありますが、スマホで撮影しやすく、FacebookやTwitterなどで話題になりやすいことも、人気を支える1つの要因となっています。

Q10:その企業の株価は、相場全体の下落や景気後退、一時的な経営問題などのために下落しているか

上場前ということで、公開価格ベースで計算するとPER20.8倍ですね。

・EPS 94.2円/株
・株価 1960円/株
1960/94.2=20.8倍

サンマルクホールディングスの株価が15.37倍であることを考えると、少し割高でしょう。同じレベルまで下がってきて初めて対等といえそうですね。

Q11:株式の利回りと利益の予想成長率を計算し、国債利回りと比較せよ

ここでは、

・配当はなし
・過去10年のPERはサンマルクホールディングスと同水準
・ROEも同水準
・BPS(一株当たり純資産)は売り出し価格の1960円と仮定(これは微妙ですが)

という仮定の下計算してみます。

以下は計算です。

【1.予想成長率を求める】

まずは株主資本の予想成長率を求めましょう。

(必要な値)
・10年平均ROE:9.1%
・配当性向:0%

(式)
・株主資本の予想成長率=10年平均ROE(1-配当性向)

(答え)
株主資本の予想成長率:9.1%

【2.予想BPSを求める】

さらに、今求めた、株主資本の予想成長率を使って、10年後の予想BPSも求めます。

(必要な値)
・直近のBPS:1,960.00
・株主資本の予想成長率:9.1%

(式)
・10年後の予想BPS=直近のBPS×(1+株主資本の予想成長率)^10
(答え)
10年後の予想BPS:63996.6円 ¥4,698.5

【3.予想EPSを求める】

この10年後の予想BPSに、平均ROEをかけます。すると、10年後の予想EPSが得られます。
(必要な値)
・10年後の予想BPS:¥4,698.5
・10年平均ROE:9.1%

(式)
・10年後の予想EPS=10年後の予想BPS×10年平均ROE

(答え)
10年後の予想EPS:¥429.29

【4.10年後予想株価を求める】

さて、予想EPSを求めたら、これに10年平均PERを掛ければ、10年後の株価を求めることができます。

(必要な値)
10年平均PER:26.8
10年後の予想EPS:¥429.29

(式)
10年後予想株価=10年平均PER×10年後予想EPS

(答え)
10年後予想株価:¥11,495.43

【5.年間期待収益率を求める】

10年後の予想株価を使って、年間にどれくらいのリターンが期待できるのかを計算します。

(必要な値)
・10年後の予想株価:¥11,495.43
・現在の株価:¥1,960

(式)
・年間期待収益率=((10年後の予想株価/現在の株価)^1/10)-1
(答え)
年間期待収益率:19.4%

【結果】

そこそこの収益となります。というのも、1株当たり純資産がサンマルクホールディングスに比べ、高いからです。

1株を1960円で売り出すということは、基本的には、1960円の資産が増えることになり、BPSは1,960円といってもいいのですが、当然そこには手数料などがかかってきます。

BPSが大きいと、ROEに掛ける額が大きくなりますので、当然、その年の収益増加が期待できます。

この計算方法は、その収益をもとに、将来の株価を計算していますので、BPSは大きい方が稼げる計算になるのです。

あとは、ここでは仮に配当性向を0として計算していますのでその点を考慮に入れる必要があります。

ROEがサンマルクホールディングスと同程度であれば期待できそうですね。

Q12:株式を疑似債券と考え、期待収益率を計算せよ

こちらも同様に、

・配当はなし。
・過去10年のPERはサンマルクホールディングスと同水準。
・EPS成長率も同水準。
・BPS(一株当たり純資産)は売り出し価格の1960円と仮定(これは微妙ですが)

と仮定します。

【1.10年後BPSを求める】

まず10年後のBPSを求めます。過去10年の平均EPS成長率に1を足して10乗したものに、現在BPSをかけます。これが10年後のBPSとなりますね。

(必要な値)
・年平均EPS成長率:7.3%
・現在BPS:1960.00 

(式)
10年後BPS=年平均EPS成長率^10×現在BPS

(答え)
*10年後BPS(円/株):3951.2 

【2.10年後EPSを求める】

今求めた10年後BPSに過去10年平均ROEをかけます。これが10年後のEPSです。
(必要な値)
・過去10年平均ROE:9%
・10年後BPS(円/株):3951.2 

(式)
10年後EPS=10年後BPS×過去10年平均ROE

(答え)
*10年後EPS(円/株):361.0 

【3.10年後予想株価を求める】

さらに、過去10年の平均PERをかけることで、10年後の予想株価が算出されます。

(必要な値)
・過去10年平均PER(倍):26.8
・10年後EPS(円/株):361.0 

(式)
10年後予想株価=過去10年平均PER(株価/EPS)×10年後EPS(円/株)

(答え)
*10年後予想株価:9,667.0 

【4.年間期待収益率】

この予想株価を現在株価で割り、0.1乗し、マイナス1したものが、年間期待収益率となります。

(必要な値)
・10年後予想株価(円/株):9,667.0 

(式)
・年間期待収益率=((10年後の予想株価/現在の株価)^1/10)-1

(答え)
*期待収益率(%/年):17.3%

【結果】

こちらはEPS成長率の値を用いた場合ですね。サンマルクホールディングスを超えているのは、先ほどと同様の点が指摘されますが、悪い値ではありません。

結論

当たり前ですが、バフェットの手法で分析する場合は、10年間分のデータがなければいけません。

しかし、似たような業界で、似たような業種の企業であれば、そのROEやEPS成長率の値を使い、業績の伸びをある程度予測することが可能です。

個人的には、サンマルクホールディングスの株をすでに保有していますので、コメダホールディングスの株を追加購入する気はありませんが、カフェ業界は、高収益体質になりやすい企業が多いです。

その根本的な原因は、顧客に商品ではなく、体験を売っているからだと考えられます。カフェというのは、雰囲気を重んじています。商品だけが欲しい人というのは、コンビニに流れています。

体験をフランチャイズ化すれば、当然高収益になりやすいのです。今回のコメダ珈琲にしても、同じことがいえるでしょう。

計算結果も大事ですが、「企業が何を売っているのか?」という問いを深堀することが最も大事な作業です。今回の数字は、非常におおざっぱなものですので、あくまで参考程度にしておいてください。

継続は力なり!ダメでもともと(笑)八木翼でした。

image by: Wikimedia Commons

 

※本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年6月25日)

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世界一の投資家、ウォーレンバフェットの投資方法を参考に、日本の会社を分析するメルマガです。「株をやったけど全然うまくいかなった。」「デイトレードなんてやってる時間ないよ。。。」という方にぴったりのメルマガです。私自身が実験台となり、本格的な長期投資を行っています。

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